波風立男氏の生活と意見

老人暮らしのトキドキ絵日記

人生の扉  №8

2011年10月31日 | 新聞掲載

 昔の教え子で、今は生徒のお母さんから「タイムカプセルはいつ開けるのですPhoto か?」と聞かれた。ついに来たかと思った。
 25年前の格技場完成記念の時に作られた頑丈な木箱のことだ。大きさがちょっとした冷蔵庫ぐらいある。私の学級では、結婚運や子どもの数の予想、その場で脱いだ学校指定ジャージーなんかも入れた。格技場正面の天井近く、すぐ目に入る所に設置した。だが、その時立ち会った者以外、この箱の意味を知らない。扉が校訓の揮毫を飾る額で、カプセルに見えないからだ。私が箱の秘密を忘れなかったのは、この学校を一度離れたが、再び勤務し、時々仰ぎ見ていたからだ。正直、面倒だと思った。当時の生徒数678人、教職員35人への連絡だけでも大仕事だ。だいぶ前に開けるはずだったのにと恨み節も出た。ご健在な当時の校長先生に話したら「この日をずうっと待っていた」と目を輝かせた。観念した。
 今月22日の「開ける会」は全参加者190名、17学級合同クラス会として実現した。生徒たちは大人になっていた。前代未聞の楽しさだった。
 招待される側に格上げされた私には気抜けするほど仕事がなかった。うれしいような寂しいような誇らしいような変な気持ちだ。ただ、「正義、博愛、健康」の校訓を、人生と重ねてこんなに考えたことはなかった。【平成23年10月31日 北海道新聞掲載】


…………………………………………………………………………………………………………………………………………………今回、最後まで悩んだのは題名だ。いつもは、冒頭と文末で迷うのだが。「タイムカプセル」、「開く」、「中学生時代」などの言葉をいくら組み合わせてもピタリ感が無い。文中の「扉」と文末の「人生」で何とか落ち着かせた。表現にはいつも覚悟が伴う。周りには小さなことに映っていたとしても。

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