波風立男氏の生活と意見

老人暮らしのトキドキ絵日記

第39回『ほんのおつきあい』全記録

2024年04月19日 | 読書

3月31日、いつも通り月末日曜の14:00から読書交流会。年度末で皆さん忙しく初の波風氏とママヨさん2人だけの熱い(笑)集まりが行われた。

ママヨ

荒野の胃袋』(井上荒野著:潮文庫)、2014年刊行の単行本、冷やし中華、牡蠣の炊き込みご飯、コンビーフサンド・・・身近な食卓のおいしいもの50品目にまつわる思い出の風景。火宅の井上光晴家で食卓が『家族』だった記憶。普段着で行ける間に合わせ的な店が無い悩ましい外食の話や、父は許さなかっただろうカニカマ使った「秘密のカニ丼」が可笑しかった。食に惹かれて図書館で偶然手に取る★4。

木霊草霊』(伊藤比呂美著:岩波書店)、詩人の著者がこんなに植物が好きだと思わなかった。植物の科名を調べて水や光を知る育て方に驚いた。熊本からカリフォルニアに移り見たこと無い植物に季節毎に出会い、動物と違って名前を知るのも簡単で無く、草木をとことん育てたくさん殺して観察して彼らに仏性を感じ、死んだと思っていたら春に生えてきて簡単に死なないんだとあった。
私は蒲の穂、ヤチブキ、独活、蕗、蕨、山葡萄、こくわ、胡桃など植物に囲まれて育ったのでこの種の本に惹かれる。『キツネフリ』という種を飛び散らせる生存戦略で生き延びている野草が大好きだったが、大人になって礼文で名前を知って嬉しかった。自分は深入りしなかったがトコトン調べ詩人の巧みな言葉で表現して貰い嬉しい★5


続 窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子著:講談社BOOKクラブ)、42年ぶりの続編、笑いながら「えっ、もう終わりなの」と読み終えた。前作より「戦争は絶対にダメだ」という訴えが強く響く。著者が自分を成功者だと思っていない生き方を尊敬する★5。


波風立男

作品集『柚木沙弥郎ノ100年』(女子美柚木沙弥郎展実行委員会:青幻社)、このブログで紹介した『喜び鳥』の作家作品集。変哲無いものに触発された色と形の粋さ斬新さ、平面の親しみやすさと民芸の職人気質に見とれる。101歳で亡くなるまで持続した時代を超える表現性とエネルギーに圧倒される。普段使いから離れず、いつも身近にいてくれる優しさをこの本で確信した。
小学校の図工の時間、茶色の手提げ紙袋にデザインしたとき、思いつきで「かみぶくろです。」という文字を大きく裏表につなげて描いた。絵の好きな先生が褒めてくれた。その時の興奮を、この本の全作品から感じた。実際、文字だけの作品が何点もあった。「こういうので良いんだな」と思ったし、「こういう職業選択もあったかもなあ」と考えたりした。★5

絵本『希望の牧場』(森絵都作:吉田尚令絵)、テレビ(2024年3月10日のNHK「こころの時代~宗教・人生~」、『185頭と1人 生きる意味を探して 𠮷沢正巳』)を見てハッっとした「これは、あの絵本の現場じゃないか?」。原発事故で売ることの出来ない肉牛をあれから13年間も飼い続けていたのか。急いで本棚からこの絵本を抜き出し読んだ。

あしたもエサをやるからな。もりもり食って、クソたれろ。
えんりょはいらねえ。おめえら、牛なんだから。
オレは牛飼いだから、エサをやる。
きめたんだ。おまえらとこにいる。
意味があっても、なくてもな。

胸が詰まった。黒い肉牛はどれもツヤツヤの毛並みだった。全国からこの牛たちにカンパが寄せられていることを知った。牛が生きる意味、牛飼いが生きる意味、そして自分たち人間が生きる意味を思った。★5

続 窓ぎわのトットちゃん』、その時々の細かな情景と感情を忘れずぴったりの言葉で綴る才能に驚く。疎開先の青森で、芸能人の演芸があり「♪銀座の柳」に家族で月に1度食事や買い物した懐かしさを思い出すが、「私、銀座知っている」なんて言ってしまったら親切にしてくれる友だちが悲しくなってしまうというように。作者の凄さは、出自でも仕事でも人生でも運の良し悪しを承知しながら、価値あるものは平和で優しい人間性という哲学を様々な体験から言葉として記憶し、ぶれずに暮らしの心棒にしていることだろう。★5


