赤い風船

2009-10-04 20:03:12 | 映画

アルベール・ラモリス監督の映画「赤い風船」を観ました。
 1950年代のパリ。そのなかの一人の少年と、赤い風船をめぐる小さな物語。数世紀分の埃で真っ黒に汚れたパリの光景。暗く陰鬱でありながらなぜ、この街並みはたまらなく美しいのでしょう。そのなかを、赤色の風船が、ふわりふわりと舞っていきます。古く、動かないものの間を縫って、鮮やかで儚い風船が舞う様は、生けるものと死せるもの、というようなことについて、どこかしら暗示的であるようにも感じました。

 

この街のなかで物事を考える、物事をつくるというのは、独特の感情とともにあったのかもしれません。
 以前、古本屋でたまたま手に入れた哲学者・森有正の著作では、1950年代のパリに在住し、黒ずんだノートルダム寺院に思いをはせながら多くの死生観あふれる論考を残していました。
 僕のアトリエの室内に掛けてある岡本半三氏の1960年の「モンマルトル」と題された絵は、その筆遣いのなかにはっきりと、街が積み重ねてきた時間と陰鬱が塗り込められています。
よくは知らないのですが、その後、パリの街は大々的な「汚れ落とし」が行われたそうです。きれいさっぱり汚れを洗い流し、華やかさを取り戻したパリは、しかしながら、かけがえのない何かを失ってしまったのかもしれません。

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 映画「赤い風船」のラストでは、パリの空いっぱいに色とりどりの風船が飛び立ちます。それは「希望」のような感情として、観る僕たちの心にしっかりと届いてきます。日本でも見かける、風船のあの独特の色。なぜ風船がこのような色になったのか、この映画を観るとわかる気がします。

コメント
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