ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/10/23 歌舞伎座十月夜の部②「牡丹燈籠」

2007-11-17 23:59:58 | 観劇

下駄の音をカランコロンと響かせながら牡丹燈籠を手に現れる女の幽霊に浪人がとり殺されたという話は以前から知っていた。今回の舞台は中国の「牡丹燈記」をもとに三遊亭円朝がつくった怪談噺が原作。
ウィキペディアで「三遊亭圓朝」の項はこちら
舞台化も歌舞伎版(河竹新七脚本)と新劇版があり、その後者で仁左衛門と玉三郎が新橋演舞場で上演。18年ぶりに歌舞伎座での上演となった。狂言回しに円朝を登場させるのが大西信行脚本版の特徴らしい。今回公演の発表段階で「前回やった綺麗な方のお役はしない」と発言したようだが、上演履歴を観てその意味がわかった。前回は新三郎・お露との伴蔵・お峰の二役をしていたということだった。
気合たっぷりに書き始めていたのに、体調不良で仕上げられず・・・。明日は歌舞伎座顔見せなのでなんとか間に合わせてアップしよう。

【通し狂言 怪談 牡丹燈籠】
今回の配役は以下の通り。
伴蔵:仁左衛門 お峰:玉三郎
三遊亭円朝・船頭・馬子久蔵:三津五郎
萩原新三郎:愛之助 お露:七之助
お米:吉之丞 飯島平左衛門:竹三郎
お国:吉弥 宮野辺源次郎:錦之助     
お六:歌女之丞 女中お竹・酌婦お梅:壱太郎
〈第一幕〉 
旗本飯島平左衛門の娘お露は萩原新三郎への恋患いの気晴らしに医師の操る舟で乳母のお米とともに船で現れる。父・平左衛門が下女お国に手をつけて後妻にし、その継母とのそりが悪いお露はお米とともに別の屋敷に暮らしていた。そこに出会わした屋形船には隣家の次男坊で愛人の宮野辺源次郎と逢瀬をしているお国が乗っていて、互いをうかがう。こういう船どうしの行き交いはまことに花道のある大劇場の大掛かりな舞台装置の醍醐味である(「梅ごよみ」の冒頭もよかった)。
そのお露が死んだということで回向をしている新三郎の家。牡丹燈籠を下げて夜半に訪ねてきたのはお露とお米。幽霊になった七之助のお露のはかない美しさとお米の吉之丞のお嬢様大事の思いのこもった幽霊姿の迫力!スッキリ顔の愛之助の新三郎もお露が取り殺したくなるのもうなづけるいい男ぶり。案内をした下男の伴蔵が逢瀬を隙見すると女は骸骨に見えた。
伴蔵女房のお峰で玉三郎が登場すると客席がどよめく。貧乏人の女房で眉だけ落としたすっぴんメイクできったないのである(昼夜通しで観た方は「羽衣」の天女からで天と地ほどの違いに衝撃を受けられたようだ)。針仕事の得意なしっかり女房で、伴蔵との口喧嘩も混じる夫婦の会話はもう絶妙。仁左衛門と玉三郎の長年の共演で培われた息の合い方に惚れ惚れする。
突然伴蔵が怖がりながら虚空に向かって話を始める。お峰が事情をきくと、主の新三郎のもとにお露とお米の幽霊が通ってきているという。「コワイ~」といいながらお峰が伴蔵を押し倒すとドッと客席が湧く。お寺の護符で入り口を封じ金無垢の海音如来で身を守らせていた。ところがお米は伴蔵にお札剥がしを頼んでいるのだった。主を殺させるわけにもいかないが幽霊の祟りも恐ろしいと迷う伴蔵。女房のお峰は「伴蔵に主が死んだら生活に困るからお札剥がしの条件を百両欲しい」とふっかけることをけしかける。どっちに転んでも自分たちが立っていくようにという逞しい知恵だ。果たして牡丹燈籠が飛来すると百両が小判の音をさせて床に散らばった。お峰が「ちゅうちゅうたこかいな、ちゅうちゅうたこかい二十両・・・・・・」と数える間に伴蔵が護符を一箇所剥がすと如来像も刷りかえられ魔除けのなくなっていた新三郎はお露の幽霊についに取り殺された。
跡取り娘を失った平左衛門にお国は源次郎を養子に迎えると提案。受け入れられず、思い余って殺害をけしかけていると夫に密会の現場に踏み込まれる。必死の抵抗の末に源次郎が平左衛門と女中お竹を殺してしまい、ふたりは有り金を持って落ち延びる。
〈第二幕〉
一年後。伴蔵とお峰は百両を元手に故郷の栗橋で「関口屋」という立派な店を構えるまでになっている。平左衛門に刺された傷がもとで足萎えになった源次郎は、やはり栗橋で蒲鉾小屋で物乞いくらし。お国は茶屋笹屋で酌婦づとめに出てご贔屓にしてくれた伴蔵の妾となっているのは、源次郎の面倒をみるためだ。
お峰は第一幕とはうってかわった大店の女将さん姿で登場。白塗りにお歯黒もして立派な着物を着ているが、知り合いもいない土地で孤独な上に、成金暮らしで商売女に入れあげている伴蔵への嫉妬に苦しんでいる。馬子久蔵に酒をすすめて伴蔵の浮気相手を突き止めるあたりも三津五郎との芝居が絶妙。悋気が高じて目を剥くところなども可愛げがあって見ごたえ十分。長屋時代の知り合いのお六が訪ねてくると喜んで雇入れを夫に頼むことを約束。暮らしはよくなっても幸せでなくなったことを嘆くところがせつない。
ところが伴蔵は自分たちの過去を知る人間を家に入れることを叱責する。お峰は自分の寂しさをわかろうともせず、お国に入れあげている伴蔵をなじる。感情を爆発させ、幽霊に金をもらったことまで大声でわめきたてるので伴蔵はあわててお峰をたてる。ところがお六には幽霊がとりついたような素振りをみせ、ふたりは肝を冷やす。
 一方、お国は笹屋に入った若い奉公人お梅がお竹の実妹であることを知って驚く。しかもお竹の一周忌というその夜、蒲鉾小屋の源次郎が乱れ飛ぶ蛍の群れに見入るうちに気がふれて刀を振り回すうちにその刃で落命。お国も同じ刃で刺しぬかれる。因果応報にしろ、この場面は不思議に美しかった。
 最後は幸手堤の場面。伴蔵はお峰の機嫌をとって堤に誘う。金無垢の如来像を掘り出して別の土地に移ろうという。雨が振り出す中を伴蔵が穴掘り作業をするのを気づかうお峰だが、隙をねらって伴蔵はお峰に刀を振りかざす。雨の中での凄惨な殺しの場面というのは歌舞伎の見せ場のようだが、二人の立ち回りは本当に美しかった。ツケも入ってかどかどがきまる。傘を割いて上下にきまるところなどももううっとりする。
ついにお峰を刺し貫いて絶命を確かめた伴蔵。ところが仁左衛門の伴蔵はここで我に返る。自分のしたことをあらためて自覚する。単に口封じのために殺したというよりは、お露たちの怨念がとりついて暴走したのだとも思えた。とにかく何度も自分の頭に手をやり自分の頭がおかしくなったのではないかというしぐさ。そして玉三郎のお峰を抱きかかえて「お峰、おみね~っ」と号泣。そこで幕となった。

河竹新七版の舞台も観たことがない。そちらの最後は伴蔵がお峰に取り殺されるということのようで、そちらも早く観てみたいものだと思う。
しかし今回のバージョン、面白く見せてもらった。3組の男女の愛憎のドラマを円朝が狂言回しとなってぐいぐいとすすめて飽きさせない。

愛之助・七之助の純愛コンビはとにかくはかなく美しい。錦之助・吉弥の不倫コンビも魅力的。前半の錦之助の外見はカッコいいが間男がばれておたつくあたりの腰の引け具合も足腰の鍛錬がないとあそこまでできないのではと感心。後半、女を放っておけない気持ちにさせる情けない足萎えぶりもまた素敵。吉弥の惚れた男には何をしても添い遂げようとする情の深い逞しい女ぶりも見事だった。
そしてやっぱり三津五郎が活きた二役。円朝は颯爽とした話しぶりが長い芝居のアクセントになっていたし、馬子になると一転、愛嬌たっぷりの三枚目となる。玉三郎とのアドリブも入るやりとりも◎。ベテラン脇役の女方、吉之丞や歌女之丞の存在も貴重。

そしてやっぱり主役の二人が絶品。関口屋になってからの拵えの仁左衛門・玉三郎のポスター(写真参照)もあって、その前で立ち止まって溜息をつくしかない。このふたりの芝居の円熟期をしばらくは楽しませてもらえるかと思うと幸せを感じてしまう。

実際の第二幕のお峰の撫子の柄の帯がとてもいい感じだった。ポスターに写っていた帯とは別のもの。玉三郎丈のこだわりがあるように思えて花言葉をネット検索して調べると「いつも愛して、純粋な愛」というのが見つかった。お峰の愛をこんなところにも表現されていたのではないかと思うと胸が熱くなった。

10/14昼の部①「赤い陣羽織」
10/14昼の部②藤十郎の「恋飛脚大和往来」
10/14昼の部③玉三郎×愛之助の「羽衣」
10/23夜の部①三津五郎の「奴道成寺」