漁師のNIさんが、『苦海浄土』でわからなかったことが若松英輔著『100分de名著 悲しみの中の真実「石牟礼道子 苦海浄土」』を読んで納得したと教えてくれた。ママヨさんも同じようなことを言っていた。俺もそろそろ読み始めなければだめだなあ、と思った 鹿よけ網の隙間から入られてチューリップとムスカリを全部食べられた(涙)。使い古した楢の原木に昨年秋に椎茸菌(売れ残りえ半額)を埋め込んだ。運が良ければ・・・・と期待していなかったがニョキニョキ出ている(笑)。1勝1負、網は増設終了。

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第38回『ほんのおつきあい』全記録

2024年03月23日 | 読書

先月25日、参加者6人の読書交流会記録。

MS 解錠師(スティーブ・ハミルトン著、越前敏弥訳:ハヤカワミステリー)、息子が高校生の時に読み解錠師いなりたいと言っていた。言葉を失った主人公が絵と解錠の才能で金庫破りの弟子に。未だ半分しか読んでいないがとても面白い★5

ママヨ 前回交流した石牟礼道子著『苦海浄土』に関わる読書のその後。
悲しみのなかの真実 石牟礼道子/苦海浄土(若松英輔著:NHK出版)、2018年に亡くなったこの本がNHK番組「100分de名著」で紹介された時のテキストをもとに指南役の若松さんがずうっと読み続けるべき本として「『苦海浄土』とは何か」を表した。「宗教は死んでしまった」とまで言う悲惨さで読み続けられないのも大事な読書体験という指摘にうなづく。水俣病との闘いとはチッソ会社ではなく文明(便利さ)に対する考え方の変更を迫る、今を生き抜く祈りの世界への道★5
ちようはたり(志村ふくみ著:筑摩書房)、人間国宝の染織家が3回ほど水俣病について書いている。自然からの恵みを忘れていないだろうか、という問いあり。良い本だと波風さんが前に言っていた家の本★5

KK  『夢幻花』(東野圭吾著:PHP研究所)、なぜ殺したのか(殺されたのか)、どうやって殺したのかというミステリー小説の原点に帰る10年前の本。黄色の朝顔(=無幻花)を愛でる老人が殺され真相解明に向かう孫娘。禁断の花を巡る人間ドラマ、伏線の回収が天才的★5
白鳥とコウモリ』(東野圭吾著:幻冬舎)、高名な弁護士が殺され、自供により解決されたはずが加害者と被害者の子どもの疑問から一転、「罪と罰」を考えさせられる題名の妙★5

HFYOGAジャーナル』(ヨガジャーナル日本版編集部:プレジデント社)、ヨガを15年やってきたが、除雪前に身体があちらこちら痛くて準備おテキスト★4
子どもの貧困』(池上彰編:ちくま新書)副題「日本の大課題 社会的養護の現場から考える」、家庭で育つことが出来ない子どもが増え、その状況を知り自分でやれることはないかと手に取った★3

NI  今回は私の父親と私の言葉で交流。利尻で鰊が獲れなくなり稚内に移り沿岸漁業に従事。阿弥陀如来様に帰依し毎日漁の前にはお経をあげていた。とても厳しい人だったがこの言葉は私の生きる指針。「70年の道のりを振り返り険しい時もあったけれど只あなた様(他力本願)にみまもられ過ごして参りましたが何時みはなされようとも悔いる事なし お念仏申すのみ 南無阿弥陀仏 々 々 昨日も今日も又明日もあなたまかせの身なれば死すとも生きるに更に悔いなし 念仏がついてござる」。

私のは「一、親の尊さを越えるものは無い 一、常に生きている証を創造せよ 一、生命には限りあることを知れ 一、他を不幸にする権利など無い 一、幸せは分かち合うもの」。42歳の時、長女に手を上げてまんじりともしない一夜を過ごし娘に送ろうと思った言葉。

波風 『ディアスポラ紀行ー追放された者のまなざし』(徐京植:岩波新書)、本ブログの『君のことは忘れないよ』と『なぜ自分は自分なのか』で触れたので省略。★5 


生きるということは、多くの言葉との出会いであり人間は何て色々な言葉を使い生かされている生き物なんだろうとあらためて思う今回の読書交流会次の読書交流会は、3月31日(日)波風宅で14:00~2時間半程度、参加費200円。本の簡単な内容と感想を交流(多くて3冊)、みんなの話を聞くだけもOK。参加可能ならご連絡を➜ namikazetateo@gmail.com

