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ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

堺屋太一氏著『大変な時代』 - 8 ( 大量の低賃金労働者が日本経済を救う )

2020-03-19 20:01:44 | 徒然の記

    今回は「金融の規制緩和と自由化」の話に移ります。文章でなく、箇条書きで紹介します。

  ・1980 ( 昭和55 ) 年代後半になると、世界的変化を敏感に受け止めた諸国が、自国でも赤字財政を取るようになった。

  ・1990 ( 平成2 ) 年代になると、ドイツもフランスも、健全財政を捨てた。スペインとスェーデン

   は、赤字がGDP ( 国内総生産 ) の5%以上、イタリアは88%以上の大赤字財政を続けている。

  ・世界中にドルが溢れ、赤字財政が蔓延しても、石油価格も金価格も、穀物価格も値上がりしない

   という、19世紀的経済学では信じられないような、現実の存在となる。

  ・赤字財政が蔓延したことは、世界的に流動する資本を爆発的に膨張させた。

  ・ どこの国にでも投入できる、移動性を持つ資金の洪水は、各国の国内経済も変動させる。

  ・このことが、東アジアの国々が、国内的資本蓄積を持たなくとも、工業生産を大発展させた基礎条件にもなった。

  ・政府の通貨に対する統制力が弱まり、まずアメリカとイギリスで「ビッグバン」と言われる、「金融の規制廃止」が行われた。

 氏は説明していませんが、国の管理や統制から解放された巨大資本が、世に言う「グローバルマネー」であり、「禿鷹ファンド」です。利益だけを求める彼らは、世界中の企業を買い叩き、買収し、不要となれば売り飛ばします。企業のオーナーも従業員人間と見ず売買の対象とし、冷酷なマネーゲームを世界で展開しました。

 バブル崩壊後の日本で、彼らがどのように振る舞ったか、こう言う残酷な事実を語れば良いのに、氏はスルーします。

  ・世界的な工業製品の貿易自由化は、低賃金などの社会条件を利用し、豊かな先進国向けの、製造業を生み出したと言って良い。それを可能にしたのが、「大競争時代」の第三の要素、エレクトロニクス化である。

  ・急激に進歩した「エレクトロニクス技術」は、製造業の現場での、熟練の必要度を低下させ、あまり教育水準の高くない人々でも、高品質の製品を、作れるようにした。

  ・こうした変化を、最も敏感に察知したのはやはりアメリカの企業だった。彼らはこの三つの変化を活用して、さっさと低賃金地域に、生産設備を移してしまったのだ。

 説明の分かり易さに敬意を払い、感心しましたが、「 金融の規制緩和と自由化」と、「エレクトロニクス化」の説明には、嫌悪を感じます。

 氏が述べているのは、私の憎む「グローバリズム」です。保守の顔をしながら、日本の国も歴史も文化も伝統も否定する、地球国家への道を勧めています。

 ここで儲けているのは、誰なのか。一握りの国際金融資本家と、国際複合企業家たちで、それぞれの国の国民は、「安い労働力」として見られているに過ぎません。国民の幸せを考える国は、どこにもなく、そもそも国が消えて、ありません。「愛国心のない」人間の考えることは、こんなものかと怒りを覚えます。 

  ・この三つの要素が、東アジアの低賃金諸国の工業を、国際競争の場に押し出した。極めて安い賃金の人々が、工業製品の分野での競争に、参加するようになった。

  ・何しろ東アジアは、世界の人口の3分の1を占める地域だから、これが工業分野の競争に参加すれば、世界の競争原理は根本から変わってしまう。

  ・製造業が、高度に知的な産業だった時代は、終わったのだ。東ヨーロッパやインドなどで、急速な工業化が起こったとしても、驚くには当たらないであろう。

  こう言う思考の上に立ち、氏が安倍総理に大量移民の受け入れ策を推奨したと知ると、氏への全ての評価がゼロになります。

 181ページのタイトルは、「第五章 ローコスト革命が日本を救う」です。

 大量の移民を入れ、ローコストの社会になった時、おそらく「日本人の国」は無くなっているでしょう。まだ36ページですが、このまま紹介を続けるべきか、考えが止まっています。

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堺屋太一氏著『大変な時代』- 7 ( 裏づけのない紙幣社会 )

2020-03-19 16:59:11 | 徒然の記

 貶すばかりでなく優れた部分も述べなくては、公平な紹介になりません。さすがに経済官僚と感心させられたのが、「大競争時代」についての分析です。

 これを氏の言葉で言い換えると、「ローコスト競争時代」です。コストで競争で倒産するのでなく、利益を出せる低コストで、いかに国際競争に打ち勝っていくか。これが、氏の主張する「大競争時代」の中身です。

