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読書 ジョン・D・マクドナルド「死のクロスワード・パズル」

2008-03-22 13:00:38 | 読書

 1947年から52年にかけて二流の出版社いわゆるパルプ・マガジンに次々と寄稿したものの中から選ばれ、五編の短編小説が収録されている。
 各編とも死や殺人が描かれ、その中で表題の『死のクロスワード・パズル』が、わたしにとってある種のヒントを与えてくれる。夫が妻を殺そうと画策する。なぜか? 八年の間にマイラの体格はずんぐりし、柔らかい肉があごの下にくっついたが、ものぐさなたちはちっとも変わらなかった。
 それに子供の世話に追われるわけでもないのに、ちっぽけな風呂、狭苦しい台所、折りたたみ式ベッドなどの手入れが楽なはずのアパートに住んでいながら、こまごまとした家事をこなすことが嫌いらしい。がらくたが八年分積もり積もって、さすがのピーターも我慢の極に達した。
 ピーターはきちょうめんな男だった。ワイシャツは毎日着替え、かみそりは浴室の棚のいつもきっちり同じ場所に置き、毎晩靴の中に木型を入れて形を整えていた。そして何より好きなのはクロスワード・パズルで、懸賞の応募を頻繁にしていた。
 そしていよいよガス自殺に見せかけて実行に移した。時間を見計らって帰宅のドアを叩いた。そのとき内部から爆風がドアをふっ飛ばし、立っていたピーターを壁に叩きつけた。
 電報局の若い女性が悲嘆にくれ、警部補が「アパートにはガスが充満していたのです。電話が鳴るとき、内部の磁石とベルを叩くアームの間に火花が発生します。ですから無論あなたがダイヤルして線がつかなかったあと、最初のベルで電話は切れてしまったわけです。あなたに分かるはずはなかったのですよ」と慰めた。
 若い女性はピーターが応募したクロスワード・パズルの当選金が五万ドルであることを知らせようとしていた。
              
             おそらくこんな電話機だったのだろう
 そこでヒント。夫婦が同時に相手を殺そうとしたら、どんなストーリーが考えられるかと思った。わたしは最後の場面を思い浮かべている。照明を絞った部屋には影が出来ていて、二本の燭台からの黄金色の光が、真っ白いテーブルクロスの上の料理に映えている。
 二人で一日かけて作った特別の夜のための特別の料理『スモークトサーモンのオーモニエール』『伊勢えびのうに仕立て』の横にナイフとフォークが並べられ、赤ワインと白ワインが栓を抜いて置かれている。赤ワインに夫は毒を入れた。白ワインには妻が毒を入れた。妻は赤ワイン、夫は白ワインで乾杯する。この毒はいずれも突然の心臓発作を起こして疑惑を持たれることはない。
 わざと相手の手を握ったりしながら、二人とも笑顔で夕食を心から楽しんでいる。そりゃそうだろう、憎しみの相手がこの世からいなくなり、独身時代に返って自由を謳歌できるのだから。料理とワインが二人の胃袋に納まったとき、肉体に異変が起きる。お互いの顔を見合せて、はっとしてこの世で最悪の事態に気がつく。こんなことも考えさせてくれた「死のクロスワード・パズル」だった。

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