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読書「ゲートハウスThe Gate House」ネルソン・デミル著2011年講談社文庫刊

2023-01-04 16:36:35 | 読書
 1人称の上・下巻約1400頁の長い長い物語である。主人公は、ジョン・サッター。税務弁護士で50代の独身男。彼には忌まわしい記憶があって、元既婚者という立場でもある。

 メイフラワー号でやってきた人たちやその後にやってきた人たちを先祖に持ち、ロング・アイランドのゴールド・コーストという超ド級の高級住宅地で広大な地所と15部屋もある邸宅に住んでいたサッター夫妻。

 その妻スーザンは、富豪のスタンホープ家の長女で、生活費として年25万ドル(今の相場で3千4百万円)を父ウィリアムから支給されている。その金を当てにするジョンではなかった。ウォール街で亡き父が共同経営していた法律事務所で大金を稼いでいた。

 ジョン・サッターもサッター家という血筋で、スタンホープ家ほどでもないが、それなりのレベルの人間なのだ。しかし、住んでいるゴールド・コーストの邸宅いわゆるゲスト・ハウスは、スーザン名義である。

 かつてのスタンホープ家の地所は、200エーカー(約80万平方メートル)、と言われても見当もつかないが東京ドーム20個分に相当するらしい。その中に建つ屋敷は、50部屋もある大邸宅なのだ。

 そしてそこに移り住んできたのが、こともあろうにマフィアのドン、フランク・ベラローサという男。ジョンに言わせれば、かなり魅力的な男で引き締まった体にハンサム、話術も巧みで友人関係にまで発展した。そこには大きな落とし穴があった。

 スーザンも超がつくほどの美人、労働といえば、スーザンもマンハッタンで出版社を継いだという大富豪の女性の個人秘書を勤めた経験がある。そのスーザンがこのフランクという男を愛するようになる。ところがある日、スーザンはこの男を射殺する。 が、罪に問われることはなかった。ジョン・サッターは、なんの要求もしないでスーザンと離婚した。それが10年前の出来事、そして今、ロンドンからニューヨークへの飛行機の中で、あの忌々しいく腹立たしいスーザンとフランクとの肉欲の夢を見ていた。ジョンは寝取られた男なのだ。

 物語はここから始まるわけで、ジョン・サッターの人となりも明らかになる。ジョンは会話の中で冗談を連発する。それも低俗な。相手によったら気分を害するだろう。それでもハンサムで頭の回転が速い。

 そしてゴールド・コースト族を「上流階級声、丁寧ではあるが疑問の余地なく権威の響きを帯びている声だ」と揶揄する。そして10年ぶりの帰郷は、スタンホープ家が雇用していた邸外の雑事をこなすアラード夫妻、夫ジョージは既に故人。妻のエセルもホスピスで運命の終焉を待っている。そのエセルの求めで、ジョンが身辺整理のためにこのゲートハウスにやってきた。

 目と鼻の先には、スーザンのゲストハウスがある。しかもゲートハウスのそばを通らないと表通りに出られない。いつかはスーザンと鉢合わせするだろうとジョンは恐れていた。

 しかも周囲の様子は変わっていた。お隣にはイラン人が住んでいるし、マフィアのドンの敷地は細分化され売り渡されていた。6月のさわやかな風がそよぐ午後、亡きフランク・ベラローサの息子アンソニーが訪ねてきた。和やかなうちにもアンソニーは、さりげなくスーザンのことに触れて帰っていった。

 俄然、ジョンは危機感を持った。端的に言えば、「おれの親父を殺しておきながら、罪にも問われずのうのうと生きてやがる。いづれ落とし前をつけるぜ」とジョンには聞こえたかもしれない。

 エセルの葬儀はジョンとスーザンを再び結び付け、息子のエドワード、娘のキャロリンとの再会。かつてのような一家団欒が戻ってきた。

 ただ、スーザンがどのようにフランクを愛するようになったのか。つまりいつ?、どこで?、どのように? これを知りたければ、前作「ゴールド・コースト」を読むしかないだろう。とは言っても、私は触れてほしかった。

 フランクを射殺した場面を説明するとき「フランクに言ったの。愛している……あなたのためなら人生を捨ててもいいって」でもフランクは「ジョンのところに戻れ。やつはあんたを愛している。おれは愛していないね」と言った。

 人生を捨ててもいいと言ったスーザンとよりを戻すなんて、ジョンは軽い男だなと思うしかない。しかし、好事魔多し。FBIや地元警察への告訴状提出、ショットガンやライフルの準備も、マフィアの悪賢さには……著者の冗長な文体に辟易しながらも読了した。

 私はこういうミステリーでも、異文化の手触りも楽しむ方で、気がついたこともある。例えば、ジョンが書類のコピーを外の業者でするということ。プリンターで十分役に立つんだが。大金持ちなのにプリンターを買わないの。

 また、スーザンやジョンが部屋や車の中で聴くのはクラシック音楽、エセルはポピュラー音楽という具合。著者はこれで上流と下流を区別したのかもしれない。クラシック音楽もいろいろで、フランスの作曲家ジュール・マスネの「タイスの瞑想曲」やバッハの「G線上のアリア」ドビュッシーの「月の光」などBGMに適したものが多くある。

 エセルのゲートハウスにあるラジオのスイッチを入れた。「オールド・ケープ・コッド」が流れてきた。
砂丘と潮風が好きなら
趣のある小さな村があちらこちらに
オールド ケープ コッドに恋すること間違いなし

ロブスター・シチューの味が好きなら
オーシャンビューの窓際でお召し上がりいただけます
オールド ケープ コッドに恋すること間違いなし

手招きしそうなまがりくねった道
青い空の下に何マイルも続く緑
日曜日の朝に鳴る教会の鐘
生まれた街を思い出す
パティ・ページが本家のようだが、好みからビング・クロスビーでお届けする。

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