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読書 ジョン・ハート「川は静かに流れ」

2010-07-18 11:11:45 | 
             
 友人のダニー・フェイスからの一本の電話が、アダム・チェイスを渋々ながら故郷ノース・カロライナ州ソールズベリの土を再び踏ませた。橋を渡った。その川は、ノース・カロライナとサウス・カロライナ両州にまたがって流れるヤドキン川である。橋から約13キロ下流で実家のレッド・ウォーター農場の北端に接する。アダム・チェイスという人間を形作った出来事は、すべてその川の近くで起こった。

 五年前、アダムは殺人容疑者として裁判にかけられた。起訴の根拠が、継母の目撃証言だった。しかし、確たる証拠に欠けていて無罪放免となった。そして、故郷を離れてニューヨークでの生活を求めた。アダムの苦悩の出発点は、母の自殺を目撃したことだ。父との確執、継母との不和が重く垂れ込める。地元の人間が見る目は、アダムを殺人者と断罪していた。

 農場の作業監督の娘グレイスが襲われて瀕死の重傷を負ったり、親友のダニーが殺されるという事件が起こる。五年前の未解決事件、グレイス襲撃事件、ダニー殺人事件の謎を背景に、レッド・ウォーター農場の家族の崩壊を描いてある。読み応えがあり一級のミステリーといえる。

 ちなみにアダムの実家レッド・ウォーター農場の敷地はどれくらいか。1215エーカーつまり4917平方キロメートルもある。これはわたしの住む千葉県の広さ5156平方キロメートルにほぼ匹敵する。
 自分の地所が、端から端まで車で走って2時間以上もかかるとは、目も眩む広さとはこのことか。アメリカならでは、というところか。それなりの苦労もあるようだが。
 なお、この作品は、2008年度アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞(エドガー賞)を受賞している。

 著者は、1965年ノース・カロライナ州生まれ。現在も在住。幼年期を作品の舞台となったローワン郡で過ごす。デイヴィッドソン・カレッジでフランス文学、大学院で会計学と法学の学位を取得した。
 会計、株式仲買、刑事弁護などさまざまな業種で活躍したが、やがて職を辞し、作家を志す。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞にノミネートされた「キングの死」で華々しくデビューした。本書は、ニューヨーク・タイムズほかの主要紙誌で絶賛され、全米ベストセラーを記録した。
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