写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

「冗談」

2020年01月07日 | エッセイ・本・映画・音楽・絵画

 購読している毎日新聞の第1面の最下段には、読者が投稿する川柳が毎日18首掲載される。私が毎朝、新聞を広げて真っ先に目を通すのは、この川柳の欄である。現在の世情や人情などを風刺した面白いものが載っているときには、思わずニヤリとさせられる。

 今朝の川柳で一番おもしろいとおもったものは「冗談は さておき言うな 俺の案」というものである。きっとサラリーマンを長くやって来た男が作った1首だと思う。結論の中々でない長い会議の末席で、真剣に考えてひらめき「こんな案はどうかな」と意を決して発言した。

 ところが司会者から「冗談はさておいて、何かいい案はありませんか」と、自分の出した案を、冗談として軽くいなされたときのことを詠んだ川柳であろう。作者と同じサラリーマンを長くやって来た身としては、これに似た場面は何回か自ら経験してきたので、その時の気持ちはよく分かる。

 「冗談」の反対語は「真剣」とか「本気」である。長い会議にイライラして、自分なりに「本気」で考えた案が、司会者の一存で「冗談」に格下げされ、議論の土俵にも上げられなかった悲哀は、本人にしか分からない淋しいものがある。

 その反面、難しい局面で、自分の出した案が採用されたような時には、それなりに嬉しく、会議に参加した甲斐があろうというものである。退職してこの方、「会議」の相手は手強い奥さんただ1人。問題提議した方が、さしずめ司会者の役目をする。

 一応「会議」のスタイルは取ってはいるが、ほとんどは奥さんから「そんな冗談はさておいて……」と言われて、奥さんが提案したものに決まることが多い。日ごろの会話の中で「冗談」が多い私であるが、「真剣」に考えた上での提案も「冗談」と受け止められることが、最近とみに増えてきた。