写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

お駄賃ゲット

2012年09月06日 | 生活・ニュース

 300冊出版したが、すぐに完売した岩国検定のテキストブック。すぐに100冊追加発注するも、これまた完売目前。本屋さんにはもう置いてもらってはいない。7冊ばかりを私の手元に置いていた。というのも、受験したい人がぜひ欲しいと言ってきたときに対応するために残しておいたものだ。

 今日も、市内の3人から電話がかかってきて、その内2人は我が家まで来て買ってもらった。さて、これからは残る1人のお話である。昼過ぎ「わしも1冊欲しいんじゃが、本屋じゃあ売っちょらんちゅう。お宅にあるんじゃろうか」と高齢のお爺さんの声で電話がかかってきた。こちらの言うことには何も答えず、一方的な電話の合間に住所・氏名を聞いた。「わしゃあ歩けんけえ、持ってきてくれんか」との申し出だ。

 耳も遠いようである。年の功には勝てそうにもない。クロネコ宅配便よろしく、持って行ってあげることにした。住所は今津、我が家からそんなに遠くはない。ナビを頼りに車で出かけた。「目的地に到着しました」とのナビの声は、住宅街の細い道沿いの家の前であった。

 注文主の表札を確認して奥まった家を見ると、縁側で老夫婦が椅子に座ってこちらを向いている。会釈をしながら近づいた。注文主は96歳のお爺さんであった。何やら難しいことの書いてある紙が5,6枚重ねて置いてある。その上に千円札が無造作に置いてあった。

 雑談していたら、私の小中学校時代の同級生のご両親であることが分かった。「あれが亡くなってもう20年が経ちます」とはお母さんの弁。若くして亡くなった同級生の顔と、瓜二つのお父さんの顔が目の前にあった。置いてある紙はお父さんというか、お爺さんの集めた岩国の歴史に係る資料で、私にくれるという。あまり関心のないものではあったが有り難く頂くことにした。お爺さんの肩書は、「郷土史家」だという。

 しばらく話した後、帰ることにした。「本代として500円頂きます」と言うと「持ってきてもろうたんじゃけえ、千円とっといて」と言って私に札を押しつける。「いえいえ、それはいけません」「いやいや、ええけえ」の繰り返しのあと「それじゃあ、いただきます」と言って、千円札をもらうこととなった。

 あのおじいさんから見れば、私は息子同然というよりも、息子そのものの関係だ。小遣いをくれてやる心境だったろうか。こんな配達なら、これからも足どり軽く出かけたいと思いながら跳ねるようにして帰ってきた。今日は缶ビールが2本飲めるぞ~。