ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/12/23 原作とは別物だが気になる『マリー・アントワネット』

2006-12-26 23:58:12 | 観劇

日本がワールドプレミアとなると鳴り物入りで製作発表された東宝ミュージカル『マリー・アントワネット』。『エリザベート』『モーツァルト!』でお馴染みのクンツェ&リーヴァイによる日本のオリジナルミュージカルで11~12月に帝劇で上演、全国巡演のちに来年4~5月東京凱旋公演となる。
私はまず12月の千穐楽間近になってからの一回だけのチケットを確保。ダブルキャストを両方観ようと思っていたのだが来年の再演を知って今回は1回に節約することを決定。娘と一緒に12/23の夜の部を3階B席の最前列で観劇。
以下の設定と主な配役はぴあのサイトから引用。
「舞台は、18世紀フランス。主人公は、何の苦労も知らず、世の栄華を一身に集めるフランス王妃マリー・アントワネットと、片や“自由・平等”を信じる、貧しい民衆のひとりマルグリット・アルノー。対照的な運命の星の下で生まれた、この「M.A.」という同じイニシャルを持つ二人の女性の人生は、ドラマチックに交差していく。.....」
主なキャストは以下の通り。
◆マリー・アントワネット:涼風真世
◆マルグリット・アルノー(ダブルキャスト):新妻聖子/笹本玲奈
◆アニエス・デュシャン:土居裕子
◆アクセル・フェルセン:井上芳雄(11月~2007年3月)/今拓哉(2007年4月、5月)
◆ルイ16世:石川禅
◆ボーマルシェ:山路和弘
◆オルレアン公:嶋政宏(11月~2007年3月)/鈴木綜馬(2007年4月、5月)
◆カリオストロ:山口祐一郎

原作の遠藤周作の小説『王妃マリー・アントワネット』をしっかり読んでから臨んだのだが、登場人物の設定を大きく変えてしまっていて、かなり割り切らないと違和感が大きい。
まずマルグリット。原作では親の顔も知らない孤児。15歳くらいで娼婦になり、矯正のために預けられたところで読み書きを修道女アニエスに習った程度の粗野な女。ファーストネームが同じMのアントワネットの婚礼パレードを見ただけで自分の境遇とのあまりの違いに妬み憎み、その感情で革命の流れに乗っていく。革命勃発後は暴徒化した民衆について回って興奮しているような女。それを諭したのはアニエス。ミュージカルではどうも無理やり「M.A.」として並べるためにマルグリットを魅力的なキャラクターにしたかったのだろう。アニエスのいいところをマルグリットに組み込んで最後はいい人間にしてしまっていた。アントワネットに侮辱を受けてふたりが並ぶ場面なども原作にない「入れ事」。娼館の女将ラパン夫人(北村岳子)もムチ打ちの刑になるのは原作通りだが死なないのだ。まぁそれでマルグリットを革命にドッと走らせる要因にしたかったんだろうけれど、普通はムチ打ちの刑では死までには至らないはず(ここでも私はかなりしらけてしまった)。
その分アニエスが中途半端になった。王妃のスキャンダルの寸劇に他の民衆と一緒になって喜んでいる様子に私はおどろいてしまった。原作のアニエスならあんな態度は絶対にとらないだろう。
それと錬金術師カリオストロは原作では変人ではあるがもっと人間くさい。アントワネットを利用しようとして近づいたが意に反して退けられたために恨んで仕返しをはかって王妃の首飾り事件を起こしている。ミュージカルではそんな彼が王家とどうかかわっているのかわかりにくく、錬金術師をして運命を操る存在にしてしまった。まぁ確かにその方が大きな役にすることができるのだろうが。
ミュージカルの狂言回し的な存在の劇作家ボーマルシェは原作には登場しない。
一番今回の作品で疑問に思ったのはカリオトロの位置づけ。彼が全てを操っているという設定なのでどうしても狂言回し的な存在になる。さらに現国王打倒で隙あらば権力をねらって革命を煽るオルレアン公も『エリザベート』の狂言回し役がハマリ役だった嶋政宏というキャスティングであることもあって、狂言回しが3人いるような感じを受ける。現に3人で歌う場面もある。これが私にはハッキリ言って煩わしかった。どうしても山口祐一郎を使うことが前提条件だから超越した存在にせざるを得なかったのではないだろうかと思った。
しかしやはりそのカリオストロのあり方が今回の最大の売りのようで、最終のチラシや看板のポスターのデザインもさらにハイライトライブ盤CDのデザインもカリオストロが掌中の珠の中で全てを操るようなものになっていた。私はそこが一番気に入らないのだが.....。
観劇後の娘との会話。
私「どうだった?」→娘「あの人がいらないな」→私「カリオストロ?」→娘「そう」→私「やっぱり」と続いた。