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第37回『ほんのおつきあい』の記録

2024年02月15日 | 読書

先月28日(日)の午後、初参加のNI氏交えて今年初の読書交流会。気負わずそれでいて少し緊張して読んだ本のことを交流するのは気持ちが良い。朝起きて、冷たい水で顔を洗っているような清々しさ。

HF 『怒らないこと』(アルボムッレ・スマナサーラ著:大和書房)、スリランカのお坊さんの教えで、仏陀が全面否定した『怒り』の智恵が明かされる★5。『ブッタの教え 一日一語』(アルボムッレ・スマナサーラ著:PHP文庫)、今の自分を意識しなるべく怒らないようにしたい時に瞬一瞬の幸福を得るブツダの教えに惹かれる★5。『ブッダ(手塚治虫作:潮出版社)、古代インドのカースト制度や差別意識の社会環境で生きたシッタルダ(ブツダ)の生と死をテーマにした長編漫画★5。

NI 置かれた場所で咲きなさい』(渡辺和子著:幻冬舎)、孫からの相談に祖父としてふさわしい言葉で応えたいという気持ちで読む★2。『いまを生きるあなたへ贈る詩50』(二瓶弘行編:東洋館出版社)、磨かれた詩の言葉で自分の考えや感じ方をあらためて見つめてみたい、中島みゆき『時代』の詩に感銘★2。『校長室新聞』(波風立男著:波風文庫)、今まで何人かの忘れられない人たちに出会ってきたが、その中で40代後半から今に至る1人の人格が言葉で表されている。

KK 『あの魔女を殺せ』(市川哲也著:東京創元社)、密室殺人の物語は書き尽くされている感じがするが新たなトリックがあるのかと読んだが魔術が出てきて★2。『私の源氏物語ノート』(萩原規子著:理論社)、千年を超えるベストセラーは式部が1人の想像力で書いていたと思っていたが・・・・この物語の登場人物を忘れられない自分がいるが再読したいと思った★4。

ママヨ 『自分以外全員他人』(西村亨著:筑摩書房)、表題は普段の生活では実に当たり前のことで家族の間でもそう考えるのが無難で自然、しかしこの小説では生きることの苦しみが連綿と綴られ結末も「なにそれ・・・」★2。『苦海浄土』(石牟礼道子著:講談社文庫)、20代の頃から知っていた本で死ぬまでに読んでおきたいと思っていた。著者は主婦で水俣病が未だ知られていない裁判前に書かれた。読んでおきたいと思ったのは正しかった、残りの2部3部を読みたい★5。

波風立男 岩波ブックレット『ナチスは「良いこと」もしたのか?』と小説『自分以外全員他人』。感想は既に本ブログ掲載済みにつき省略。


今月の読書交流会「ほんのおつきあい」を、2月25日(日)14:00~波風宅で開催します。お茶代200円、読んだ本のあらすじと感想を話してください。お茶を飲みながらみんなの話を聞いてくれるのも大歓迎 波風氏にとって「読書は習慣」、「読書交流会」も続いていくうちにそんな感じになってきたなあ。

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検証『ナチスは「良いこと」もしたのか?』を読む

2024年01月18日 | 読書

知らないことがいっぱいあった『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか(小野寺拓也・田野大輔著:岩波ブックレット)。ナチスがどうやって政権を取ったのか、第1次敗戦後の急速な経済回復はナチスがやったのか、初めて知ったが手厚い家族支援や健康政策、先進的な環境保護政策を評価する人がいてそれは正しいのか。それを知りたいと同時に、他にも2つの関心事があった。
1つは、「どんなものごとにも良い面と悪い面がある」と世の中分かった風なことを言い出す奴が身近にもいるが、それはどこらへんから来るのか知りたかった。2つめは、ロシアが悪い、パレスチナが悪い、中国が悪いという感情と、子ども時代に学んだ少しの知識で固定している「ナチスは悪」の感情は、同じなのか違うのかを考えてみたいと思った。時間もあることだし(笑)、自分の固定観念を疑ったり再確認してみたかった。

ナチスは徹頭徹尾悪、が本書の検証結果。そして時代がもたらした強運と国民支持の泥棒的なかすめ取り政治と圧倒的な暴力支配を知る。ヒトラーの先進的政策のほとんどが中身無い人気取りとモノマネだったとは。身の毛よだつユダヤ人大量虐殺の複数目的も初めて知った。戦争遂行の戦費調達や国民意識統合だけでなく、戦争被災ドイツ国民の住宅や家具の補填とは。権力は維持のために人間らしさなんかかまっていられない、何でもするのだ。
ガザの今の悲惨は、苦しんだ民族が優位に立った時に優しくなるとは限らないを思わせる。ウクライナの戦争は本当にロシアだけが悪いのか、プーチンの言う「ウクライナのネオナチ」は嘘か本当か、アメリカはいつから平和を守る民主的国家になったのか?

