ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

05/03/20 勘三郎襲名披露公演連続アップ①3月歌舞伎座夜の部

2005-04-28 22:33:44 | 観劇
十八代目中村勘三郎の襲名披露公演が3~5月の3ヶ月続く。年賀状にも彼の応援宣言をしていた私としては昼夜とも観ずにはいられない。体調を崩していてチケットとりどころではなかったが、昼夜のチケット2枚を譲ってくださる方がいて幸運にも3月から観ることができた。ありがたいことだ。感想のアップが大幅に遅れたが、きちんと書きとどめておきたい。

『盛綱陣屋(もりつなじんや)』
勘三郎を時代物で初めて観る。同じ3月に国立劇場で観た『本朝廿四孝』と同様に近松半二らの合作の人形浄瑠璃から歌舞伎に移された『近江源氏先陣館』の八段目。大阪冬の陣で敵味方に分かれた真田信幸・幸村兄弟をモデルにしており、敵味方に分かれた佐々木盛綱・高綱兄弟。盛綱(勘三郎)の子・子三郎(宗生)が初陣で高綱の子・小四郎(児太郎)を生け捕りにしてきた。その小四郎を返せと敵方の使い和田兵衛(富十郎)がやってくるが主君・時政の許しがなければできないと盛綱は断る。その後盛綱は母微妙(芝翫)をよんで高綱が不本意な働きをしないですむように小四郎を切腹させるように説得をしてほしいと頼み、母も承知する。
その夜小四郎の母・篝火(福助)がわが子に一目会おうとしのんでやってきている。微妙は小四郎に切腹を涙ながらに諭すが小四郎は父母に一目会ってからと耳を貸さない。そこに高綱が討たれたという知らせがきて、その高綱の首実検を盛綱にさせるために時政(我當)が現れる。その首を見た小四郎は「ととさま」と言って刀を自分の腹に突き立てる。その首は明らかに偽首であるが、盛綱は高綱親子の計略に気づき、本物の首と言上。いずれ嘘がばれるであろうことは承知の上である。時政が去ると森綱は隠れていた篝火をよび、小四郎との最後の対面を許し、その真相を語りだす。小四郎が母・祖母らに見守られて息を引き取ると盛綱も切腹しようとする。そこを止めたのはさきほどの和田兵衛。偽首がばれてから死んでも遅くないと説得し、ふたりは戦場での再会を約束して別れる。
子役ふたりが頑張っていたが、児太郎の台詞がちょっと棒読みっぽかった。宗生の台詞まわしの方がしっかりしていた。七之助の代わりに篝火に福助が出たのが儲けもの。矢文に願いを託して放ち、盛綱の妻早瀬(魁春)が諌めの返答を矢文で返すところ、その後ふたりが対峙するところなど互角の存在感が出た。芝翫・福助・児太郎の成駒屋三代が並ぶところもすごいものだ。高綱戦死の注進に幸四郎と段四郎が出るのも襲名披露の豪華な顔ぶれ。富十郎の赤っつらの和田兵衛も貫禄たっぷり。
さて、盛綱の勘三郎。世話物に比べて台詞がちょっとききとりにくいが、全身の演技がすごい。母微妙に甥を切腹させることを頼むあたりの切なさ、首実験の無言の中で疑問→気づきを表現する顔の表情の豊かさ。また小四郎切腹後に「ほめてやれほめてやれ」というところの台詞への感情の乗せ方。これからも再演を重ねていくごとにもっともっとよくなっていくのだろう。

『保名(やすな)』
『芦屋道満大内鑑』という浄瑠璃の二段目を清元舞踊に仕立て直したとのこと。イヤホンガイドの説明をきいていたら仁左衛門が踊っている安倍保名が安倍晴明の父だとわかった。亡き恋人を慕って狂乱の体で春野をさまよっているという踊り。その恋人に似た女葛の葉と後日結ばれて晴明が生まれる。その葛の葉が狐だったという私の知っていた伝説とつながった。一面の菜の花の黄色の背景の前で踊る、伏し目がちの憂い顔、ざんばら髪に病鉢巻の仁左衛門はとにかく美しい。うっとり見ている間に終了。

『鰯売恋曳網(いわしうりこいのひきあみ)』
三島由紀夫の書いた「三島歌舞伎」のひとつ。三島作品は美輪明宏主演の『黒蜥蜴』を観たことがあるが、耽美的であまり好きになれなかった。ただしこだわりぬいて使われている「言葉」はさすがに美しかった。この作品はとにかく明るく楽しく、三島を見直した。
伊勢国阿漕ヶ浦の鰯売りの猿源氏(勘三郎)が京都で商売をする様子を見に、隠居した父親の海老なあみだぶつ(左団次)がきてみると、病鉢巻をつけて恋煩いの最中。五条通りで出会った上臈に一目惚れだという。その女は高級遊女の蛍火(玉三郎)だから、息子に大名に化けてに会いに行けということになった。遊郭にいる蛍火は貝合わせに興じるような雅な女。そこに大名に化けてやってきた猿源氏一行。戦物語を所望されて語ったのは海の中の生き物の合戦模様の作り話。なんとか蛍火とふたりっきりになると、居眠りの中でついつい商いの呼び声が寝言で出てしまう。その声に蛍火はその声に惚れこんで家出をしてしまった恋しい人の声を重ね、猿源氏に問うが否定されてしまう。蛍火は紀伊国丹鶴城のお姫様だった彼女は家出のあとで売りとばされてここにいるのだった。目の前の男が恋しい人ではないとすれば自害するとまで言う蛍火に猿源氏も真実を明かし、ふたりは両思いに!そこに姫を探していた男が現れ帰城をうながすが、その用意したお金を遊郭などに渡して、身請けの金として鰯売りの嫁になるという荒唐無稽な話。
大体、伊勢国阿漕ヶ浦でとれた鰯を紀伊国で売ったり京都で売ったりできるのであろうか?それこそナマの鰯が腐ってしまうではないか?などと考えてしまったが、そういう事情もまあお話ということでということになるのかな。

勘三郎はやはり盛綱のような硬い役ではなく、こういう軟かい役の方がこれまで十分に培った魅力が発揮されると思う。私は彼の愛嬌たっぷりの芸が大好きだ(子どものころは藤山寛美の松竹新喜劇のTVを楽しみにしていたくらいこういう三枚目芸が好き)。恋煩いの場面のへろへろな姿、大名になりすましているつもりなのに地が出てしまうところの細かいしぐさ、ふたりが両思いになったあとのでれでれな姿。玉三郎も世間知らずのお姫様出身の遊女の可愛さがふんわりとにじみ出る。ふたり揃って引っ込みの時に猿源氏に続いて蛍火が「いせのくに、あこぎがうらの猿源氏が鰯こえ~」と呼び声を真似する時の可愛さにもう負けてしまった。
しかしながら「鰯こえ~」の意味がわからなかった。鰯が怖いのかな?その後「鰯かうえい」(=鰯買え~)だったことがわかり、ようやく納得したのだった。
地味な2つの演目を締めくくったのがこの楽しい演目で、心も軽く帰途についた。昼の部は翌日なので楽しみは続く。
  
写真は、勘三郎襲名の祝い幕。中村屋の隅切り角に銀杏の紋がある。