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映画「ハッピーエンド」イザベル:ユペールが出ているので観たが群像劇だった。13歳の少女が主役かな!

2018-08-09 16:16:27 | 映画

           
 オープニングは非常に風変わりな映像から始まる。スマホで遠くから撮った映像で、一人の女性が浴室で就寝前の歯磨きなどを行っている。その映像にキャプションが入る。

 「うがいをする」その音「吐く」「髪をとかす」「ブラッシング」「クリームを塗る」「肌のチェック」「おしっこ」おしっこの音 「水を流す」大きな音 「浴室を出る」「消灯」。

 次が自分の飼っているハムスターの映像。ゲージ入れたハムスターは元気に動き回っている。「これ私のハムスター。飼って1年半。さっき餌に薬を入れた。ママのうつ病の薬。どうなるかな。ママはマジでウザい。泣き言ばかり。みんなもうんざり。パパは何年も前に出てった。24時間愚痴ってばかり、だから今は私にブチまける。(ハムスターが動かなくなった。小さなスコップでつつくが死んでいるようだ)一丁上がり、これが効くかも」

 別の部屋の映像。「人を静かにさせるって簡単。これから救急車を呼ぶ。これでデカい口は叩けなくなった」この映像を撮っていたのはエヴ(ファンティーヌ・アルデュアン)で、まず母親を撮り、ハムスターで薬の効き具合を確かめ、実際に母親に大量の抗うつ薬を飲ませた。病院の処置室に横たわる母親の足をガラス越しに眺めるエヴ。母親の薬のことを尋ねられても知らないという。この可愛い顔のエヴの心の闇は誰も知らない。

 エヴの実の父親はトマ・ロラン(マチュー・カソヴィッツ)で、外科医。ロラン家の広大な屋敷に三家族が同居している。ロラン家は建築業で財をなし創業者のジョルジュ・ロラン(ジャン=ルイ・トランティニャン)と会社を切り盛りしている娘のアンヌ・ロラン(イザベル・ユペール)とその息子のピエール・ロラン(フランツ・ロゴフスキ)それに息子のトマ・ロランと妻のアナイス(ローラ・ファーリンデン)と赤ん坊のポール。

 この家族には独特の雰囲気がある。笑顔のない家族でアンヌに至っては、夕食の席で息子ピエールがワインの注いでいるとき、アルコールを控えるように小言を言う。一人前の大人のピエールが口答えをする。

 それを見ていたジョルジュが「親子げんかは食後にやってもらうとありがたい」とすげない。ダイニング・ルームには美術品の大きな絵画が飾ってあり、骨董品もところどころに見える。

 そんな家族のもとにエヴがやってくる。トマに「パパ」とエヴが言うが、暖かいハグはない。やっとトマの妻アナイスが抱きしめる。

 よく見られる三代目の不甲斐なさ。ジョルジュ、アンヌ、ピエールと引き継ぐはずがピエールにやる気がない。ジョルジュの車いす生活を目の当たりにしながら甘えるにもほどがある。そんな訳でアンヌがピエールの専務の役を解任する手続きを進める。

 エヴは父親トマのパソコンから卑猥な言葉のチャットで秘密を知った。ジョルジュおじいちゃんの85歳の誕生パーティでコントラバスを演奏した彼女じゃないだろうか。エヴは、その様子からアナイスと別れてその女と結婚して私は施設に入れられのかもしれない。それが嫌で持っていたママの薬を飲んで自殺未遂を起こした。

 そんなある日、「I Love Japan」と胸に書いた黒いTシャツでジョルジュおじいちゃんの部屋に行った。おじいちゃんは秘密を打ち明けてくれた。会ったことがない祖母の話だ。
 「ベッドに寝たきりで、口もきけない。私が介護した。会社をお前の伯母に譲り世話をした。そして不快でバカげた苦悩に3年間苦しんだのち、結局私は妻の首を絞めた。正しい選択だった。後悔したことはない。一度もない。これを話したかった」