でもキャスト的にはいろいろと満足できて嬉しかったことがいっぱいあった。東宝ミュージカルを継続して観てきて定点チェックしているとキャストの成長が嬉しいのだ。
カリオストロの設定に文句をいいながら、山口祐一郎の歌は圧倒的に魅力的に帝劇に響くことに抗いがたい。マルグリットの新妻聖子はエポニーヌ→キムときて今回は準主役。歌がとにかくいいし、こういう人材を活かすためにミュージカル版マルグリットを魅力的に造詣してしまったんだと納得できなくもない。
ボーマルシェの山路和弘は軽妙な役どころをなんなくこなし、『亜門版ファンタスティクス』のエル・ガヨを髣髴とさせる。感想をすっとばしているが『アンナ・カレーニナ』のカレーニンもよかったし、これからも活躍が期待できる。
フェルセンの井上芳雄は『アンナ・カレーニナ』では大人の恋人役に少々無理を感じたが今回は堂々とアントワネットを支える愛人としてちゃんと舞台に存在していた。成長を感じたひとり。
ルイ16世の石川禅はやっぱり芝居がうまい。前半、アントワネットのいうことに振り回される凡庸な王の天然キャラを好演。工房でギヨタン博士の佐山陽規とより人道的な処刑器具ギロチンの発明についてのやりとりも上手い歌にのって軽妙でいい。幽閉されて処刑の前に歌う「もしも鍛冶屋になれたなら」は胸をうつ。

涼風真世は『42th STREET』は残念ながら観ていないが『回転木馬』『イーストウィックの魔女たち』を観ている。どうも線が細すぎる印象だった。今回は前半の思慮が浅く退屈だけしないように楽しく日々を暮らしているのに、ルイやフェルセンが愛してしまっているように憎めないという王妃を彼女の持ち味の可愛さを活かして演じていて唸る。前半は観客は感情移入できなくて正解。二幕目、革命の進展とともに家族を守るために必死になる中で人間的成長を果たしていき、誇りを持って死んでいく人間像をよくぞここまで演じてくれたと感慨深い。確かにこれを代表作にできなければもう後がないという年代だし、背水の陣の中で芯を張る女優としてしっかりと花開いたのではないだろうか。

そして私の好きなキャラの修道女アニエスが土居裕子というのはイメージにぴったりだった。ミュージカル座『ひめゆり』の婦長さんがよかった。穏やかで温かい人柄の役は本当にいいし、また何より歌が上手い。本当はマルグリットとアニエスで「M&A」にして欲しいくらいだ。原作ではマルグリットが革命の暴走のおかしさに気づくのは最後の最後でそれも感覚的に把握したレベルにすぎない。アニエスは信仰を深めていく中で、世の中の矛盾について考え続けた。そして革命の一派のリーダーに会いに行って偶然に殺してしまい、ギロチンにかけられたという激しい生き方をした人なのだ。その真摯な生き方の半分以上をミュージカル版のマルグリットにもっていかれているのがちょっと残念。
オルレアン公の高嶋政宏のメイクは眉なしはいいのだが、目の片方にピエロの睫毛のような黒いメイクを入れていたのはやりすぎ。立ち居振る舞いも含めてもう少し下品さを抑えて欲しい。王党派じゃないと言ってるけれど結局は隙をねらっているのだろうから逸脱しすぎていて違和感があった。

栗山民也はクンツェ&リーヴァイと何度も何度も練り直しながらこの舞台を作り上げたようだ。確かに従来のミュージカルとはちょっと違う感覚に仕上がっている。井上ひさしの舞台の演出で何度も観ているが、かなり人間の多面性をきちんと描き出して観客にしっかりと問題提起をつきつけてくる。
不平等な体制を破壊し自由を求めた革命の正当性。熱狂の中で理性的な統制を失った群集の暴走による醜悪な大量虐殺。今の時代でも理性がきちんと働かずに社会の多数派が形成されてしまっているのではないかという状況がある。そこが最後につきつけられる。まるで社会派の新劇のようなミュージカルだ。上演する方も観る方も初めての感覚かもしれない。これは再演を繰り返す中でどのように変わっていくのか。そこを知りたい気持ちが強くなる。
来年2007年4~5月公演、今回観ていないキャストを中心にまず一回は観ることにしよう。

