波風立男氏の生活と意見

老人暮らしのトキドキ絵日記

【その57】 走れ凡師(後編)

2012年04月26日 | 【保管】一寸凡師コラム

Photo  さっそく説明書を見て、一心不乱にペダルをこぐ凡師。心拍があがった状態で「体力測定」開始。測定に要する時間は60秒。したたる汗、ドコドコする鼓動。昔、体育の先生に「ゆっくり鼻から息をすって、ゆっくり口から息を出す。そうしたら早く回復する」と聞いたことがあったので、迷わず実践。妙に長く感じる60秒。

  60秒後、液晶に表示された数値は「F6」。「F6って何かなぁ?」とわくわくしながら説明書をめくると・・・

                                                 「最も劣っている」

 こんなはずはない。俺は1年以上も歩いて通勤している。(体重は5kg増えたけど) 小6の時はリレーのメンバー(アンカー)にも選ばれた。(最後、直線で抜かれて負けたけど) なにより凡師の魂、そう「凡魂(ぼんたま)」が叫んでいたはず! 機器の誤差だってあるかもしれない。ということで再チャレンジ。何度も「運動→計測」を繰り返し、その度に肩を落とすオジサン凡師。

 おかしい。万人の健康を願って開発されたはずのマシーンが、体力面で衰えを感じているオジサンの「やる気・根気・夢・希望」をここまで打ち砕いていいものなのだろうか。フィットネスジムや競技のトレーニングをするマシーンではない。あくま56 でも家庭内で、健康や体力維持を目的として開発されたマシーンである。このようなマシーンの本来あるべき姿とは、いかに運動を継続させるかである。よって測定結果も「最も劣っている」ではなく、「もっとがんばりましょう」とか「ペダルをこぐ姿、かっこよかったですよ」等の方がいいのだ。体力の衰えたオジサンは傷つきやすい。

 後日、荒馬さんともこの話で盛り上がった。仲間意識の強い(自分だけ打ち砕かれるのが許せない)凡師、荒馬さんにも体力測定を強要。荒馬さんはもと陸上部の俊足スプリンター。働いてからもフットワークの軽さには定評があった。測定結果は・・・。

来週のコラムのお題は「走れ荒馬」(予定)。書き出しは「荒馬はとっても激怒した!」で決定。

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立つ位置

2012年04月24日 | 日記・エッセイ・コラム

Photo_3   先週、大勢の人たちと話した。会合だったり、家を訪ねてくれたり。「祝 退職」が終わり新しい一歩のこの頃。話し相手はすべて顔見知りなのに、前には無い、心がシーンとする瞬間が時々あった。立男が変わったのだ。退職したばかりの立男は己の立つ位置がまだわかっていないからだ。

    立男は1日の隙間無く定年退職後も働いている。中学から大学に変わったけれど、教える仕事は同じだ。この前、心が少し不安定そうだとママヨさんから言われた。一見前と同じだけれど内面が揺れていると言う。こんなことを言う今年のママヨさんは前と少し違う。すごいや、ママヨさん。
    大学の授業は面白い。「昔、支配者の子弟で無ければ通えなかった学校が、今はすべての子どもが通えるようになった理由はなぜだ?」(教職概論)というような問いかけも新鮮だ。13年ぶりの教壇だし…。

  一 昨日夜、定時制高校の参観日。ママヨさんと一緒に学ぶ空気を一杯吸い込んで、何だか嬉しくなった。廊下から子供たちに小さく手を振ったり、休み時間に握手した。知っている親たちともそうした。「中学校へ行けなかった時のことを考えると夢みたいだ」と聞き互いに目頭熱くした。食堂も見せていただいた。その日の給食は、カツ丼、温麺、漬け物。いつも美味しいよと子どもたち。この言葉もとても嬉しかった。学びの支えがこんなふうにしっかりしている、と思った。
  すっかり暗くなって校舎を後に、港の見える食堂へ。ママヨさんはカツ重、立男は天重…笑った。夜学ぶ子どもたちのことを話しながら箸を動かした。停泊している底引き船が光の中で輝いていた。

イラストは、退職記念にいただいたお花。フィリピン原産、子どもの拳骨ぐらいのつぼみが1ヶ月かかってピンクのフキノトウみたいに咲いた。花言葉は「移り気」…ふーん。南国にはこんな花が咲くのか。いかにも…という感じだ。大胆だけれど、おおらかで優しい。

昨日、前から行きたかった稚内郊外、上勇知の「あとりえ華」に。ご夫妻とお話ができた。次はママヨさんと行く予定。はっとする絵に会える。

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【その56】 走れ凡師(前編)

2012年04月19日 | 【保管】一寸凡師コラム

Photo 421  凡師は激怒した。                                          

 前世は「キリン」と自負する凡師。いつ何時、狙われるかわからない・・・、そんな有事にも素早く対処できるよう「自宅トレーニング」を開始した。中古で見つけた「自転車こぎマシーン」の導入である。
 
