ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/10/28 NHK古典芸能鑑賞会第1部「芸競四季粧」

2007-10-29 23:51:30 | 観劇

第1部は「芸競四季粧(わざくらべしきのよそおい)」と銘打って、義太夫→狂言→歌舞伎舞踊を見せる。
【義太夫「関寺小町(せきでらこまち)」】
四季を描いた義太夫の景事(舞踊)「花競四季寿(はなくらべしきのことぶき)」の秋の一場面。それにひっかけたタイトルを第1部につけたのだろう。年老いた小野小町が秋の月の光の下で自らの落魄を嘆くという内容。
浄瑠璃:竹本住大夫
三味線:野澤錦糸
ツレ:鶴澤清志郎
小鼓:堅田喜三久
笛:中川善雄
能の「関寺小町」を題材としているということで三味線だけでなく小鼓と笛が加わっている。小鼓の堅田喜三久氏(こちらも人間国宝とのこと)の演奏されない時にじっと目を瞑っている風貌がなぜか住大夫の語る百歳(ももとせ)の小町のイメージを彷彿とさせてしまい、思わずじっと見入ってしまった。背景にすすき野原と大きな月がかかり、いつもの義太夫の語りと三味線に小鼓と笛というのは、とても深遠な気分になってうっとりと聞き惚れた。
百歳まで生きて老醜をさらすことになったのは深草少将の百夜通いの想いにこたえなかったせいだと悔やむ小町の気持ちは、姿形が形が変わっても女の心がみずみずしく生きているのだなぁとそれも感じ入った。

【狂言「蚊相撲(かずもう)」-和泉流-】
狂言は今年の「夏休み親子のための狂言の会」でデビュー。そこで買った『狂言ハンドブック(三省堂)』で予習。流派によっていろいろ違うようだ。そしてプログラムに、狂言でいう「大名」とは大名田の主ということで数名の家来を持つ程度の在地領主なのだと書いてあったのが有難かった。「大名」のイメージがようやく明確になった。
話の内容は以下の通り。
大名が新しい使用人を召し抱えることにして太郎冠者を使いに出した。太郎冠者が街道筋で見つけて連れてきたのは人間に姿を変えた蚊の精。相撲をとってみせることも使用人に期待されることだったようで、大名はさっそく相撲を所望する。ところが蚊の精は相撲の最中に大名の血を吸ってしまう。そこで大名は相手の正体を見破るが、そのことを相手に気づかれないように勝てるように知恵を絞った。次の取り組みでは大きな団扇で扇ぎ(和泉流のやり方)、蚊の敏捷な動きを封じて勝つ。次には蚊が大名を倒して飛び去られてしまう。負けて悔しい大名は太郎冠者に八つ当たりして、蚊のまねをして去っていく。
蚊の精がつける面の「うそふき」は夏の狂言の会の時のお面の体験コーナーにあったので、次回はつけてみたい。蚊の羽根をイメージできる薄衣をハタハタと動かす様は本当に蚊のようだし、戦闘モードに入る時に紙縒りを細くすぼめた口の部分にさすのが可笑しいし、団扇に煽られてフラフラしてしまう様もかなり滑稽。夏には上演頻度が高い作品のようなので、また別の流派でも観てみたい。
人間国宝の野村萬の笑顔は観ていて幸せな気持ちになれる。息子の万蔵との親子共演は夏の狂言の会でも拝見している。お元気に頑張っていただきたい。
大名: 野村萬
太郎冠者: 野村扇丞
蚊の精: 野村万蔵

【舞踊】
上「傾城」 下「半田稲荷(はんだいなり)」 長唄囃子連中
立方: 坂東三津五郎
こちらも手持ちの「舞踊事典」で予習した。「半田稲荷」はわかったが、「傾城」はいろいろあるらしく、どれかわからず。結局は事典になかった「初雁の傾城」だった。 
文化文政期の舞踊の名人、三世坂東三津五郎が初演した作品とのこと。今回の上下は豪奢な傾城と、半田稲荷へ代参する軽妙酒脱な願人坊主を早替りで踊った。
つなぎを三津五郎の娘ふたりが新造姿で踊る。父との初共演という。なかなか可愛かった。こういうのを観ると父の「鏡獅子」で胡蝶でふたりを踊って欲しくなった。歌舞伎座等では無理だろうから、今回のような場でやってもらったらいいのにと思った。

三津五郎が「京鹿子娘道成寺」を踊ったのをTVの録画で観たが、家元の踊りの域を出ていないと思った。しかし今回の傾城はよい。三津五郎の笑顔の女方の表情は愛嬌もあって可愛らしく遊女の風情にぴったりする。
後半の願人坊主の赤ずくめの姿も目をひいてよい。半田稲荷は子どもの疱瘡や麻疹にご利益があるということでその願人坊主は赤ずくめということだった。子どもが疱瘡や麻疹にかかっても死なずに軽くすんでほしいというのは当時は切実な願いだったことだろう。だからお金を払っても代参してもらうわけだ。背中に赤い人形(飛騨の「サルボボ」人形のよう)をおぶって登場し、途中はおろして抱いてあやしたり、お面をつけて踊ったりと前半とは打って変わったひょうきんな踊り。
こういう変化を楽しむ変化舞踊が人気だったのもよくわかる。三津五郎の踊りの達者なところを十分に楽しむことができた。

写真は、NHKホールのロビーに掛かっていた幕。毎年掛けているのかな。
【第2部 歌舞伎】「寺子屋」の感想はこちら