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読んだ本 ピーター・デクスター「ブラザリー・ラヴ」

2005-07-15 13:05:13 | 読書
1986年6月11日付
労働組合の兄弟、百マイル離れて狙撃さる
 昨日、南東ペンシルヴァニア労働組合評議会議長マイケル・フラッドとその兄、ピーターを含む三人の男性が射殺された。警察当局によれば、犯罪組織による銃撃とのことである。
 マイケル・フラッド(32)、そしてアッパー・ダービーのレナード・クロウリー(29)は、引退した屋根職人組合の組合員、ウィリアム・オコナ-所有のテラスハウスの地下で死体となって発見された。二人とも、至近距離からショットガンで撃たれていた。
 同日の早い時刻に、ピーター・フラッド(33)が、百マイル離れたニュージャージー州ケープ・メイの本人名義の別荘の裏庭で、やはり死体となって発見された。彼は役員として同労働組合評議会に名を連ねていた。と新聞記事は伝えた。
 
 新聞記事の背景を、主人公ピーターの8歳からの生い立ちが綴られる。この人の文体が独特で訳者あとがきに「研ぎ澄ました文章と悲しいユーモアを漂わせる会話で描ききる」という。私には力不足でそこまで感じられなかったが、読んでいて引き込まれるのは確か。

 導入部を引用してみよう。“8歳になるピーター・フラッドは、テニス・シューズをはき、この寒さと風に立ち向かうには薄すぎるジャケットを着ている。服は自分で着ることにしている。彼の母親はいつも疲れているからだ。雪が庭一面にうっすらと積もっていて、妹の真新しい足跡が、玄関のステップから、今立ち止まって自分の手袋をじっと見ているその場所まで続いている。あちらこちらで芝が顔をのぞかせている。ピーターはその葉が湿って、うなだれているのに気づく―疲れているんだと思う。表に出ようと必死で背伸びをして、埋もれたくないという芝生の気持ちが、彼にはわかる”

 屋根職人組合を牛耳るアイリッシュ、裏通りを支配するマフィアとのつばぜり合い。暴力が支配する世界で性格が全く違うマイケルとピーター兄弟の物語。独特の魅力のある作家だと思う。この本を読んでなぜかアメリカ最大の労組委員長ジミー・ホッファを思い出す。1975年6月の失踪事件がいまなお解決していない。マフィアに殺されたのか?憶測が飛び交う。
コメント
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