 ちょっとホットした気分になったエヴは話し出した。「クラスの友達を毒殺しようとした。毒殺とはいえないけど、パパが出てった後、ママは私を臨海学校へ行かせた。精神安定剤をくれた。日に半錠飲むこと。イヤだった。嫌いな子がいた。毎日、彼女の食事に薬を……どんどんおとなしくなるの。ある日卒倒したので、医者が調べて原因がバレた。そこを追い出されただけだった。でも、後悔してる」

 秘密を共有した二人は、アンヌの婚約発表パーティでも並んで座った。海浜に面した壁も柱もドアもテーブルも椅子も真っ白な会場には、小ざっぱりとした人たちで一杯だった。突然、解任されたピエールが現れた。しかもみすぼらしい服装の数人のナイジェリア人を伴って。真っ白なシーツに黒いしみが浮かんだような違和感の世界。

 そのドサクサにまぎれてジョルジュはエヴに車いすを押させて外に出た。コンクリートの道は波打ち際へと続いている。傾斜を下り波打ち際に着いた。「もっと前へ」とジョルジュ。エヴは逡巡する。気配を察知したジョルジュは、「戻りなさい」。

 エヴはゆっくりと戻り始める。ジョルジュは車いすを海に突っ込んだ。波は胸まで届く。死を覚悟したジョルジュ。最愛の妻をなくし車いすのさびしい人生。もともと自殺願望を持っていた。今がチャンス。

 戻って行くエヴが振り返った。おじいちゃんが波に揺られている。スマホを取り出していつもする動画を撮る。どんなキャプションにしようかなと考えているんだろうか。「パパ」という大きな声。トマとアンヌが必死で波打ち際に走って行く。ここで映画は終わる。

 「ハッピーエンド」? 実に皮肉なタイトルだ。ヨーロッパは今移民問題で揺れていて、映画でもアンヌの婚約発表パーティにナイジェリア人を登場させたのも皮肉と言える。汚れのない真っ白な部屋で豪華な食事をたのしむ白い肌のフランス人、黒い肌に粗末な衣類をまとったナイジェリア人。

 「あなたはこれを見てどう思いますか」と問われているようだ。あなたはたまたま白い肌のフランス人に生まれただけ、彼もたまたま黒い肌のアルジェリア人に生まれただけ、どこに違いがある? 

 も一つ、エヴがスマホで動画を撮るがそのSNSについてミヒャエル・ハネケ監督の言葉がある。「そうですね。たとえばカフェに行って周りの家族やカップルを観察してご覧なさい。彼らは大抵、みんながそれぞれスマートフォンを見ていて、たいして会話もしていないでしょう(笑)。ソーシャルネットワークの発展は、ここ十数年でわたしたちのあり方を大きく変えたと思います。このわたしにしても、スマートフォンなしではもう生きていけない。それは便利で素晴らしい一方、大いなる危険がある。人とのダイレクトなコンタクトを失い、完璧に自閉症的になる。そういう自閉症的な社会を描くことに興味があったのです。もうひとつ言えることは、いまやどこにいてもみんなインターネットで何でも世の中のことを知ることができる。情報の洪水です。でもそれらは表面的なものだけで、実際に体験したことではない。それはリアリティとはまったく関係がない。結局我々は何も知らない、見ていないのと同じです。でもそれが現代に生きる我々の運命でもあると思います」そういうことでエヴの存在も納得というわけ。2017年制作 劇場公開2018年3月
  
  
  
  
  
監督
ミヒャエル・ハネケ1942年3月ドイツ、ミュンヘン生まれ。2001年「ピアニスト」でカンヌ国際映画祭グランプリ受賞。2009年「白いリボン」、2012年「愛、アムール」でカンヌ国際映画祭パルム・ドール賞受賞。

キャスト
イザベル・ユペール1953年3月フランス、パリ生まれ。
ジャン=ルイ・トランティニャン1930年12月フランス、ヴォクリューズ生まれ。
マチュー・カソヴィッツ1967年フランス、パリ生まれ。
ファンティーヌ・アルデュアン2005年1月ベルギー、ムスクロン生まれ。
フランツ・ロゴフスキ1986年2月ドイツ生まれ。
ローラ・ファーリンデン出自未詳。
トビー・ジョーンズ1967年9月イギリス、ロンドン生まれ。
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