Wind Socks

気軽に発信します。

読書「お市御寮人」舟橋聖一

2012-05-27 12:34:26 | 読書

                
 お市は、明日の血戦を控えて、夜陰しんしんたる城壁をかすめて、ほととぎすの鳴く声に耳をすましていたが、やがて筆をとって、
 さらぬだに
 打ちぬるほども 夏の夜の
 別れを誘ふ ほととぎすかな

としたため「辞世でございます」
 勝家これをとって読み、落涙をとどめかねたが、自分もまた、一首をしるした。曰く

 夏の夜の
 夢路はかなき 跡の名を
 雲井に上げよ 山ほととぎす
とあった。(本作から引用)

 秀吉に攻められて、遂に落城間近に迫り二人の運命のときが来た。この本では、勝家がお市を絞殺し、自ら割腹、介錯は中村文荷斎だった。その後仕掛けた爆薬が爆発して城もろとも勝家、お市の肉体も霧散霧消した。勝家62歳、お市37歳だった。

 秀吉はお茶々を手に入れたが、恋慕していたお市に死なれて、それがどうしても信じられず爆発は身を隠すための策略に違いないと方々を探したが徒労に終わった。秀吉自身が策謀家であり嘘つきで残酷な性癖の持ち主だから、人もそのように見るのだろう。
 お市を恋慕しながら、浅井長政との間に生まれた男の子万福丸を串刺しにして殺したのが秀吉という。戦国武将は悉くこういう残酷さを持ち合わせていたとはいうものの、幼い子供にまで尻から刀剣で突き刺すというのは理解を超えている。

 この本は、信長とお市の兄妹愛を通して波乱の時代を描いてある。安西篤子著「柴田勝家」津本陽著「前田利家」などを読んだが、いずれも小説と言うより歴史の教科書そっくりで物語性の乏しい内容だったが、この本はそういう危惧を払拭してくれた。

 面白いのは、信長をはじめ勝家、長政など有能な武将ほど女に溺れると命を賭ける愛を示すことだ。秀吉は単に好色なだけで、種無し男だから生殖能力はゼロだ。
 信長は、どうしたことか、ふもじと言う女に惚れこんでしまう。信長は女嫌いだったというから、女の良さに開眼すると毎晩求めたと言う。房事の相性がよかったのだろう。

 スケベになった信長は、森蘭丸の誘いで湯殿の女、これが実は光秀の妻おこいでその姿は、「世にも臈(ろう)たき(洗練された美しさと気品がある意)白磁の裸形に、房々としたぬばたま(黒い)の髪が垂れているうしろ姿」は信長の心を轟かした。
 しかし、うしろ姿で満足できない信長は、寒さに震えながら板囲いの割れ目から目が離せない。やがてザーッと手桶の湯をかけるはずみに、むっちり肥えた膝頭から、僅かながらも、内股の白さが見え、同時に胸もとの若々しい隆起が目にはいった。「年にも似合わず鮮やかな肉づきじゃ」と信長はつぶやいた。その姿に触発されたのか、おこいの寝所に夜這いまでする。これは失敗に終わったが……。
 いずれにしても、こういう話を知ると信長が身近に感じられから不思議なものだ。また、こういう歴史物語を読むと現地に行きたくなるのも確かで、安土城も小谷城も北の庄城なども昔日の面影は勿論ないが、勝家とお市の最後の別れに思いを馳せるのも悪くはないだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする