美内すずえの未完の漫画「ガラスの仮面」の通読はしている。過去に舞台化されたものは未見(創作能になった「紅天女」だけは観た)。
その「ガラスの仮面」が蜷川幸雄によって音楽劇として上演されるということで絶対はずせないと決意。主役はオーディションで選ぶ、その応募が2000人?!ということでどんどん注目され、私もしっかりさいたま芸術劇場公演の千穐楽チケットを確保。
彩の国ファミリーシアターの第1回目の公演ということも判明。夏休みだし毎公演先着30名のバックステージツアー企画付きということで、埼玉県芸術文化振興財団芸術監督としてのお役目を果たす役割もあるんだなぁと納得。
いつもの私ならバックステージツアーに必死になっていただろうが、なんと風邪がぶり返して前夜に発熱。いきなり秋になってしまったのかという寒くてしのつく雨の中を自転車でギリギリにさい芸に向かった。
1階サイドの席に漫画全巻を貸してくれた玲小姐さんと並んで着席。蜷川の舞台は開演前から舞台の上で役者さんたちが何かをやっていることが多いが、今回も姫川亜弓属する劇団オンディーヌメンバーがウォームアップしている。舞台の奥までサイドも搬入口まで全部見えるようにしているのが驚きだ。その奥をバックステージツアーの集団が見学しながら横切っていく!ここを見学させるのだろうとは思っていたが、それを観客にまで見せるわけねとまた予想を超えられたと苦笑。
今回の主な配役は以下の通り。
北島マヤ=大和田美帆 姫川亜弓=奥村佳恵
月影千草=夏木マリ 速水真澄=横田栄司
桜小路優=川久保拓司 源造=岡田正
姫川歌子=月影瞳 北島春=立石涼子
青木麗=月川悠貴 ニノ宮恵子=黒木マリナ
冒頭のオンディーヌで稽古着の若者が揃い歌い踊る場面は「コーラスライン」を彷彿とする。
奥村佳恵はオーディションを勝ち抜いた新人だが、バレエを長くやっていたということでバーレッスン場面から目立つ。美人でスラッと背が高くバレリーナの身のこなし。大和田美帆は4月の日生劇場の「風林火山」(感想未アップm(_ _)m)で武田信玄の愛妾役で好感を持っていたが、客席通路を中華屋の出前姿で登場して観客にからむ場面からガッチリツカミOK。奥村と並ぶと背が低いが静的美人に対して愛嬌たっぷりの可愛さでこれはナイスキャスト!
奥行きを見せる舞台はそのままに鏡の装置や美内すずえのイラストの大きなパネルが行ったりきたりのシンプルな舞台。
夏木マリの月影千草の存在感がものすごい。このカンパニーの堂々とした座頭。「紅天女」のパネルだけで5枚が後ろを行きかい、かつての美しかった顔のアップのイラストが後ろにあってもかつてはそういう女優だったのだろうと無理なく思わせる華やかさがある。彼女のソロ「紅天女」が響き渡るとさすが歌手だよ~と納得。
雨音が聞こえてきて月影千草がかつての自分が浴びた喝采の音だというような台詞があった。それが自分を支え、この夢をもう一度という思いが後継者探し・育成へと最後の命を燃やしているのだということがわかる。原作にはなかったこのモチーフがこの舞台に何度も登場して舞台を貫く。
そして蜷川の舞台に降る本水の雨。「オレステス」では鬱陶しかったのは劇場の大きさの関係があるようだ。今回は2回降ったがさい芸では大丈夫で非常に効果的だった。
原作にあった劇中劇が4本。冒頭の通読の記事にマヤが演じた役を列挙しておいたが、そこからも確認して以下の通り。①国一番の花嫁:ビビ、②若草物語:ベス、③たけくらべ:美登利、④ジーナと5つの青い壷:ジーナ。
①の猩紅熱でうなされるべスの演技のために雨に打たれるシーン。③のクライマックスの雨で真如の下駄の鼻緒が切れて端切れを美登利が投げるところ。いずれも場面転換で奥から次の装置が出てくる間に出演者がモップと雑巾で水を処理してしまう。
演劇コンクールの東京予選でオンディーヌとつきかげを同じ首位に持っていった亜弓の母で女優の歌子に月影瞳というのがまたうまい。娘との関係から歌い始める「オンリーワン」に月影千草が加わり、二人のデュエットもまたよかった~。
幕間にプログラムで出演者をチェックすると、レミゼなどのミュージカルのアンサンブルで見かける方がけっこう出ている!だから音楽劇としての歌唱のレベルが高くなるわけだ~。
オールメールシリーズの舞台で美しい女形を演じてくれた月川悠貴が劇団つきかげにいるボーイッシュな青木麗役というのもまた嬉しすぎるキャスティング。半端な女優が演じるよりもよっぽどハマっている。一角獣の紅一点・ニノ宮恵子がときめくのも無理はない。元々歌手だけに「翼」というソロも聞かせてくれる。
劇団「一角獣」の面々もパンクというかなんというかこれも魅力的で大道芸のパフォーマンスも見応えあり。全体的に曲もよかった(音楽:寺嶋民哉)し、音楽劇としてもしっかりと堪能できた!