 この「自転車こぎマシーン」。凡師が初めて体験したのは中学生の時。足腰強化の為に父親が導入した。中学生の凡師は部活から帰ってきた後も家で黙々と自転車をこいでいた。当時、地区最強と自負していた凡師の足腰は、父親との二人三脚で培われといっても過言ではない。

 当時のマシーンはベルト式で、ベルトの摩擦力で負荷を調整していた。アナログ式のスピードメーターもついており、トレーニング意欲を掻き立てた。あれからウン十年。マシーンは進化を遂げていた。負荷の調整にはマグネットが利用されており、とにかく静か。「朝仕事」に煮詰まった時、窓から見える朝日に向かって自転車をこぐことも可能だ。メーターはデジタル化された。消費カロリー、スピード、距離、運動した時間、心拍数なども表示される。特に凡師の心をくすぐったのは、「体力測定」モード。現在の自分の体力がおおよそどの辺なのかを「客観的」に見ることができるのだ。
 
 凡師は仲間内で「体力」の話題になると決まって「いやー、最近ほんとに体力が落ちちゃって・・・。階段登っただけでも息があがるんだよねぇ」などと言ってきたが、これは完全に「リップサービス」である。凡師には「私は同年代のおじさんたちよりも、確実に体力は上。しかも、結構な差を付けて!」という自信がある。荒馬さんからは「根拠のない自信」だと言われるが、そうではない。体の中の奥底から聞こえる声・・・。そう、言うなれば「凡師の魂(ソウル)」がそう叫んでいるのだ。これを「根拠」と言わずに何と言う!

とは言うものの、この「目に見えない自信」を確信に変えるのも悪くない。
「自転車こぎマシーン」で体力測定をしてみようと決断するまで、時間はかからなかった。        (後編に続く)

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「渾身」(川上健一著:集英社)から

2012年04月18日 | 読書

Photo  久しぶりの川上健一。
「雨鱒の川」の純愛、「翼はどこまでも」の青春、「四月になれば彼女は」の自立、今回はどうかな…と手にした相撲の話…単行本で出た「渾身」(こんしん)、後の楽しみにとっておこうと書店を出たのは5年前。定年退職後に読んだ最初の小説がこれだ。
  映画「ALLWAYS 三丁目の夕日」見終わったみたいな読後感。泣いて笑って泣いて…一昔前の、昭和の香りする心地よさだ。

 普段忘れている心の奥底を刺激される感覚。好き嫌いは分かれるな。恋愛、青春、家族があたり前に描かれている、あたり前を描く才能が非凡な作者。本に非日常を求める人には物足りないだろうな。映画ALL~は、寅さん後の国民映画と言われ、熱烈な映画愛好家には超駄作と言われるそうだ。この小説、似ている。

  30代の頃、「雨鱒の川」で泣く。読書で涙が出るんだと変に感心した。オイオイ声を出して泣いた。誰彼無く、一人で読めよ、電車では読むなよと注意して紹介した。返してもらえず3回買った。
    年末公開予定で映画化されるようだ。この作者の作品はいくつか映画化されているが評判にならない。立男も見たいとは思わない。小説世界だからこそのおもしろさだからなあ。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 昨日、退職(就職)のあいさつ状を出した。「4月吉日」の日付で5月になって出したこともあったから今回は早い。知人らの同種あいあいさつ状が次々と届き始めたから急いだ。今年は春休み無く働いてきたせいかやたら長い4月だ。

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夢のおにぎり

2012年04月16日 | 日記・エッセイ・コラム

Photo_2  「何が嬉しかったの?」とママヨさん。立男が、うたた寝しながら笑っていたらしい。胸の前で何かを大事そうに持っている風、ラッコみたいだったと言う。「ニターが気持ち悪かった」は余計なお世話だ(笑)大きなおにぎり貰ったのさ。夢の中だけど。
                 
 家にお金が無いのはうすうす気づいていたが、退職後は「完全無職」、専業主夫を決め込んでいた。ママヨさんの働き+基礎年金で何とか…。周囲には「食えなくなったらあんたんちの玄関前に立つから握り飯2個(ママヨさんの分も)下さい。すぐ帰るから」と言っていた。「いつ来てもいいよ」と言ってくれる人が大勢いて嬉しい。「時々だから」と念を押した。手土産持参で実行してみよう(高くつくけど精神が大事)後半生の生き方の基本がこれだ。「食」でつながる人間関係…何だか楽しい。立男はずうっと前から、こんな生活を夢見ていたような気がする。
                                           
 卑下せず、押しつけず、笑って「おにぎり下さい」と言える立男、「また来てね」と笑って渡してくれる友、そんなんなら今までの60年間生きてきたのは無駄じゃない、人生の来し方の理想、そんな社会であって欲しい。もらうだけでなく、食べてもらえる自前の食堂も作りたい…ということで、給料をもらう仕事をしなければならなくなったが…これはこれで仕方が無い思し召しなんだろうな…。

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