写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

anger(アンガー)

2014年10月09日 | 生活・ニュース

 2014年のノーベル物理学賞が、次世代照明に使われる青色の発光ダイオード(LED)を開発した中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授(60)、赤崎勇・名城大終身教授(85)、天野浩・名古屋大教授(54)の3人に授与されることが発表された。赤崎氏と天野氏が大学で基礎研究、中村氏が実用化と量産化を成功させたことが評価された。

 3人の中でも、ひと際中村氏の喜びの発言に興味を引かれた。アメリカでのインタビューで「一番有名な賞ですから非常にうれしい」と喜びの声を上げた一方で「ここまで自分を突き動かしてきた原動力はanger(アンガー・怒り)だ」と、早口の英語で何度も「anger」という単語を発していた。

  中村氏が青色LEDを発明したのは、徳島県にある日亜化学工業の「サラリーマン研究者」時代である。徳島大の修士課程を出て、日亜化学に1979年に入社。以来10年間、半導体の開発に携わった。世界を驚かせた発明を支えたのは日亜の自由な研究環境だった。本当は論文発表禁止だったが、中村さんは特許申請の一方で論文を書き続け、会社はそれを黙認した。

 退社後の01年、東京地裁に偉大な発明による対価を求めて提訴。05年、日亜が遅延損害金を含めて約8億4000万円を支払うことで和解が成立したが、会社相手に一研究者が研究成果の対価に関して会社と裁判で争ったことは、大きな話題となった。 

 中村氏はこの対価訴訟の件に止まらず、日本の研究論文の受付基準や審査のやり方についての権威主義、また、LEDを交通信号に採用するに際して、既得権益を持つ公的機関の圧力で中々実用化が困難であったことなど、日本でのいろいろなことに対して怒っている。一個人では容易に突破出来がたいことに対しての「anger」こそがエネルギー源であったことは、彼の学歴や社会に出てからの置かれた立場を見れば想像するに難くない。

 人があることに向かって頑張ろうとしている時のエネルギーの源には、どんなものがあるだろう。劣等感、負けず嫌い、競争心、成功報酬、名誉、社会的地位、社会貢献、単にそれが好きだから、など色々考えられる。「おい、お前はどんなことが頑張るエネルギーなのか」と聞かれれば「間違った権力に楯突く心、すなわち怒り(アンガー)」や「負けず嫌い」だったろうか。中村氏のように、世界的な発明にまで持って行けるほどのアンガーはなかったようである。今は単にどこにでもいる好々爺であるが、毎日怒るネタには困っていない。