ルノゥがぶるんと慄え、彼の言葉をさえぎった。プールから上がった髪の長い娘みたいに、黒い車体がさらに頭をふるった。エンジン音が、セルの声をかき消した。エグゾースト・パイプが春先のちぎれ雲を吐き出した。ロータス・コーティナ、ヴァンデン・プラ・プリンセス1300、スカイラインGTB、キャディラック、ルノゥ5アルピーヌ、レインジ・ローヴァー、ダットサン510、フェラーリ、そして我がMGなど、様々なクルマと様々な人生が交錯する一瞬を鮮かに描いた14の短編を集めた矢作俊彦の短編集。
彼はボンネットを閉じ、運転席へ歩いた。半開きになったドアから、彼女を見降ろした。
(「あたたかく陽の微笑む場所」より)
かつて愛読していたクルマ雑誌「NAVI」に85年から86年に亘って連載されていたこの短編集、その存在は知りつつも結局買わずじまいだったのだけど、先日70、80年代サブカルに詳しいお客さんから突然プレゼントしてもらった。ラッキー(笑)
昔の女性との束の間の再会をどこかアーウィン・ショーを彷彿させるタッチで描く「あたたかく陽の微笑む場所」、“映画が終わるように人生が終わる”はずはないのだけど、そんな思いが募る映画俳優と老バァテンダーが登場する表題作「舵をとり 風上に向く者」、そう言えばこの人は映画『アゲイン AGAIN』を撮った人でもあったなとふと思い出してしまった日活アクション映画への鎮魂歌となっている「銀幕に敬礼」などなど、相変わらずの矢作節炸裂で見事なまでにスタイリッシュな好篇揃い。
ちなみに表題はT.Sエリオットの詩の一節
「キリスト教徒でもユダヤ人でも
舵をとり風上へ向く者は誰でも
かつては美男で人なみに背も高かった
フレバスのことを考えよ。」
からとっているそうで、いかにもヤハギさんであります。
ともあれ、氏のファンならもちろん、広くクルマ好きにもオススメの短編集であります。
今日の1曲 “ This Is My Life" ” : Shirley Bassey
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「一瞬の幸福」の中で主人公が女を誘うときの台詞の中で出てくる歌手がシャリー・バッシー。
イギリスにおける20世紀最後の国民的女性シンガー、なあんていう言われ方もしている彼女、007シリーズの主題歌歌手としても有名なのはご存知の通り。
そんな彼女の代表曲であるこの曲をマイクの映り込みが激しい(苦笑)映像とともに。
この頃もいいですね・・・
矢作さんは車のもいいし、自転車も戦車のもいいですよね~(笑)
余談ですが公開の頃…「アゲイン AGAIN」見るまでは、
石原裕次郎のLP(AGAIN)を買うなんて夢にも
思わなかったデス(苦笑)
それにしてもアルバムまで買っちゃいましたか(笑)
そうしてしまう気持ち、痛いほど分かります。
さすが「Trio the 54」!