ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『 最後のご奉公』 - 8 ( 理解の限界 )

2021-08-17 11:36:43 | 徒然の記

 「ねこ庭」を訪問される方から、自民党が発信している、「まなびと夜間塾」の動画を紹介されました。塩田氏が講師として、出演しているということで、ネットで検索しますと、次のように説明がありました。

 「【まなびとプロジェクト】とは、自民党の中央政治大学院が、」「従来から開催してきた、会員制勉強会【まなびとスコラ】を、」「【憲法に学ぶ『この国のかたち』」】と題して行う、新講座の勉強会です。」「併せて、インターネット配信をすることで、憲法改正への理解をさらに深めます。」

 学院長は元防衛大臣の中谷元氏で、議員や評論家や作家が講師として招かれています。実は、第1 回目の中谷学院長の講義を、私は聞いていました。氏の「憲法講話」の粗雑さとレベルの低さに、こんな動画の配信で、果たして国民の理解が得られるのかと失望し、以後は聞いていませんでした。

 残念ながら塩田氏の講義も、似た印象を受けました。歴史の資料を丹念に調べ、検討しても、扱う人間の器量次第で、さまざまな受け止め方になるのだと、氏が教えてくれました。器量の差がどこから生じるのか、よく分かりませんが、狭い了見の人間は狭い理解しかできないようです。

 捻ねた人間は捻くれた解釈をし、心根の卑しい者はそれなりの理解をし、理解の限界があるような気がします。自分のことは分りませんので、息子や「ねこ庭」を訪ねられる方々にお任せすることにし、その上で述べますと、氏の著作は、資料をもとにした大作ですが、器量を反映したそれなりの内容しかないようです。

 具体的に述べるとスペースが足りませんので、結論だけにしますと、氏は昭和天皇と近衛文麿公を、次のように描いています。

 〈 昭和天皇 〉

   ・ 陛下は、憲法改正に踏み込み、新憲法の中に天皇制を明記することにより、事態を乗り切ることが賢明な方策と考えておられた。

   ・ 陛下は、憲法改正を近衛公に任せるしかないと考えておられた。

   ・ 一方で陛下は、政府の憲法改正の成り行きについて、並々ならぬ関心を寄せられていた。

   ・ 陛下は、海外で言われているような狂信的な独裁者ではないと、叫びたい気持ちを抑えておられた。

 〈 近衛文麿公 〉

   ・ マッカーサー元帥との会談で、憲法改正を任せられたと誤解し、有頂天になっていた。

   ・ 近衛公は木戸内大臣のもとで、政府と無関係に憲法改正作業を進めることに、得意満面であった。

   ・ 本来なら戦争責任を追求されるべき人物が、「マッカーサーからのお墨付きを得た」と誤解し、憲法改正作業の先頭に立った。

 膨大な資料の中から何を選ぶのかは、著者の自由です。「温故知新の読書」から、私が教わった昭和天皇と近衛公は、氏の描く姿とは異なっています。同じ歴史の事実を調べ、検討しても、取り扱う人間の器量次第で、さまざまな受け止め方がされる、と言ったのはこのことです。

 GHQによる処刑を恐れ、逮捕を心配されるという姿で、氏は陛下を描写し、身の程知らずな愚かな人間として、近衛公を語っています。これは全て私の知識と経験を裏切る、浅ましい塩田論でしかありません。私も他人から見ればそうなのでしょうが、氏もまた、自分の器量に合わせた理解しかできていないようです。タイトルにつけた「理解の限界」とは、このことを指しています。

 巣鴨刑務所へ出頭する前夜、近衛公は、自分の心境を記しておこうと決意し、次男の通隆氏に、書き終えたものを渡しました。その後、家人が寝静まった深夜、というより、早朝に青酸カリを服用し、自決します。いわば、このメモが氏の遺言であり、富田氏が全文を掲載していました。
 
 「僕は事変以来、多くの政治上の過誤を犯した。」「これに対して深く責任を感じているが、いわゆる戦争犯罪人として、」「米国の法廷において、裁判を受けることは、たえ難いことである。」
 
