Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

ピアノソナタ変ニ長調D567第4稿(No.1804)

2011-03-14 21:10:36 | 作曲家・シューベルト(1797-1828
本日は http://blog.goo.ne.jp/piano_music/e/6deb13f431333971252cad473d521415 の続きである。1817年10月に交響曲第6番ハ長調D589 を作曲開始して間もなく、シューベルトに「イタリア風序曲」の作曲依頼が舞い込む。シューベルトは ニ長調D590 と ハ長調D591 を11月に作曲開始する。どちらか1曲が実際に使用されたのだが、どちらかが断定できない。状況証拠からすると、シューベルト自身が急いでパート譜を作成した ハ長調D591 の可能性が極めて高い。少なからぬ現金収入も見込め、シューベルトの作曲意欲は相当に高まっていた。
 『シューベルトの序曲』と言うのは、交響曲第1楽章に近似した形式で作曲される。規模は少しだけ小さいが。ニ長調序曲は、交響曲第3番ニ長調D200(1815.05-07)を再利用して終曲する楽しい曲で、冒頭部分は後の「魔法の竪琴」序曲D644 に再利用される。「魔法の竪琴」序曲は「ロザムンデ」序曲として有名なので、そのフレーズは聴けば、シューベルトファンの皆様はすぐにおわかりだと思う。ハ長調序曲D591 の方は、直前に着手していた 交響曲ハ長調D589 に影響を与えた。特に「終楽章=第4楽章」に。

交響曲第6番完成が 翌1818年2月まで「足掛け5ヶ月」となった


のも序曲の影響だろう。シューベルトは「速筆作曲家」と誤解する風潮は21世紀の現在では、相当に正しく「熟考型作曲家」と見直されて来ているが、「転機」となったのが 交響曲第6番D589 なのだ。この曲以前のシューベルトは、交響曲でもミサ曲でも全て3ヶ月以内に仕上げて来たと推測されている。作曲開始時期が明記されていても作曲終了時期が明記されていない曲もあるので断定はできないのだが、どうも「どんな大曲でも2ヶ月以内」が原則で

完成した初のオペラ「悪魔の悦楽城」D84(第1稿) だけが 1813.10.30-1814.05.15 と半年以上かけている


 サリエリの指導の下、「完成」基準がシューベルト自身かどうかがわからないオペラ。ご丁寧に 第2稿が 1814.09.03-10.22 に細部の修正以外に「4曲追加されて、19曲 → 23曲」になったほどの徹底指導である(爆


 話を 交響曲第6番時代のシューベルトに戻そう。おそらく ハ長調序曲D591 が依頼者の期待に応えられ、シューベルトの「ソナタ楽曲」作曲意欲が相当に盛り上がったようだ。すぐに 交響曲第6番 を完成させてもよさそうなところだが、

1817年7月に作曲したばかりの「お気に入り」ピアノソナタ変ニ長調D567 を「3楽章構成 → 4楽章構成」へ再編成を試みる


 具体的には、第3楽章スケルツォ追加である。ハ長調序曲D591 の成功で、気を良くしたのだろうか? 自信を付けたのだろうか? D575 完成以前のシューベルトよりも、自信にあふれた曲が誕生する。「変ロ長調スケルツォ」D593/1 である。これも名曲であり、このまま「完成作」にしても良さそうなことは、ニ長調序曲D590 と同じ。しかし、シューベルトは満足しなかったようで、(序曲と同じように)スケルツォ第2作をも作曲する。変ニ長調スケルツォD593/2 である。これで満足したのか、この年には第3作は作曲されなかった。


 おそらく ト長調ピアノソナタD894作品78 を出版した後に、シューベルトは「出版されたピアノソナタの番号」を再整理しようとした。

  1. 作品42 イ短調D845
  2. 作品53 ニ長調D850
  3. (結局死後出版になってしまった)作品122 変ホ長調D568 1829.05.27ペンナウアー出版(← これがD567の改作)
  4. (結局死後出版になってしまった)作品120 イ長調D664 1829.09.30ツェルニー出版
  5. (結局死後出版になってしまった)作品164 イ短調D537 1852シュピーナ出版(← 遅れが2回生じた様子だ!)

 ト長調ソナタは「幻想曲」で出版されてしまったシューベルトが「D958-D960」を外国で出版しようと試み、ウィーンでの通し番号を再編成しようと試みたことがありありとわかる。イ短調ソナタD537 は無修正で出版しようとしているのに、元の 変ニ長調ソナタD567 は 変ホ長調に移調された上、第3楽章がまたまた新作された。その際に「トリオは大半をそのまま使用したが、前半終結部を改作した上、後半冒頭部も少しだけ改作」となった。さらに第2楽章を「嬰ハ短調 → ト短調」へ移調。両端楽章は展開部を中心に「改良」されたことは間違いないのだが、中間楽章は改良されたのだろうか?

D593/2トリオ → D568/3トリオ の改作は、元の方が素朴で美しい点が多い


ことをここに指摘しておく。前半部終結の「改作の工夫」は素朴さを減じている、とも感じられるのだ。
 さらに、元のスケルツォ主部 と 改作のメヌエット主部 を比べても、「どちらも魅力的」としか言いようがない。「力感のある D593/2主部」と「なめらかさが魅力の D568/3主部」は、どちらも聴く人の耳を捉えて離さないだろう。


 実は

CDでは D593/2 と D568/3 を両方録音したのはシュヒターただ1人しかいない!


ので(現在廃盤なので)聴き比べるのが非常に困難。う~ん、前々回の「シューベルト全曲演奏会」で D568 を全曲弾いている佐伯周子が D593/2 を弾く今回演奏会は極めて貴重な機会なのである。
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