 日本の歴史や文化への理解は乏しくても、経済という金勘定の面では優秀な人物ですから、どうすれば日本が「大競争時代」を生き抜けるかにつき、処方箋を考えます。氏はまず、「大競争時代」をもたらしたものとして、次の三要素をあげます。

    1.   ペーパーマネー・ソサイアティー ( 物的裏づけのない紙幣社会  )

    2.   金融の規制緩和と自由化 

    3.   エレクトロニクス化 

 現在の国際社会と日本の状況を理解する上で、不可欠の知識ですが、これが、唯一絶対の判断基準かとなりますと、別の意見があります。どうやら氏に欠けているのは日本の歴史や文化、あるいは伝統への敬意と感謝の気持ちです。もっと率直に言いますと、「愛国心」がありません。

 そこを忘れないようにしながら、氏の意見を紹介します。三つの中で一番大切な要素が、「 ペーパーマネー・ソサイアティー」だと言います。

  ・今、世界各国の通貨は、如何なる物質にも裏付けられていない、完全なペーパーマネーだ。

 説明が始まりますが、文章が煩雑なのでやはり箇条書きにします。

  ・古代の人間が貨幣として利用したのは、主として金属、特に金、銀、銅であった。

  ・19世紀以降の工業社会で、国際的金本位制が確立された。

  ・ 第一次世界大戦により金本位制が揺らぎ、第二次世界大戦後は、金為替本位制に変質した。

  ・ アメリカのドルだけが、国際基軸通貨として金とリンクされ、他国の通貨は固定為替レートで、

   基軸通貨のドルとリンクする、という制度である。

  ・各国通貨と金のつながりは、観念的なものとなるが、果たす機能は「金本位制」と同様である。

  ・ この制度がある限り、基軸通貨のドルがなくなると、通貨価値の安定を図るため、各国は緊縮政策

   を取らなければならなくなる。

  ・アメリカ自身も、国際収支が赤字になれば、引き締め政策、いわゆる「ドル防衛政策」を

   取らねばならない。

  ・第二次大戦後、アイゼンハワー政権の末期に、「ドル防衛問題」が大きく浮上した。

  ・ケネディ、ジョンソン時代に、ドル防衛問題は、ベトナム戦争と並ぶ重要政策課題となった。

   ・昭和46年のニクソンショックで、金とドルの交換が停止され、金為替本位体制が崩壊し、

   全世界が「ペーパーマネー・ソサィアティ」となった。

    ・アメリカは善意と惰性から、金為替本位体制があるかのように振る舞い、国際収支が赤字になる

   と、大慌てで引き締め政策をとった。

    ・カーター 政権までは、年2百億ドルの赤字で大騒ぎになり、不況覚悟の引き締め策をとった。

 ここまでは、テレビや新聞の報道で知っている出来事です。「眼から鱗」というのは、次の叙述でした。

  ・ところが、昭和56年に登場したレーガン大統領は、現代がペーパーマネー・ソサイアティーであることに気づき、それにふさわしい政策をやり出した。

  ・国内物価が急騰しない限り、国の財政赤字を苦にしない積極財政、破滅的な楽観主義とさえ言えるような、政策をとったのである。これによりアメリカの景気が振興し、強いアメリカが回復し、冷戦に勝利することとなる。

  ・レーガン氏の偉大さは、称賛されて然るべきだ。

  ・今やアメリカでは、国際収支の赤字1 ,500億ドル、財政赤字は2,000億ドルが当たり前、国際収支も財政も、1,000億ドル程度の赤字なら、誰も気にしないという、概念変化が起こっている。

  ・いつの時代でも偉大な為政者は、巨大な問題を残すものだ。

 境屋氏の嘆息です。

 つまりレーガン氏がやったことは、赤字でドルが足りないのなら、ドル紙幣を印刷すれば良いという放漫政策です。ソ連との軍拡競争に、この政策でレーガンのアメリカが勝利し、ゴルバチョフのソ連が崩壊しました。

 やりて官僚の堺屋氏も考えつかないレーガン氏の政策でしたから、氏は嘆息するしかなかったのです。

 おかげで興味深く、わかりやすく国際金融の勉強ができ、レーガン大統領の偉大さを知ることができました。大競争時代の三要素の一つが終わりましたので、次回は残る二つです。

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