 「ことに僕は、支那事変に責任を感ずればこそ、この事変解決を最大の使命とした。」「そしてこの解決の唯一の途は、米国との了解にあるとの結論に達し、」「日米交渉に全力を尽くしたのである。」「その米国から、犯罪人として指名を受けることは、」「誠に残念に思う。」
 
 弁明をしていますが、醜い自己弁護ではありません。陸軍の力を背にした東條陸相、ソ連とドイツを信頼し米国を嫌悪した松岡外相など、公の行く手を阻んだ閣内の勢力に対する批判もしていません。私がもし公を評するとすれば、「決断する胆力の欠如」ではなかったかと思います。さまざまなことを理解する聡明な公は、時に評論家のように批判するけれど、実行案を即決する胆力がありませんでした。それにしましても、塩田氏の描く公は、醜いほどの浅ましい理解です。
 
 「しかし僕の志は、知る人ぞ知る。僕は米国においてさえ、そこに多少の知己が存することを確信する。」
 
 続く叙述は、全てを覚悟した氏の遺言で、私たち国民に遺された、ご先祖さまの言葉でもあります。同じ資料の山から私は別の資料を取り上げ、塩田氏と違った解釈をし、彼を無視します。
 
「戦争に伴う昂奮と、激情と、」「勝てる者の行き過ぎた増長と、」「敗れた者の過度の卑屈と、」「故意の中傷と、誤解に基づく流言飛語と、」「これら一切の世論なるものも、いつかは冷静さを取り戻し、」「正常に復する時も来よう。」「その時初めて、神の法廷において、正義の判決が下されよう。」
 
 東條元総理も松岡元外相も、共に日本のために尽くした政治家であり、欠点があったとしても、戦争犯罪人ではありません。「東京裁判」は、あくまでも連合国軍による復讐裁判であり、今日の私たちには、その証拠資料が沢山示されています。
 
 自分の狭い理解で憲法を語る氏を、なぜか自民党は講師に招いています。中谷学院長を含め、この動画シリーズを企画・実行している自民党の議員諸氏は、本気で「憲法改正」に取り組んでいるつもりなのでしょうか。塩田氏のことも含め、疑問が深まります。
 
 「自民党は、本当に国を大切にする保守政党なのだろうか ? 」
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自民党の「本気度」 (成田あいる)
2021-08-17 21:11:26
私も件の映像を拝見しました。
果たしてこれが、「改憲」に賭けている政党がお金出してまで頼んだ「学者」なのか?と思います。
しかも講演中、「天皇」「天皇」と連呼しているのも気になります。
実際Youtubeの動画にも、「『天皇制』と連呼してたのが気になったし、『天皇制』は制度ではない」と指摘するコメントがありました。

「改憲」を最大のテーマに掲げていた安倍氏が、無念の降板をしてから1年になろうとしています。
菅総理に交代してから、「改憲」は「後退」に近い「停滞」しているような気がします。
加えて塩田氏のような人物を講師に呼んでいるようでは、自民党の「本気度」が疑われます。
高市早苗前総務相が総裁選出馬に前向きのようですが、彼女は「改憲」にも前向きなのでしょうか。
また総理が変わるとなると、「改憲」も含め先行きどうなるのでしょうか…。
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自民党の本気度 (onecat01)
2021-08-17 22:31:23
 成田あいるさん。

 貴方も、この動画を見ておられましたか。お粗末な講義で、呆れてしまいました。

 彼らが招いた講師の中には、御厨貴、田原総一朗、保阪正康が氏いて、驚きました。彼らはむしろ現行憲法擁護論者で、反日左翼の意見を述べます。

 どうやら「自主憲法制定」の意味も、現在の自民党議員には理解されていないようです。がむしゃらな右の議員も困った者ですが、左系の自民党議員たちのやることには、眉を顰めたくなります。勉強すべきは、国民というより、彼ら自身だと思います。

 こんな政治の状況を、どうすれば正しくできるのかと、「温故知新」の読書に学んでおります。

 大事なのは、「諦めないこと」。継続は力なりです。これからもよろしく、お願いいたします。
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