ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

05/03/21 勘三郎襲名披露公演連続アップ②3月歌舞伎座昼の部

2005-04-29 16:22:42 | 観劇
3/20の夜の部に引き続き、翌日昼の部を観た。
『猿若江戸の初櫓(さるわかえどのはつやぐら)』
猿若=初代勘三郎の江戸下りと中村座開設に至る話を盛り込んだ狂言。昭和62年の「猿若祭」で初演、猿若を勘九郎、出雲の阿国を福助が演じた。今回は猿若が勘太郎で阿国が同じ福助である。勘太郎の歌舞伎は『野田版・鼠小僧』くらいしか記憶になく、舞踊も初めてだった。芝居が達者なところは1月に観た『走れメルス』でわかっている。初めて観た勘太郎の踊りは若々しい上になんと切れがいいのだろうと感心。1月浅草での七之助の『鏡獅子』といい、この勘太郎といいさすがに父の厳しい稽古をこなしてきただけのことがある。頼もしい兄弟だと感心した。阿国の福助も年上の美人座長という貫禄があり、ふたりで花道に出たところは絵になっていた。その場面の舞台写真はしっかり購入。七之助が当初阿国の予定だったのだろうが、福助で観て儲けた感じ。七之助だと年上の感じがまだ出せないだろうから。

『平家女護島(へいけにょごがしま)俊寛』
近松門左衛門が書いた『平家女護島』の二段目。高校時代にお茶屋娘さんのお誘いで歌舞伎教室を見に行った時、この演目と又五郎さんの『羽根のかむろ』を観た。俊寛は染五郎時代の幸四郎。そして、今回熟年の幸四郎でまた観ることができたわけだ。感慨深いものがある。同じ時期に観た『ラマンチャの男』もそうだったが、若いのにおじいさんの役を一生懸命演じていた。今は実年齢が役に近くなったので無理がないし、両方の役とも何度も演じていて深みを増してきている。
鹿ヶ谷事件で平清盛に鬼界ヶ島に流された三人。康頼(東蔵)が成経(秀太郎)と島娘千鳥(魁春)が夫婦になったとともども俊寛のもとにやってくる。ありあわせのもので祝っているところへ赦免舟が到着。瀬尾(段四郎)が読み上げる清盛の赦免状には俊寛の名はなく、瀬尾のいびりでさらに惨めになるが、もうひとりの上使(梅玉)が持参した重盛の赦免状で赦される。またまた瀬尾は帰る船に千鳥は乗せられぬと手ひどい仕打ち、都に残した妻も清盛の命令で瀬尾に殺されたという。その瀬尾を殺してその罪のためにひとり島に残る俊寛。今公演夜の部の感想のところで、勘三郎は硬軟のうちの軟かい役の方に魅力が発揮されると書いたが、反対に幸四郎はこういう硬い役でこそ持ち味が発揮される。悲嘆のシーン、千鳥の悲しみに人肌脱ごうと決意、瀬尾を刺して関羽見得がぐっと決まる。
俊寛の深い同情を誘うのが魁春の可愛い千鳥。この人は地味な可愛い女の役がはまる。秀太郎が似合いの成経でとても可愛いカップル。梅玉と段四郎の善悪ふたりの上使も存在感たっぷり。今回の演者のバランスはとてもよかった。襲名にしては話が暗いがベテランで固めた芝居ということで襲名披露としての見応え十分。
さらに絶海の孤島の装置に惚れ惚れする芝居だ。波幕の使い方の見事さ。遠ざかる船をよぶ俊寛の乗る岩を回り舞台で回すしかけ。短いけれどドラマチックなこの芝居にはぐっとくる。

『口上』
昨年、海老蔵襲名の口上を観に千秋楽間際に朝、幕見に並びに行ったが全く間に合わない。そこで今年の勘三郎襲名の口上こそ見てやるぞとずっと念じていたが、思いが通じた!口上とは...幕が開くと主だった役者達がそれぞれの家の決まった衣裳に身を包んで並んで正座。仕切りの役者(今回は岳父の芝翫)がまず紹介し、その後一人ひとりが、襲名される名跡をめぐって自分の家との関わりとか先代や襲名される方と自分の関わりとかにも触れながらお祝いとか活躍を祈る口上を述べ、最後ご本人が襲名の経緯や口上を述べた方、関係者、お客への御礼や先代のこと、自分の決意表明などの口上をしてしめくくる、という感じだった。雀右衛門や又五郎のような80代90代の長老までが並ぶ。さすがにおふたりは短めで、しかも雀様はかすれ声でちょっと心配だったけどここにいてくださるだけですごいことだ。また、口上の装束で本人がどんな役者かわかると何かに書いてあったが、なるほど真女方はこの人とこの人と...とチェック。一番心に残ったのは玉三郎。勘三郎の兄貴分としてしっかり支えていこうという気持ちがこもっていた。七之助がいないのはちょっとさびしかった。ご本人の決意はしっかり伝わってきた。これからが新しいスタートなのね。よし、ずっとつきあっちゃうぞ~とこちらも決意。

『一条大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)』
文耕堂らが書いた時代浄瑠璃『鬼一法眼三略巻』の四段目。一条大蔵卿ってよく調べずに見にいったら、清盛の寵愛を受けた常盤御前が嫁がされたお公家さんだった。大河ドラマ『義経』でいうと漫画家の蛭子さんだ。一条大蔵長成(勘三郎)は阿呆で有名、そこで常盤御前(雀右衛門)も揚弓三昧の日々を送っているという。源氏再興の志を抱く義朝の元の家来夫婦のうちお京(玉三郎)がお狂言師(お茶屋娘さん調べてコメントしてくれた)として長成に雇われる。夫鬼次郎(仁左衛門)も屋敷に潜入し、揚弓にうつつをぬかす常盤をののしり打ちすえるが、家来には所詮主の心などわからないと本心を明かす。揚弓の的の下には清盛の絵姿があり、調伏していたのだ。その場を主家のっとりをたくらみ清盛に通じる勘解由(源左衛門)が見てしまい、注進に行くと騒ぐ。そこを御簾の中から突き出た長刀が切りつけ、長成登場。自らも源氏の血筋をひいているが、権勢をふるう平家の前では本心を気づかれないように作り阿呆を装っているのだという。重盛の死を契機に平家討伐の挙兵をはかるように義朝の遺児たちに伝えるように鬼治郎にことづける。その本性からまた作り阿呆に戻って幕。
先代の大蔵卿もTVでちょっとだけ見たが、新勘三郎の阿呆役はもっと可愛い。へろへろ歩きやへらへらした顔の表情もただしまりがないというわけではなくて愛嬌がある。女方の時の声はあまり良くないが、こういう役の時の声は阿呆の時もぶっかえりの後の正気の声も絶品だ。また、孝・玉時代を知らない私とすれば二人とも初役で夫婦役で登場とは襲名披露公演様さまだ。勘解由の妻鳴瀬に先代時代からの弟子のも小山三も起用していて、いい味を出している。源左衛門も助五郎が今公演で襲名披露しているいい脇役さんで、夫婦役で起用とはなかなか憎い配役だ。雀右衛門も昨年の『金閣寺』の雪姫以来だが、今回はほとんど座った芝居だったが場の支配力がやはりすごいと思った。
こうして襲名披露3月は大満足して観劇終了。月刊『演劇界』の発売日が待ち遠しい。4月5月のチケット確保も真剣みが増した。
  
写真は、歌舞伎座3月公演のチラシ。篠山紀信が襲名披露公演用の写真をとっている。ポスターも2000円で歌舞伎座で売っている。貼るところがないから買わないけど。