演劇コンクールの全国大会では亜弓役の奥村のバレエの魅力を生かした舞踊劇で「サロメ」を見せたのも大胆。なぜダンスだけなのに演劇よとツッコミようはあるが、そこは省略ということで不問。
マヤと亜弓が「紅天女」をめざすライバルとして並び立ち、長大な物語の導入ができたところで幕切れとなったが、その「紅天女」のイメージを広げる演出が秀逸!能面をつけて紅天女に扮したダンスの達者さんが紅梅の枝を持って天空に飛び去っていった。これは冒頭の紅天女のパネルだけが上に飛んでいったのと呼応したんだ。
通路は何度も舞台の一部となり、サイド席の私たちのまん前でいろいろなキャストが歌ってくれる。その迫力!
「NINAGAWA十二夜」で客席を舞台と一体化させる効果を果たした鏡が今回も何度も客席を映し出す。出演者だけでなく観客が一緒につくりだすのが演劇だというメッセージが劇場中に歌声とともにこだました。
これはお子さん連れで観に来てもらって、演劇の支え手を増やしてもらうのにとてもいい舞台だったと思う。また、蜷川幸雄の舞台は「わかる人だけわかってくれればいい」というものから、こんなにわかりやすく素直な舞台までやるんだねぇと演出の幅の広さもまたまた実感した次第。
千穐楽のカーテンコール。デビューの奥村さんはすすり上げ、大和田ちゃんも涙を光らせている。二人と手をつなぐ夏木マリは座頭の満面の笑み。何度も幕が上がるうちに二人が左の袖から蜷川幸雄をひっぱり出して夏木の隣に並べる。夏木・蜷川の黒の衣裳が並ぶのもいい感じ。拍手が続くと蜷川は脇のキャストを前に出しながら自分は後ろへ後ろへ。幕が上がると予想していなかった状態でキャストが内輪ハグ状態の姿を見せてはあわててこちらを向いている。拍手が拍子をとった状態にもなり、東宝ミュージカル状態!最後には蜷川は何層もの列の後ろにいる。これはそうなることが多いけれど(笑)
ミーハー状態の一言も。速水真澄役の横田栄司、チラシの写真では心配だったが漫画そっくりの鬘で合格~。正面顔はちょっとごつめだったが、甘い横顔にやられた~。特に客席通路で歌っていたところ、私たちの席の正面にその横顔が~。自分の生きたいように生きるマヤの姿に義父の敷いたレールの上を歩いてきた自分の人生が揺さぶられる苦悩の表情もよかったし、「心はどこにある」のソロも合格~。ゴールドシアターで蜷川の舞台の主役抜擢に続く今回の二枚目抜擢は成功だったんじゃないかな。是非今後もこういういいお役をあててください、蜷川さん~。
桜小路優役の川久保拓司も爽やかだった。
写真は今回公演のチラシ画像。
大阪公演などもあるようなので、一見の価値ありとおすすめしたい。
ウィキペディアの「ガラスの仮面」の項はこちら
8/25追記
大和田美帆は「風林火山」で初見だと思ったら、その前にも2回観ていた。その時はあまり注目していなかったということで(^^ゞ
2007年10月「寝坊な豆腐屋」(勘三郎の清一が思いを寄せる純子役)
2005年3月「ファンタスティックス」(ルイーザ。歌が不安定って書いてある。成長してくれているんだと納得!)