東京・自由が丘に「モンブラン」という老舗のお菓子屋さんがあります。東郷青児がデザインした包装紙や、モンブランというケーキの名前の発祥の店としても有名だそうですが、そのなかで僕がとても好きなケーキがあります。その名前はレーリュッケン。色とりどりのケーキが店先で並ぶなかで、もっとも素朴で地味なのが特徴(?)です。もう何十年と変わらぬ味でつくり続けられてきたもの。ほどよく甘い生地を石のローラーで挽いた跡が表面に刻まれています。僕がまだ小さかった頃、京都から年末年始に東京の祖父母の家に遊びに来たときに食べさせてもらうのが、とても楽しみでした。見かけも味も素朴そのもの。幼ごころに「奥深い味わい」などとたいそうなことは思っていなかったでしょうが、何かこう優しい味わいが大好きでした。大人になったいま、とりたてて甘いモノが好きというわけではないのですが、このケーキだけは何かのときには買って帰ります。なぜだか、考え事をするときにもぴったりのようにも思えるのです。
今年ももうおわります。飾り気のない素朴なケーキ。こいつを食べながら、いろいろなことを思い起こそう。みなさまも、どうぞよいお年を。