写真はe+のサイトから今回公演の宣伝用画像。


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10 コメント

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5回も見て、ようやくだった私 (harumichin)
2006-12-27 02:19:16
この作品気になる方が、出演されてることもあり、なんやかんや5回も見てしまいました。
(原作は、上巻だけでやめてしまいましたけどね。)
人間における正義とは?なぜ人は戦うのか?など大きな問題を掲げ、現在に照らし合わせてというものの・・カリオストロとボーマルシェの関係が、わかりづらく、MA二人もけっして対象的に描かれてもいなく・・
カーテンコールでも???があったりと、かなりわかりづらかったです。なんで行くんだ?こんなに??なんだけど・・と思いつつ、一方でつかみどころを探したいという気持ちもあり、
4回目あたりからでしょうか・・納得し始め、5回目は・・とまああきれるでしょう。
TBのちほどさせていただきます。
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じわじわはまる舞台です (お茶屋娘)
2006-12-27 06:40:20
原作は、数十年前に読んで以来、ほとんど忘れていたので、アニエスもマルグリッドもいたっけ?というくらい印象なし。それがすんなり舞台を受け止められた理由だと思います。原作にこだわらないほうがいいですよ。コレは、あくまでも栗山さんの作品。
全然気分が晴れやかにならないミュージカルですが、妙に、また見たい、と思わせる作品ですね。
個人の心理を追求していく舞台は苦手だけど、これは、歴史的大事件を暗い側面からえぐってみた、というスタンスに好感をもてます。
男性にも好まれる作品じゃないでしょうか。

カリオストロについては、大きな声では言いたくないけど、削除できないなら、もっとメインのストーリーにからめるしかないかな。栗山さん頑張って!
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まだもう一息! (♪~)
2006-12-27 12:32:00
それでも相当に練りこんで高度な仕上がりのミュージカルでしたね
個人的にはまだまだ削って欲しい箇所があったのですが、初演なら大合格点でしょうか。
カリオストロ・山祐...もったいないです
歴史に見る体制からの自由への定義はその都度変わりますから、過去の歴史という感じが強かったです。
そこから現在に直接問いかけるというのは非常に構成上も厳しい感じがしました。
革命成功したように見えるロベスピエールの末路も周知の事実。
新作としては先へのさらなる充実を期待させる作品だと思います。ただし今後の練り方が作品よりか商業よりか、どちらのベクトルに向くかで違ってきますけれど。

