東京中央郵便局の再開発工事が続行されることになってしまいました。表面だけが仮面のように遺されることが、残念でなりません。
白いタイルに覆われた、ゆったりと弧を描くような建物。完成した1930年代初頭には、周囲の様式建築のなかでモダニズムの鮮烈な清らかさが目をひいたことでしょう。でもそれは、これ見よがしのデザインとしてつくられたものではなかったようです。
設計者・吉田鉄郎の言葉。~~ひとをびっくりさせるような建築もおもしろいかもしれない。しかしそんなものは、ほんとうの天才でなければできるわけのものでもないし、またそんなものは、そうたくさんある必要もあるまい。
柄でもないのにうっかりそんなまねをして失敗すると多くの人に迷惑をかけずにすむまい。「みていやでない」建築をつくることも大切なことだ、心掛けと精進次第では、誰にもできそうな気がする・・・~~
そういう目で外観を眺めると、一見ゆったりと等間隔に窓が配されただけに見える壁面が、実に表情豊かであることに気付きます。厳密に吟味されたプロポーション。微妙に丸みを与えられた角部、一糸乱れぬタイルの割り付け。「みていやでない」建築をつくるための労苦が滲み出ます。数知れぬ検討を重ね、一見単純に見える外観には表情が与えられ、結果としてそれは、簡素で慎ましやかでありながら、清らかで格式高いものになっていると思います。それは洗練されたスタンダードとも呼べるのでしょうか。そしてそれはそのまま、吉田鉄郎が愛してやまなかった桂離宮や修学院離宮のもつ美徳につながっていると思います。こういう美徳には、やはりもっと自覚的になるべきだ。世界的にもなかなか類を見ない独自の美徳だと思うんだけどな。
東京中央郵便局は、解体されます。でもきっと、「点」だけ遺しても仕方がなかったのかもしれません。この建物に込められた美徳は、本来、街並みの風景に「面」としてひろがっていってこそ意味があることでしょうから。みんなが個性的な「点」を生み出すことに夢中になったら、世の中トゲトゲしくありませんか?質の高いスタンダードが「面」として広がるヴィジョンを持ちたいと、そんな風にも思います。
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