ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

08/08/12 日航機事故から23年で実現したことと映画「クライマーズ・ハイ」

2008-08-12 23:59:46 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

1985年8/12に起きた日航ジャンボ機墜落事故から今日で23年。報道で今年ようやく実現したことを読んで、溜息が出た。以下、それぞれの公式サイトより一部を引用。
「事故から23年 17遺品を展示(毎日新聞)
日航によると、群馬県上野村の墜落現場から見つかった遺品のうち、約2700点が引き取り手のないまま羽田空港内で保管されている。(中略)遺品について、日航は当初、「だびに付して上野村の慰霊の園にまつりたい」との意向を遺族に示した。一方、遺族は「事故を忘れないためにも、遺品は保存すべきだ」と強く要望し、長く話し合いが続けられた。
日航が方針を変えたのは、05年に安全上のトラブルが相次いだのがきっかけ。墜落事故を「負の遺産」でなく安全意識の原点にしようと考え、06年4月、社員研修を主目的とした安全啓発センターを開設。事故機の一部や乗客が家族に残したメモなどを展示した。遺品についても、事故の悲惨さが伝わるものをと遺族と検討し、展示が実現した。見学は11日から3日間は遺族と関係者、18日から一般も受け付ける。」

「忘れたい過去、忘れぬ教訓に 日航機墜落、遺品を展示(朝日新聞)
(前略)JALは当初、これらを焼却し、灰を慰霊施設に納めるつもりだった。遺族の反発で焼却は取りやめになったが、保存や展示を求める遺族の意向には応じてこなかった経緯がある。ある幹部は「『早く忘れたい』、という思いが働いた」と打ち明ける。」

しかしながら、安全上のトラブルが絶えないことと遺族の方々の粘り強い働きかけで今年から公開が実現したという。それにこんなに長い年月を要するというところに溜息が出てしまった。会社が自分たちの失敗は早く忘れたいということで公開を応じてこなかったというのはなんという傲慢さだろう。これは日本人の国民性なんだろうか。と嘆きつつも、せっかくの展示実現だ。事故を知らない世代の若い職員にもきちんと教訓を伝えていくために役立って欲しい。

さて、今月の映画の日に娘と映画「クライマーズ・ハイ」を観ている。観るのがつらそうという予想もあってなかなか腰が上がらなかったが、ブログ仲間の皆さんの評判もよく、意を決して観てきた次第。結論的には見応えのある作品だった。
この歴史的な事故を忘れないためにも、簡単だがしっかりアップしておこう。

ウィキペディアの「クライマーズ・ハイ」の項より
原作者の横山秀夫が「上毛新聞記者時代に遭遇した日本航空123便墜落事故をもとに、事故時の群馬県の架空の地元新聞社を舞台にしたもの」とある。あらすじも出演者もそちらに詳しく書かれているので省略。
冒頭、職場の山登りの会の友人同士である悠木和雅(堤真一)と安西耿一郎(高嶋政宏)がそれぞれの息子と山でキャンプしている場面に少々遅れた。そのせいでストーリーがわかりにくいのかと思いつつ観ていく。
悠木は妻と離婚しているので息子とは一緒に暮らしていない。映画は悠木が老いてからその息子との関係性を修復するために安西の遺児の協力で安西と事故の起きた日に登るはずだった群馬県内最大の難関・谷川岳の衝立岩に登る場面と日航機事故の全権デスクになっての1週間が行ったりきたりするのだが、私には少々煩わしく感じてしまった。悠木も安西もワンマン社長の白河(山崎努)に振り回されていて、安西は会社を辞めようとするふんぎりをつけるための衝立岩登山だったが、悠木と待ち合わせの間にくも膜下出血で過労死。そしてこの1週間の最後で悠木にとっての衝立岩である白河を乗り越えるというクライマックスを迎えるというドラマだったように思う。だから登山家たちの用語の「クライマーズ・ハイ」ということなのだろう。

高嶋政宏はとにかくカッコはよくない役を熱演。植物人間になってしまった姿まで、頭をしっかり剃って本気モードはいい。
堤真一演じる悠木は新聞記者になる原点になった映画での「チェック、ダブルチェック」を信念のようにしてジャーナリストとして生きている。それを若手に伝える気概が素晴らしい。息子との葛藤もそれが息子に理解されていたことで乗り越えられそうな気配に最後は安心できるのだが、その揺れるまなざしも堤ならではの魅力。
堺雅人も常にスクープをねらう若手記者・佐山達哉をすごい迫力で熱演。「喪服の似合うエレクトラ」の弟オリン役から注目してきただけに、最近の大河ドラマの将軍家定さまでのブレイクも嬉しく、映画での活躍も頼もしい。
それになんといっても白河社長の山崎努の嫌らしい(セクハラだけでなく)人間ぶりが秀逸(笑)
若手女性記者・玉置千鶴子の尾野真千子も女性差別意識の根強い職場の中で必死に頑張る姿に1980年代の自分が重なってウルウル。
大久保・連赤事件のスクープで社会部長になった等々力庸平の遠藤憲一の魅力を今回初めて理解した。「覇王別姫」のような舞台よりも映像ではその魅力が生きるようだ。堤真一とのガチンコ場面や次第に応援モードになる男の複雑な感情を実に渋く見せてくれた。

1985年というと社会人になって3年くらい。職場の様子もいちいち自分の職場のそれを思い出しながら見ていた。そうそう電話中心でFAXが大会社の取引先から入っていっていたっけ。オンラインなんてまだまだだったとか・・・・・・。
この日航機123便の事故の報道の記憶も甦る。犠牲になった男性がご家族への遺書を手帳に書き込んでいて、それが報道された時と同様、映画の中でも読み上げられた時に涙が込み上げた。
悠木たちがスクープしようとして思いとどまった「圧力隔壁破損」が事故原因という報道もしっかり覚えている。遺体確認で全国から集まった家族たちに、地元紙として自社の紙面を届けるということへのこだわりがあったことなどは知らなかった。
新聞社という企業体の中で編集部門と販売部門との関係の物凄さなどにはあらためてびっくりさせられた。そういう騒乱まで引き起こしながらも「チェック、ダブルチェック」での確信を持てなければ「俺には抜けない」という悠木の姿に胸を打たれた。

観ていない方にはDVDででもいいから是非にとおすすめしたい。写真は発売予定のDVD。
監督は原田眞人ということで、過去の作品を見たら役所広司主演の「突入せよ!『あさま山荘』事件」を観ていた。連合赤軍事件でつながるのかぁ。「わが魂は輝く水なり」を早く書けということかなぁとまたあせる。