ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/01/08 歌舞伎座昼の部②吉右衛門の「俊寛」

2007-01-10 00:11:55 | 観劇

「俊寛」はこれまで幸四郎で2回観ているだけで、初の吉右衛門俊寛になる。どんな感じなのかなぁと期待しつつ観た。2005年の勘三郎襲名公演時の幸四郎「俊寛」の感想はこちら
3.「平家女護島 俊寛」
今回の配役は以下の通り。
俊寛僧都=吉右衛門  丹左衛門尉基康=富十郎
瀬尾太郎兼康=段四郎 丹波少将成経=東蔵
平判官康頼=歌昇   海女千鳥=福助
前回の康頼の東蔵が今回は成経。一番若くてお坊ちゃんの役だと思うのだが、無理なくそう見えるからさすがにベテランだ。お公家のほんわかした感じがあってよい。
歌昇の康頼は平氏の中の傍系で日が当たらずに謀反に加わった人物だと記憶しているが、若い成経という弟分の結婚の報告を年配の俊寛に口添えしてやっているようなしっかりした兄貴分という感じがした。

吉右衛門の俊寛は若いふたりがなかなか訪ねてくれないとすねたり、言い訳がきちんとされると機嫌を直し、年配者として立てるようにして目出度い報告をしにきてくれたとわかると、ニッコリと会心の笑みをみせての上機嫌となる。老人の我侭さと可愛さが感じられてここでまずグッと引き込まれてしまった。父としてと頼られる嬉しさも全身からにじみ出る。

そこに登場した福助の千鳥。海女なのにこんなに綺麗で色っぽかったら成経もすぐにりんぎょやってくれたくなったろうなと思いながら観ていく。ま、いいんじゃぁないかなぁと思っていたところ、自分だけ船に乗せてもらえないことを嘆く場面でやってくれてしまった。クドキの最中に胸を押さえて「アイタ」と言う台詞の声色がはずれている。昨年五月の「夏祭」のお辰でも「三婦さん」と呼びかけるところで媚びたような声を出していてガクッとしたのだが、今回の「アイタ」にも客席に変な笑いが起きていた。確信犯なのか?自分が主役でなく、シリアスな芝居の時にこういうのはルール違反だろう。くずしていい時と悪い時があると私は思うので、こういうのはやめて欲しい。俊寛と瀬尾の立ち回りに加勢してしまう時ももう少し遊びをみせずに一生懸命さのあまりというようにしてもらいたい。

瀬尾の段四郎が本当に憎憎しくていい。吉右衛門の俊寛も本当に惨めなまでの嘆きようで、俊寛のプライドも何もズタズタにして喜ぶ瀬尾の底意地の悪さが徹底的にみせつけられる。ここまでしっかりと敵役をやってくれると丹左衛門の富十郎とのメリハリがきいた。俊寛が父と頼ってくれた若い二人のために瀬尾を斬るということへのはずみがグンとつく。富十郎の丹左衛門も最初は年配の瀬尾を立てているが、最後は瀬尾の台詞の鸚鵡で意趣を返すところの小気味よさが際立った。この三人の芝居のよさ上手さが拮抗してすごい芝居になっていた。ベテラン3人で作り出す高揚感を感じた(顔見世の「先代萩」のよう!)

幸四郎の俊寛は現代劇での彼の芝居の延長に感じたが、吉右衛門の俊寛は質的に全く違った。幸四郎の俊寛は硬質で、吉右衛門の俊寛は感情の幅が大きく人間くさい。同じ役でも役者によってここまで違うというところが歌舞伎の面白さだ。
幕切れの船を見送る場面も大きく違う。吉右衛門の見得はきちんきちんと決まるのがいいのだが、岩場を蔓草を頼って登る途中に蔓草を身体に巻きつけて振り返る形できまるところが実に印象的。岩場に上った後、盆が回って客席の方向に遠ざかる船の見送り方が違う。幸四郎は手を振りながら「おーい、おーい」と声を限りに叫び続けるという芝居だった。吉右衛門はすがりついた松の枝が折れてから、茫然自失の態で無言でずっと目が船を追う芝居をずっと続ける。何も大きな動きをしない時間が長いこの芝居は全身から何を立ち上らせるかが問われる。私は吉右衛門の視線の先をイメージしながら、幕が閉まるまで双眼鏡で凝視してしまった。無言の中にこんなに集中する芝居はこれまで体験したことがなかった。まいりましたm(_ _)m

