だらだら日記goo編

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伝説に彩られて

2006-10-12 22:14:15 | アート・文化

ルソー伝説というのがあるそうだ。

熱帯雨林のジャングルを描けるのはナポレオン三世のメキシコ遠征に従軍したからだという説だ。

しかし本当は異国への憧れから、植物園に通って動物図鑑を見て空想の中の世界を描いたというのが真相のようだ。

藤田嗣治がパリに行ってピカソのアトリエでルソーの絵を見せられて驚愕したという話も割り引いて考えたほうがよいという。

確かに藤田の初期の絵は異邦人としての物寂しさこそあれ、ルソー的な無邪気さはまったくない。

こういう話が出回るのも、アンリ・ルソーという画家がつまりは正体がよくわからないことからきているのだろう。

税関で働き、独学で絵を学び、アンデパンダン展という無審査で誰でも応募できる展覧会にせっせと出品し、後にピカソらに認められた画家、アンリ・ルソーーその業績と日本への影響を探る展覧会「ルソーの見た夢、ルソーに見る夢」に東京新聞の招待券で世田谷美術館へ行くが、カタログに世田谷美術館の館長が現在欧米でルソーの大掛かりな展覧会が開かれているため、外国からのルソー作品の貸し出しは無理で国内だけのルソーコレクションで展示を作らざるを得なかったと述べているようにこれは期待はずれの展覧会だ。

ルソーの作品は二十点あまりしか出品されず、後は国内のルソーに影響を受けたという人たちの作品で展示を作ったが、近代画家でルソーに本当に影響を受けたのは岡鹿之助と松本俊介くらいだろう、この二人は実際にルソー作品の研究をしていた。

後はルソーが好きだとどこかで語ったくらいで勝手にルソーに影響を受けたと判断されてしまった画家や写真家の作品ばかりで、中には人物像を真正面から描いているからルソー的だと決め付けられてはその芸術家が迷惑だろう。

むしろ現代作家のほうがルソーに近づいている、ルソーそのものをモチーフにしている。

横尾忠則然り、AY-Oしかりと。

しかしこの展覧会は準備不足でもある。

ルソーを考えるなら白樺派の影響も無視できないのにそこにはまったく触れない。

世田谷美術館開館二十年でNHKプロモーションもかかわっているのにいささかお粗末ではないか。


フランス絵画伝統の重み

2006-10-10 21:49:22 | アート・文化

この人の絵は八王子の村内美術館で特集展示としてみたことがある。

馬の絵が印象的だったが特に深く心には残らなかった。

しかし今回三越の展覧会をNHKサービスセンターの招待券で観に行き、浅はかな自己主張ばかり目立つ現代絵画にあってこの人の絵画はいい意味でのフランスの伝統を引き継いだ画家であることを再発見した。

アンドレ・ブラジリエ、その画業五十五年の展覧会だ。

いい意味でこの人の作品は色彩感覚にすぐれている、特に青の表現がよい。

色の効果が抜群で、海やら雲やらを描いた風景画は伝統的な印象派を意識している。

馬だけではなく、この人はオーケストラをもよく描く、そこには明らかにデュフィが意識されていよう。

人物画はなんだか日本の近代画を観ている感覚を受けるが、それもそのはず、この人は日本にも造詣が深く、東山魁夷に唐招提寺を案内されたという。

日本を題材にした作品「日本の風呂」「トリコロールの富士山」も展示される。

ビデオの中でこの人は「造形と感情の調和」が課題だと語る。

それは目に見える形とそれを超えた精神性を作品の中に表現することだろう。

このあわただしい時代の中で流行とは関係なくこの人は静かに伝統と向き合い落ち着いた均衡の取れた作品を発表する、貴重というべきだろう。

何でもフランスのお城に住んでいるらしい、相当な財産家なのだろうか。

この展覧会はこの後全国主要な三越を廻りますが、なぜか大阪には行かないみたいです。


人、それを天才という

2006-10-06 22:11:30 | アート・文化

会場出口で売っていた大原美術館で開かれたこの人の生誕百年の展覧会のカタログを求めた。

なんと言っても今回の展覧会はこの人と大原家とのかかわりを軸にした展示だからだ。

「わだはゴッホになる」、世界に名をはせる棟方志功、しかしその名前を急速に広めたのは毎年のようにデパートで開催された棟方の展覧会であることをそのカタログで知った。

ついでに版画家棟方を装飾の世界に導きいれたのが大原美術館の大原総一郎であったことも知る。

確かに大原邸の子供部屋にかかっていたというミミズクの絵や「宝珠界童女図」「文殊天童子図」などこれがあの棟方かというほどにかわいい!

チラシにも載っている「風神雷神図」などもかわいらしいといったほうが正解だ。

しかしそこは棟方、仕事になると別人になる。

総一郎の書斎にかかっていたという「断」という文字は決然として力強く強靭な意志を感じる。

そして株式会社クラレだ、大原によって創設され、国産合成繊維ビニロンの工業化という大事業に乗り出すにあたって棟方はベートーヴェンの運命とニーチェのツァラトゥストラにヒントを得た膨大なる板画柵をこしらえる。

文字ばっかり入っていて読みにくいことこの上ないがそれこそ棟方の真骨頂。

この展覧会では当時の倉敷レイヨンの連絡月報の扉絵を描いたのが棟方ではないことが東京展の直前にわかるというおまけまでつく、でその「連絡月報」は「参考資料」として展示される。

棟方の決然たる意思と愛らしくくつろいだ作品の二面性が伺える展覧会は大丸東京にて17日まで。

カタログは今回の展覧会むけのは薄べったく、文字も小さく1500円するのを考えると2000円で大原美術館発行のを求めたほうがよいと思う、こちらでも大原家と棟方のかかわりは充分わかる。