ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/10/13 「ビッグイシュー」で映画「ミス・ポター」を観る気になって!

2007-10-13 23:59:23 | 映画(映画館、DVD、TVを含む)

最近読み出したストリートマガジン『ビッグイシュー』日本版。何年か前から駅頭などで立ち売りしている姿を見かけるようになっていたが、なんとなくあやしい人が売っているので敬遠していた。今年、職場の労組女性部の自主グループによる学習会があり、イギリスで始まった「ホームレスの仕事をつくり自立を支援する」ビジネスだということがわかった。参加できなかったものの資料を読んでバックナンバーを買わせてもらってこの取組みに賛同。それからは公式サイトで特集が面白そうな号を買うことにいた。
職場のある四ツ谷駅頭に立っている販売員さんに「毎号は買えないけれど興味がある号を買わせてもらいます」と最初に声をかけて買わせてもらった。そうしておくと買わない号の時に気が楽なのだ。
『ビッグイシュー』日本版の公式サイトはこちら
第80号にはスペシャルインタビューで気になっていた映画「ミス・ポター」の主演女優レニー・ゼルウィガーが、リレーインタビューに『ビッグイシュー』の創始者ジョン・バード氏が載っているということで買うことにした。
レニーが素晴らしい脚本とビアトリクス・ポターの生き方に惚れこんで、主演だけでなくプロデュースまでした。キャスティングの際に相手役も彼女がユアン・マクレガーこそふさわしいとして共演となった......等々読んでいるうちにどうしても観たくなってしまった。私も『ピーターラビットのおはなし』くらいしか知らないのでそんなに魅力的な女性作家の話なら観なくては!

ウィキペディアの「ビアトリクス・ポター」の項はこちら
冒頭のタイトルからのキャスティングなどが説明されるところ、画材を使っていく様子の映像から引き込まれる。絵筆についた青い絵の具がガラスの器の水の中に広がっていく様子が美しい。青でもいろいろな色を加えて画用紙の上に広がっていく。
子どもの頃、両親とともに夏を過ごした湖水地方の別荘で自然の中で遊び、小動物と友達になり、その絵を描くことが大好きだったビアトリクス。絵を描く才能は父親譲り。しかし母親は上流階級としての暮らしを重んじ、彼女と弟も乳母や女中に任せて社交にいそしむ。
縁談を断り続けて話もこなくなった彼女は描きためた作品(絵とおはなし)を出版社に持ち込む。ようやく兄弟で経営している1社が出版をOKする。末の弟ノーマンを編集者としてつけるが彼は新米。あまりアテにされない作品扱いだった。ノーマンはビアトリクスの作品に惚れこみ、ふたりのこだわりで出版された『ピーターラビットのおはなし』が大ヒット。2作目、3作目と二人の二人三脚は続く。その間に生まれる愛!ノーマンの独身の姉ミリーも二人を応援する。

労働者階級のノーマンとの結婚を母親だけでなく父親も許さない。しかし父親の出す条件はひと夏冷却期間を置くことだった。それで冷める愛情かどうかを試されるふたり。別荘とロンドンで交わされる手紙の数々。ある日、彼からの手紙が来なくなり、ミリーが弟の病気を知らせてきた。

ロンドンに駆けつけたがすでに遅し。喪服の兄妹がビアトリクスを迎えたのだ。当時の手紙はこの距離を何日かかって運んだのだろう。
ビアトリクスはついに両親の家を出て、別荘の隣の農場が売り出されていたのを買い取って自立する。
......となって、周囲の広大な土地を次々に買い取って自然を保護していく姿も見せ、夫となった事務弁護士との関係もきちんと描いていく。
湖水地方の美しい自然も映画舘のスクリーンで見るのがふさわしい。向こうに丘陵が見えるビアトリクスの立つ丘にゆれているのはワレモコウかしら、などと思いながらうっとり。
チラシなどでも婚約者ノーマンとの恋は実らなかったという情報は知っていたので、別れなければならない場面になるのをドキドキして観てしまった。ミリーに抱きしめられるあたりで涙腺決壊。両親の娘への呪縛が実らせなかった二人の愛(T-T)

弟もワイン商の娘と駆け落ちしたというし、娘も家を出て行ってこの両親は自業自得だとも思えた。この母親と最後は「お互いを理解しようとするのをやめる」ことで合意したというビアトリクス。
富裕な家に生まれ育ってその中で絵を描き続けられる環境にいたという幸運と、母親との確執、婚約者の死という不幸。その中で生きて生み出した作品でナショナルトラストにつながる実践をしたという本当に魅力的な人だった。これはレニーがほれ込むのも納得だ。
独身を貫いたミリーのネクタイをしめたキリッとした姿もけっこういいと思った。周囲がすすめる結婚に安易に流されないで生きていく女性の逞しい魅力!(先日観た「ロマンス」のチェホフの妹マリヤの姿も少し重なる)

最後のエンディングに流れる歌がこんなに本編を思い出させる映画もないと思った。ノーマンと初めて二人きりになってオルゴールの音色に合わせてダンス、互いの気持ちの確認をする場面が浮かび上がってくる。
これまであまり興味がなかったビアトリクス・ポターの作品群をもっと読みたいと思ってしまった。地味といえば地味だが、とても味わい深い作品だった。

ところが、無理やり説得してつきあわせた娘は「泣けなかったし、まぁねぇ」くらいのもの。ノーマンより後に夫になった弁護士の方が好みと言うし......確かに彼もよかったけど。「この映画を味わうには人生経験の長さや深さが足りないよ」と言ってやりたかったけど我慢。そんなこと言うと次から彼女の気乗りのしない作品はつきあってくれなくなっちゃうからね(^^ゞ
写真は『ビッグイシュー』日本版第80号の表紙を飾るレニー・ゼルウィガー。そうそうこの号を娘に見せたら、論調が政府や企業寄りじゃないところを気に入ってくれて次から回すことになった。「ホームレス人生相談」コーナーも面白いとのこと。皆様にもおすすめします。ただし販売員さんがいないエリアも多々あるので公式サイトでご確認ください(現在のところ私の住む埼玉県もいない......)m(_ _)m