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トラバさせていただきました (midori)
2006-12-28 14:23:53
2ヶ月という公演期間の中でも進化していたと思います。
何となくシックリこなかったりもあるのですが、チェック
しておかなくちゃな気分にもなったり…。
(^^;
私も多分、来年キャスト変更の方達が気になるので1回は
観ちゃうと思います。
(^m^)
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皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-12-29 00:49:52
★「花がいっぱい。」のharumichinさま
小説を読むのが苦手な私には珍しく原作を読んで観ました。一応、日本オリジナルということに敬意を表してみたりして(^^ゞこんな話をどうやってミュージカルにするのかと思いつつ観ましたが、完全に別物になってましたね。
途中ではげんなりしつつ読み終わる頃にはアニエスにはかなり感情移入してしまっていたので、その要素をマルグリットに持っていかれてけっこう不満だったりする私です。
>原作は、上巻だけでやめてしまいましたけどね.....上巻はげんなりのピークですよ。下巻になってグググっときたのです。アニエスが革命のリーダーに会いにいくところまでの葛藤、偶然殺してしまって死刑になる.....もうアニエスなんですよ、一番私が愛せるキャラは。せっかく買った下巻、読んであげてくださいましm(_ _)m
正義を追っかけたはずが脱線暴走する群集。その恐ろしさとそれは現代社会にもある!ではどうすべきなの?という問題提起と受け止めました。
★お茶屋娘さま
>歴史的大事件を暗い側面からえぐってみた、というスタンスに好感.....そしてさらに現代の私たちにも共通するものがあるという問題提起を感じました。今の日本人は熱狂はしてはいないけれど、多数派が理性をきちんと働かせているかというと甚だ疑問なわけです。私はそこが怖いのです。
★「Show Must Go On!」の♪~さま
>過去の歴史という感じが強かったです。そこから現在に直接問いかけるというのは非常に構成上も厳しい感じがしました.....確かに難しいと思います。しかしながら栗山さんはそこをやりたいと思っていると思えるのです。そうじゃなければ引き受けなかったんじゃないかしら。
もっと絞りたいけれどスターはきちんと見せ場もつくらなければいけないしという板ばさみを感じます。その辺で中途半端になってしまうのではないでしょうか。商業演劇としては難しいところでしょうね。
★「好きなことは止められない♪」のmidoriさま
ダンスをなさるmidoriさまはダンスシーンが少ないので物足りないのではないでしょうか。私はとにかく芝居と歌重視の人なので曲は気持ちよかったです。でも「もしも」っていい曲だけど場面とマッチしての盛り上がりがなく、うーん、という感じもしました。あとはルイ16世の歌の他、強く印象に残った曲がないというのもちょっと寂しい感じでした。
来年の再演でどう変化するかを楽しみにしましょう。
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TB届きましたでしょうか? (harumichin)
2006-12-29 01:10:03
TB届きましたでしょうか?
マリーアントワネット・・TVCMを流しても4月のチケットの売れ行き状態が芳しくないのは、11,12月の影響であることは間違えないでしょうねえ。
歌舞伎をみる友人たちは、そこそこの評価ですが、ミュージカルメインの友人にには、やはり受け入れがたいところがあるように思います。
先月の「演劇界」で水野氏が失敗作と言い切ってしまうのもなんですが。
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★harumichinさま (ぴかちゅう)
2006-12-30 01:12:56
3本ものTBを有難うございますm(_ _)m
従来の東宝ミュージカルとは本当にカラーが違う作品でしたね。その意欲的な取り組みを私は評価したいと思います。来年の帝劇でどう変化しているのかを楽しみにしています。
水野晴郎の『演劇界』のその文章読みました。彼の好みに合わないと失敗作なんですね。彼のページはまともな劇評だと思って読んでませんから(笑)
さあ、明日は私も『朧の森に棲む鬼』を観に行ってきま~す(^O^)/
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来年もよろしくお願いいたします。 (harumichin)
2006-12-31 04:00:24
『朧の森に棲む鬼』は、いかでしたでしょうか?
『MA』の難しさにくらべると、非常にわかりやすいお芝居に作られているような気がいたしました。
お客がたくさん入るからっていいお芝居ってことはありませんが、大劇場にかける芝居は、やはり一般ウケするものをもってきた方が、興行主としては、素がとれていいのでしょう。
今回『MA』は、東宝側でどういう扱いになるのでしょうね。
この素がとれそうにない状態で4,5月も上演していたら、儲けに走る東宝の挑戦に大拍手!です!!
「やるじゃん!」っと。

今年1年ありがとうございました。
来年もまたよろしくお願いいたします。
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キャスト変更になるのですかぁ~ (とみ)
2007-03-07 21:29:34
>ぴかちゅうさま
コメントありがとうございます。
もう一度拝見したいのは山々ですが,映画見てしまいましたのでやめときます。
何と言ってもMAは中高年女性の娯楽。理屈抜きで女性趣味に流れてほしいものです。
流血禁止,ギロチンもご勘弁。暴動も程々に,ラブロマンスはとことん甘く。軍事介入の要請文ではフェルセンさんの号泣も道理じゃ道理じゃ。
カリオストロ卿にはマスクとヘルを!(`´)ノ☆(((*;・)ゴメンナサイ

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★上方のおとみ様 (ぴかちゅう)
2007-03-09 02:37:09

今回の大阪公演ではすでにカリオストロの曲が増えた演出だったのでしょうか?私、そこらへんをよく確認できていないようです。1曲増えたバージョンでどんな風になるか楽しみにはしているのです。東京で一回観た限りでは存在意義が見えないお役でしたので(笑)
ソフィア・コッポラ監督の映画をご覧になったのですね。どうもあのポスターの女優の表情にひっかかって二の足を踏んでます。ああいう可愛いっぽい女の子って苦手なんです。私がひねくれ人間すぎるかのもしれません(^^ゞ
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