ものごとには良悪2面は、万事塞翁が馬のように暮らしの智恵の1つ。胃がんで胃を切ったがあれがなければ禁煙を解除していたかもしれない。雪が積もったが除雪でダイエットと体力養成に効果、なんて日々使ってる。だが、自分自身への都合良い考え方は必ず失敗する、と本書で思う。説教と自慢話と同じ話が老人らしさだが、それで気持ち良く過ごしていると周りは大迷惑。老人同士で群れていると自己満足に磨きがかかるだけ。だからといって孤立すると悪い面が肥大する。
さて、ヒットラーは最後自殺するがその時に何を考えただろう?日本も戦争に負けて「今度やるときには絶対に勝ってやる」と「2度と戦争をしてはいけない」の2つがずうっと続いていると思う。反省にも必ず善悪2つがある。人間の生き方にもやっぱり2つがあると思う。肝心なことは「人間として大丈夫かなあ」と揺れ続けることだと思う。これが1番人間らしいはず。だから人前で、分かった風なことは言わないにこしたことはない。


震度6の金沢に住む知人が、地震の後で手が震えてずうっと止まらなかったとメール。あそこにある原発のニュースが全く入らないことが不安、ドローンの映像も無い。隆起と倒壊と避難の映像は入るが 波風食堂主催の読書交流会は、他の人の読書体験を聞きながら、自分の読んだ本と再度「読書という対話」する機会。老人には読書以上に「対話」が大事。本探しは話相手探し明日21日は、ママヨ社長から波風君への給料日。買いたい物は無いけれど(1万円以下を勝手に買っちゃうから)心が子どものように喜んでいる(笑)後で知ったのだが本書はベストセラーだとか。まだこの国は大丈夫かな。

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『自分以外全員他人』を読む

2024年01月13日 | 読書

今年初の小説自分以外全員他人』(西村亨著:筑摩書房)を読む。「猛烈に面白かった・・・・善良さや純粋さを蹂躙する社会の悲劇を見ているはずがなぜだか笑ってしまう。猛烈に面白かった」という新聞書評を見て図書館に行ったら貸してくれた。
マッサージ店で働く44歳独身の主人公。繊細で人づきあい苦手、暴発してしまう前に自死し生命保険を家族に渡すことだけを希望に生きながらえている。

人に過剰な親切を見せながら、決して踏み込まれないよう壁を作り、人を好きになることも好かれることにも罪悪感を覚え、気の合う人と出会っても、関係が深まりそうになるとわざと嫌われるような真似をして遠ざけた。自分といたらきっとその人は不幸になる(P105) 「ここがこの小説執筆の肝だろう」と付箋を貼っていた波風氏。真面目に考え過ぎたら、(動植物の命を食べること含めて)誰にも迷惑をかけずに生きることも、死ぬことも容易ではない。優しく孤立しがちな(表面的にも内面的にも)人間に、何かの拍子に生死の選択をあいまいにさせてしまう今の社会と時代。

事件らしい事件無く、淡々とした日常が続き、最後の最後近くまでどんでん返しや伏線改修といった「へーっ!」は全くない。だが、生きる時間が未だたくさんあるのに生きることに限界を感じ唯一の希望である自死に向かう姿は、悲劇そのものだが外側から眺めている者には書評の通り実に喜劇。誰の人生もそんなものかもしれない。本作が昨年度の太宰治賞、妙に納得。最後の高揚場面、あれで主人公の唯一の希望はどうなる?


一気呵成に読んだ。ママヨさんも読みたいと言うので、図書館に返却日延長お願いしなければ。つきあいが長くなったり、仲の良かった人にもう1人加わって3人グループになったら私は必ず外されるのでその前に身を引く、と言っていた人を思い出した 来週初め、雪だるまが斜めになり斜線の暴風雪警報マークが、小さな雪だるま&雲マークに変わった。そのままよろしくお願いしますね。

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