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読書 マイクル・コナリー「暗く聖なる夜」

2006-06-29 13:12:33 | 読書
 “心に刻まれたものは決して消えない”という言葉と“なんと素晴らしい世界だろう”というのをキーワードとして、退職警官の悲哀を交えた執念をエンタテイメント性豊かに語り、心に残る一冊となった。
              
 警察を退職した52歳のハリー・ボッシュが、現役時代のような緊張感や目標がなくなり落ち着かない日々を送っていた。そんな状態を一変させたのは一本の電話だった。その電話は、強盗に銃弾を浴びせられて眼球だけ動かせるという悲惨な状態で生きながらえているかつての同僚刑事からだった。
 未解決のアンジェラ・ベントン事件の記憶が戻ってきつつあるというものだった。途中で上層部から取り上げられた事件で、気がかりだった。

 これが取掛かりとなって調べ始めるが、ロスアンジェルス市警からの横槍、FBIからの干渉、FBIの別部門 テロ対策のこわもて野郎の嫌がらせは、いずれもボッシュに動くな!と言っていた。
 警察バッジのない身でどういうふうに動いていくのか。実に興味津々で、コナリーは巧妙な仕掛けで事件にせまっていく。こういうパターンはよくあるもので、どう料理するかが問題。マイケル・コナリーは優秀なシェフだ。

 コナリー作品にはよく音楽についての記述があるが、今回はジャズでアート・ペッパー、ルイ・アームストロング、チェット・ベーカーなどが登場する。
 過去の「バドラック・ムーン」では、ルシンダ・ウィリアムズ。「シティ・オブ・ボーンズ」でビル・エヴァンスという具合。

 それにニヤリと笑わせる記述もある。FBIのテロ対策部隊によって、車に衛星追跡装置が取り付けられているのをボッシュは難なく見破る。そのままバーバンク空港の長期駐車場に置きっぱなしにし、自身はラスヴェガスで遊んでいるふうに装う。

 FBIの目は節穴ではなかった。すべてお見通し、ならばお芝居を続ける必要がなくなり、ボッシュは長期駐車場から車を引き上げるとき、隣に駐車していたアリゾナ・ナンバーのピックアップ・トラックにその装置を取り付けてしまう。
 FBIはアリゾナあたりまで必死に追いかけることになる。読者としても痛快で溜飲が下がる。
 コナリーはニヤリとさせてくれたり、ホロリとさせてくれたり,余韻の残る幸せな気分にもさせてくれたりもする。
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