ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/10/20 錦秋演舞場祭り・勘三郎の「俊寛」

2007-10-26 23:58:20 | 観劇

【平家女護島 俊寛】近松門左衛門 作
これまでの俊寛は幸四郎、吉右衛門で計3回観た。
幸四郎の俊寛の感想はこちら
吉右衛門の俊寛の感想はこちら
勘三郎の「俊寛」は初めて。若いエネルギッシュな俊寛という評判をあちこちで見受けた。確か市川右近もそういう役づくりで演じていたはずとネット検索したらやはりそういう記事があった(→こちら)。「俊寛はおじいさんというイメージがあるが、史実上は30歳代後半。エネルギッシュで良いし、その方が喜怒哀楽の機微がはっきりする」とあった。そういう視点で観ると抵抗がなくなるかと思えた。
また、義太夫物は床本を探せというのを最近の鉄則にしているので検索してみつけた(→こちら)。歌舞伎ではふだん上演されない前段の「六波羅の段」と「鬼界が島の段」が紹介されている。俊寛の妻のあづまやが清盛入道の相手をするのを拒んで自害ののちに首を打たれたところを読んでから、「鬼界が島の段」にあたる部分を観ることができたのは効果が大きかった。

今回の配役は以下の通り。
俊寛僧都=勘三郎 平判官康頼=亀蔵
丹波少将成経=勘太郎 海女千鳥=七之助
瀬尾太郎兼康=彌十郎 丹左衛門尉基康=扇雀
直前に用意した床本テキストの「鬼界が島の段」への目通しは途中までとなったのがなんとも間抜け。まぁ前半の清太夫の置き浄瑠璃が聞き取れたのでよしとしよう。

やはり勘三郎俊寛は30歳代後半の人間が流人となってやつれているという感じがした。成経と海女千鳥の結婚を祝うところで妻のあづまやを想うあたりには色気も漂う。勘太郎・七之助のコンビもお似合いだ。亀蔵の康頼もこういう正統派の元公家役というのも実にいい。彌十郎の瀬尾太郎兼康、扇雀の丹左衛門尉基康の赤っ面・白塗りも実に好演。座組みのバランスのよさが生きている。
成経、康頼だけしか清盛の赦免が出ずにふたりが俊寛に対して申し訳ない思いで見つめるところも亀蔵・勘太郎の腰を折って俊寛を下から窺う様子がよかった。重盛の憐憫で俊寛が備前まで戻れるという赦免状はかなりもったいぶって扇雀の丹左衛門尉が読み上げるのだが、まさに芝居がかった運びで近松の脚本の上手さを感じてしまう。
しかしながら彌十郎の瀬尾から妻あづまやの死を知らされた俊寛は京に戻る意欲を失い、千鳥を自分の替わりに船に乗せて若いふたりの恋を成就させてやろうとする、その心意気の熱さを勘三郎が熱く演じるのも見ていて気持ちがいい。
七之助の千鳥は初日近辺で声が出ていないという情報があったが、私の観た20日にはずいぶん回復していたようで、クドキのところも語尾がちょっとかすれたくらいだった。普通の場面はなかなかいいと思ったのだが、クドキのところの動きのおかしさはあれは人形ぶりのし損ないなのかなんなのかがよくわからなかった。とにかくあの動きはちょっと見苦しかった。要研鑽!
俊寛と瀬尾の立ち回り。ここでの千鳥の助っ人ぶりはなかなか微笑ましくてよかった。ついに俊寛は瀬尾を殺して自ら罪人となって島に残り、千鳥を替わりに船に乗せることを丹左衛門基康の認めさせる。
船は島を出て行き、その姿が小さくなるのを声を限りに見送って、残った瞬間の思いだけは船に飛んでいってしまったような表情…。ここはそれまでの熱演から一転しての場面。ここらへんもなかなかよかったので、今回の「俊寛」は期待以上の満足度だった。
今月、東京の3劇場で競演状態の「俊寛」。国立の幸四郎は見送り。前進座の梅之助の「俊寛」を11/5に浅草公会堂で観る予定。
写真は今回の公演のチラシより勘三郎俊寛のアップ画像。
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