次は是非とも仁左衛門の俊寛を観てみたい。

写真は歌舞伎座の入り口ロビーにあった立派なお鏡餅。海老がとにかくデカイ。鏡開きまでのものかな。
以下、この公演の別の演目の感想
1/8昼の部①「松竹梅」「喜撰」
1/8昼の部③幸四郎の「勧進帳」


最新の画像もっと見る

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
気をとりなおして…。 (とみ)
2007-01-12 12:58:22
>ぴかちゅうさま
吉右衛門丈の俊寛のご報告ありがとうございました。渡辺先生も絶賛ですし安心して褒めちぎれます。
ワタクシは,吉2,仁2,幸2,勘1(テレビ中継のみ)です。
センセは,これまではベスト俊寛と定評高い吉右衛門丈でも,新劇調でよくなかったと書いておられますが,わが意を得たりです。私見ですが,吉右衛門さんは,ソフォクレスのオイディプス入ってたと記憶しています。運命に立ち向かい,人間の素晴らしさを示そうとする意思がガーと押し出され,海外でも評価される普遍性の高い造形です。新劇調で何があかんか書いて欲しいところですが,さておき,義太夫狂言らしく糸にのって完璧だったとか。重畳重畳。
どこがどう良かったか謎が解けました。ありがとうございました。
返信する
★とみ様 (ぴかちゅう)
2007-01-13 04:28:08
有難うございます。4人の俊寛をご覧になってのコメント、大変参考になりましたm(_ _)m
渡辺先生が歌舞伎が新劇くさいといけないとおっしゃっているのは、歌舞伎が伝承すべき様式性がくずれるからなのだと思います。新劇は顔の表情の変化を中心にしてしまうので、しぐさやきまりなどがきちんとできた上でやるのでないと、しぐさやきまりなどが流れてしまうということのようですね。今月の先生の劇評でも兄弟の評価が分かれているのもその辺にあると思われます。
しぐさの基本には舞踊があるらしく、私はそこがよくわからないのでなんとかしたいと思っているのですが.....(^^ゞ
返信する
茫然自失 (スキップ)
2007-02-01 02:46:41
ぴかちゅうさま
失礼しました。コメント途中で送信になってしまいました。仕切り直しです・・・。

私も初吉右衛門俊寛でした(と言ってもとみさんと違って、これまで仁左衛門さんの俊寛しか観たことないのですが)。
俊寛は、途中の過程もさることながら、船が去った後の一人芝居が役者のニンの見せ所と思っています。特に手を振ることすらあきらめてしまったラスト。その点、仁左衛門さんの鬼気迫る俊寛にはいつも涙をしぼられるのですが、ぴかちゅうさんがお書きのように吉右衛門さんの茫然自失の態も素晴らしく、何とも余韻の残る俊寛でした。
返信する
♪♪♪ (かしまし娘)
2007-02-01 10:13:54
ぴかちゅう様、まいど!
「かしまし娘的”俊寛”チャンピオンベルト」は、ズ~ッと仁左衛門の物だったんですが、吉右衛門の手に!!
「かしまし娘的”千鳥”チャンピオンベルト」は、ズ~ッと亀ちゃんが保持しています。
いくら福ちゃんでも(笑)奪うことは出来ませんでした。
「微妙」な路線を突っ走る中村福助!これもまた、贔屓としては心臓に悪いんですがねぇ。やめられましぇん。ハハハ。

文楽の「俊寛」も!東京で観れる日が来ればいいのにぃぃぃ。
返信する
皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2007-02-02 00:41:07
★「地獄ごくらくdiary」のスキップさま
私は幸四郎俊寛しか観たことなかったんですよ。初吉右衛門俊寛でやられました!
>静寂の中で海を見つめて岩の上にひとり佇む俊寛
.....その視線の先にあるものは~と最後の最後まで集中して観てしまいました。
>艶っぽくて華やかでチャキチャキの千鳥。ところがこれもアリだなと
うーん、私的にはちょっとダメでした。「アイタ」の一言が許容外。これからもさらなる精進を期待しま~す。
仁左衛門俊寛が未見なので、なるべく早く東京で観たいと希望してま~す。
★かしまし娘さま
亀治郎千鳥、うーんよさそうですねぇ。大河ドラマが終わったらいろいろ舞台で見せてほしいです。
>贔屓としては心臓に悪いんですがねぇ。やめられましぇん。
私も吉原狐の福助や暗闇の丑松の福助、全然違うお役なのに好きだし、DVDで見たお嬢吉三もサイコー~という感じでした。こういう風にハラハラドキドキ感を持って見守ってしまうというのもまた魅力なのかもしれませんね。
返信する

コメントを投稿