「文七元結」は以前、平成市村座で市村正親の一人芝居で観たことがある。「ラ・カージュ・オ・フォール」でも観たが市村正親の女方芸は本当に見事。べらんめいの長兵衛から娘のお久の可愛い声まで声もしぐさの演じわけもすごかった。市村正親は歌舞伎役者のように休みなく舞台に立ちたいという人で、中村屋が「平成中村座」を始めたので自分も「平成市村座」を始めたとトークで語っていた。本当に勘三郎と同じように愛すべき「役者バカ」(これは褒め言葉!)だと思う。
歌舞伎で観るのは初見。シネマ歌舞伎にもなるので山田洋次監督が補綴しているという。「寅さんシリーズ」も大好きなので、シネマ歌舞伎になるのも楽しみだ。
「寅さん記念館」に行った時の記事はこちら
【人情噺文七元結(にんじょうばなしぶんしちもっとい)】
三遊亭円朝=口演 榎戸賢治=脚色
山田洋次=補綴 落語三遊派宗家=監修
今回の配役は以下の通り。
左官長兵衛=勘三郎 女房お兼=扇雀
手代文七=勘太郎 お久=芝のぶ
鳶頭伊兵衛=亀蔵 和泉屋清兵衛=彌十郎
角海老女房お駒=芝翫 角海老若い者藤助=山左衛門
あらすじは以下の通り。
本所割下水に住む左官の長兵衛が博打から帰ると家の中は真っ暗。灯りをつけると女房のお兼は途方にくれていた。娘のお久がいなくなってしまっていたのだ。方々を探しても見つからないのに呑気な長兵衛と喧嘩になる。そこに吉原の妓楼角海老から藤助が長兵衛にきてもらいたいと使いにやってくる。博打で身ぐるみ剥がされている長兵衛はお兼の着物をひっぺがして着込み、藤助の羽織を借りて出かけていくとお久がいた。年も越せないほどの貧乏になって喧嘩ばかりの両親を見かねて自分の身を売りにきていたのだ。お久は子どもの頃に長兵衛が角海老の仕事をしていた時分に弁当を届けに通っていたので女将のお駒は情をかける。お久のためにも心根を入れ替えて仕事に精を出すように長兵衛を諭し、五十両の金を貸し与え、店出しを一年待って返してくれるのを待つと言ってくれる。孝行娘の想いと女将の温情に目が覚めた長兵衛は家路を急ぐ。ところが途中の大川端で身投げをしようとしている若い男を止めるハメになる。和泉屋の手代文七が店の売掛金五十両を掏られてしまった申し訳なさから死ぬというのだ。長兵衛は「泥を飲んでも娘は死なぬ」が目の前の男が死ぬのを見過ごせずに、金のいわれを話した上で文七にたたきつけて駆けていってしまう。
帰ればお兼はその話を嘘だと決め付け、また博打で全部すってしまったと愛想をつかし、家を出て行こうという大喧嘩。そこに大家が和泉屋清兵衛と文七を案内してくる。売掛金五十両は武家屋敷に置いたままあわてて帰っただけで、勘違いで死のうとした文七の命を救った御礼と金を返しにきたのだ。角海老から身請けされたお久も綺麗になって戻り、文七の嫁に欲しいという申し出もあり、ハッピーエンドで終る。
扇雀の下町の女房姿のお兼が大きな目をむいて、勘三郎の長兵衛にくってかかる様はすごい迫力。今回、お久をなさぬ仲の娘という設定にしたことでお久もお兼も義理を感じながらの母娘の情という複雑さが加わっていた。山田マジックだ。
勘三郎の長兵衛の情けない男ぶりも徹底的でいい。そこに芝翫が角海老の女将でこんこんとさとすというのがまた贅沢な芝居になっている。
角海老の年増の花魁に小山三・芝喜松と並ぶのもまたいい感じ。小山三の花魁姿の舞台写真を一枚GET。これは貴重だ。
芝のぶのお久は汚い格好も身請け後の可愛い格好も両方とも○。芝のぶの娘声が可愛く綺麗なのでずっと贔屓にしているせいか、切々と父親に訴えるところは本当に切なく思える。
勘太郎の手代文七は真面目だが早飲み込みで頼りない感じがよかった。それが喜劇味にもなっている。こんな頼りない人にお久を嫁にやっていいのかという気もしたが、逆にしっかりしたお久にサポートしてもらって暖簾わけさせようという和泉屋の意図もあるのかと思えもした。
和泉屋清兵衛の彌十郎が立派で、その申し出を中途半端にしか聞いていなかった長兵衛がなかなか理解できずに話がもたつくのだが、これも山田版の補綴なのだろうか?ここは勘三郎の芝居がいいから間がもつのだろうなぁ。そういえば寅さんでも同じようにもたつかせて話を運んでいたような気もしてきた。
シネマ歌舞伎の仕上がりが楽しみだ。
さらに筋書にあった勘三郎×山田洋次の対談によると、勘三郎が山田洋次に歌舞伎の新作を書いてくれとくどいていた。「ぜひお願いしますよ」で結びになっていたから何年かしたら山田版歌舞伎が見られるかもしれない。クドカンにも三谷幸喜にも頼んでいたようだが、本当にいろいろな人を自分の世界に巻き込んでしまう勘三郎。それが魅力でもあるわけで、そういう勘三郎をしっかりみていきたいと思っている。
写真は公式サイトより今回の公演のチラシ画像。
10/20昼の部・勘三郎の「俊寛」の感想はこちら
10/20昼の部「三人連獅子」の感想はこちら
10/19夜の部「寝坊な豆腐屋」の感想はこちら
世話物だとドンピシャだけど
意表を突いたものでもいいですよね。
重複しますが、こちらにもTBさせていただきました。
http://blog.goo.ne.jp/broadway05/d/20071013
野田秀樹、渡辺えり子に続いて歌舞伎を書いてくれるのは誰でしょうか。山田洋次のような気がしますね。
『串田戯場 歌舞伎を演出する』(ブロンズ新書)もまだ途中なのですが、勘三郎によって歌舞伎の世界に引きずり込まれた串田和美氏の実感が伝わってきました。
http://www.7andy.jp/books/detail?accd=31905154
勘三郎丈のネットワークの広がりに感心至極ですし、これからも期待が高まります。
江戸時代の方が血のつながりはこだわりがあまりないのでは?と思って見ていました。
勘九郎時代にも見た松たかこのお久、玉三郎のお駒がよかったかなーなんて。
気軽に見られるコメディ作品だから、差を出すのが難しいのかもしれません。
松たか子はお久で初舞台だったようですね。子役だったら役者の娘も歌舞伎の舞台に出られるわけですが、海老蔵の妹の市川ぼたんが「鬼揃紅葉狩」に出た時はちょっと驚きました。あれは一体どういうねらいがあったのかなぁと思っていました。
玉三郎のお駒もよかったでしょうねぇ。
今回はまぁ、中村屋の2本立てでシネマ歌舞伎にするための舞台ということだったと思います。