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読書「殺人記念日My lovely wife」サマンサ・ダウニング著2021年ハヤカワ文庫刊

2023-02-26 13:26:35 | 読書
 私の可愛い妻が裏切者で、犯した罪をすべて私に押し付けようとする怖い女だった。それにしてもすさまじい嫉妬と行動力だ。私が語る一部始終で、一人称の小説。

 妻ミリセントと築いた住まいは、ヒドゥン・オークスという周囲を壁に囲まれ出入り口が3カ所、2カ所には警備員がいる中級・高級住宅地で、四つの寝室にすべてバス・ルームがついている。この段落を読んだとき、掃除が大変だろうなあと思った。私が浴室の掃除当番だから。ほんと面倒くさい。

 そこに私カントリー・クラブのテニス・コーチで、外見もよくスーツの着こなしも一目置かれるほどの男と不動産会社のセールスを担当する有能な妻ミリセント、ミリセントは赤い髪と緑の目にすらりとした体形。息子ローリー、娘ジェンナ、いずれもティーンエイジャーの四人暮らし。はたから見れば見事な中産階級のファミリーなのだ。日常はどこにでもある微笑ましい幸せな家族なのだ。しかし、どこの家庭でも人に知られたくないこともある。

 それは人を殺すことなのだ。ターゲットを発掘するのは私。その時は、聴覚障碍者になりすまし見栄えのいい外見とともに好感が持てる男としてトビアスと名乗る。女は体のどこかに欠陥がある人には、母性本能が働くのか気遣いが細かい。私は、健常者の驕りで上から目線にしか映らないと思っている。

 女は単なる獲物なのだ。なぜ人を殺すのか。それはときめきを感じるからだ。殺人行為には自律神経の交感神経が興奮することによってアドレナリンの分泌が高まる。その結果、主な作用として、心拍数や血圧上昇が上昇し、体のパフォーマンスの向上、覚醒作用があり、集中力や注意力の高まり、目の前の恐怖や不安に対して、体と脳が戦闘モードに切り替わる結果、素敵なセックス・ライフが得られる。殺される方にしてみれば、はなはだ迷惑ではある。

 初めは連続殺人鬼の犯行に見せかけようとしたが、その殺人鬼がとっくの昔に死んでいることが判明する。100年以上前から建つ朽ちかけた教会の地下室から、三人の女の遺体が発見される。連日テレビがこれを追う。危機感を覚えた私。

 そんなある日、テレビは血で書いた落書き「トビアス 聴覚障碍者」が犯人を指していると放送される。「トビアス 聴覚障碍者」これを知っているのはミリセント以外ない。妻ミリセントは、私に全部の罪をかぶせようとしている。全身が凍り付いた。

 「美人には気をつけろ」の教訓を生かせなかった。 が、やすやすとくたばってたまるか! 息子・娘が味方になってくれるかどうかが生死の分かれ道。あとはネタバレのため、この辺で終わり。  
 一つだけ話題を提供。それはジャンケン。この本でも子供たちがジャンケンをする。アメリカのジャンケンは、ロック(岩、日本ではグー)、ペーパー(紙、パー)、シザース(ハサミ、チョキ)。それが最近では変わってきているという。「monkey-pirate-robot-ninja-zombie(猿、海賊、ロボット、忍者、ゾンビ)」。「robot」は破壊を表すにぎり拳、「pirate」は海賊の銃、「ninja」は手刀、「monkey」は耳、「zombie」は犠牲者の脳みそに触れる手の形を表しているそう。

 著者のサマンサ・ダウニングは、ニューオーリンズ在住。製造会社勤務のかたわら小説を執筆するアマチュア作家で、二十年間で十二作の小説を書いたが、発表したのは本作がはじめて。本作は2019年に上梓され注目を浴びる。2020年アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)、英国推理作家協会賞、国際スリラー作家協会賞、マカヴィティ賞の最優秀新人賞にノミネートされた。
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