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読書 デイヴィッド・ハンドラー「ブルー・ブラッド」

2008-03-01 13:49:44 | 読書

               
 「アメリカで唯一尊敬すべき映画批評家よ。彼なら絶対ユダヤ系だわ。とっても情熱的で、とっても感受性豊かな評を書くわ」と言うのは、デズ・ミトリーの年上の友人ベラ・ティリスだ。
 その映画批評家ミッチ・バーガーは、“正真正銘の街っ子――スタイヴェサント・タウン生まれで、スタイヴェサント高校とコロンビア大学を出た。生まれつきのニューヨーカーなので、まず車の運転などしないのだ。
 しかもマンハッタンを走るのは、あのタクシー運転手、穴ぼこ、配送トラック、バイク便、それに歩行者を思えば、決して簡単な仕事ではない。
 五月の蒸し暑い金曜日の午後のラッシュアワーともなればなおさらだ。着るものといえば、しわくちゃのボタンダウンのシャツ、たっぷりしたVネックのセーター、それにくしゃくしゃのチノだ。
 スポーティなジャケットは二着持っている。オリーヴ色のコーデュロイと濃紺のブレザーだ。宿泊先のホテルの食堂で必要とされる場合に備えて、コーデュロイを持ってきた。が、ネクタイは持ってこなかった。持っていないのだ。ミッチはそのことをとても誇りにしていた”あまり垢抜けない感じで、しかもミッチの体型はやや小太りときている。わたしがイメージしたのは、ジョン・トラボルタやエルトン・ジョンなんだけどねえー。
 いま三十二歳の、そのミッチがやむを得ずレンタカーのトヨタに乗って、インターステート95号線をコネティカットの海岸線にあるドーセットという村を目指していた。
 アート編集者のレイシーが言う「ゴールド・コーストの宝石ドーセットは、ものすごい世襲財産があって――1平方マイル(おおよそ東京千代田区の1/4)あたりの百万長者の数はイーストハンプトンより多いの。それに美しくて俗化してなくて、ニューイングランド風なので日曜版の旅欄の、週末に出かける保養地の記事の対象にはいいわ」という宣告があったからだ。

 その海辺の家々は個性的で、床は磨きこんだ厚板、鏡板や木工装飾がふんだんに配置され、どの部屋も広く風通しがいい。そしてどの部屋にも薪(まき)を燃やす暖炉があり、どの部屋からもすばらしい海が眺望できる。記事を書くにはもってこいの環境だったが、ミッチは死体を掘り出してしまう。
 事件の捜査にやってきたのが、凶悪犯罪班の警部補デジリー(デズ)・ミトリーだった。その彼女は、肌は滑らかで輝いている。時々見せる笑顔は、ミッチの下半身に温かい不思議な効果をもたらす。しかもその姿は思わず息を呑むほどすばらしい。
 大柄で、少なくとも六フィート(約183センチ)はあるが、動きはしなやかで、軽やかに歩く。しかもこれまでにお目にかかった中でもトップ6に入るヒップの持ち主だ。惚れ惚れする美人で黒人だった。
 彼女の指の爪に残る木炭のかすかなかすから、絵を描くことを見抜いたミッチの観察眼に畏敬の念を抱き異性としてデズの心の隅に居座ってくる。

 事件は二人の協力もあって解決されるが、そこに至るまでこのWASPや名家に囲まれた日常が鮮やかに描写される。むしろミッチとデズのラブ・ストーリーといってもいい。面白い記述もある。
 カントリー・クラブで、この地の弁護士が「スーパーのストアブランドの中でも一番安いウィスキーを買ってきて、高価なシングルモルトのボトルに移し変えているメンバーがどれくらいいるか知ったら、君も驚くだろうよ」著者の体裁をかまうWASPを痛烈に批判する揶揄なのだろう。
 ラストはミッチの下半身を襲った暖かい不思議な効果が報われ、デズが言おうとしなかった刺青がある秘密の場所も確かめられた。
 ちなみに題名の「ブルー・ブラッド」は、貴族や名門、あるいはその血統という意味だそうだ。とにかくページに引きずり込まれて寝るのも惜しいくらいだった。

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