MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

「できません」と言わせて

2016-03-15 15:07:25 | 通訳者のつぶやき
医療通訳をやっている人たちの研修に参加すると
本当にいろんな声が聞こえてきます。

医療通訳は、病院派遣の場合
「一人で行って、一人で通訳して、一人で帰ってくる孤独な作業」と
表現した人がいましたが、本当にそう思うことがあります。

看護師や医師のように同じ職種の人たちとカンファレンスしたり、
倫理に関してアドバイスをもらうというような機会はほとんどありません。

日本の医療通訳者には日本独特の「医療通訳者あるある」があります。

でも、今までなかなかそれを共有したり、議論したりする機会がありませんでした。

以前にも書きましたが、
私たちは「道具」だけど、心を持つ「道具」であることをあまり理解されません。
医療通訳の制度を作るとき、
通訳者の意見や仕事のしやすさ、倫理にかかわる問題を無視して作ると、
制度はあっても、それを行使する通訳者が根付かないものになってしまいます。

2011年に医療通訳士協議会では「医療通訳倫理規定」を作りました。

私も策定委員の一人として参加しましたが、
現在、医療通訳倫理のワークをやるときに
この倫理規定に当てはめて考えていくようにしています。
するとワークを重ねれば重ねるほど、よくできた倫理規定だと思います。

ところで、この前文と9つの条項の中で一番私が気に入っているのは、第4条の部分です。

4:業務遂行能力の自覚と対応
医療通訳士は、自己の業務遂行能力について自覚し、
中立性を保てない場合や自らの能力を超える場合は、
適切な対応を講じ、あるいはその業務を断ることができる。

医療通訳を始めた頃
未熟な状況で様々な医療通訳場面に遭遇し、
逃げ出したくてたまらなかったです。

他にできる人がいたら、その人にお願いしたかった。
私にはできませんと断りたかった。
でも、それが正しいことなのかどうかわかりませんでした。
また、患者や家族を前にして、「通訳できません」はとてもじゃないけど言えなかった。

「自己の業務遂行能力の自覚」ということの大切さを
「中立を保てない」「自らの能力をこえる」ということを自分で判断できる力を
適切な対応を行使する能力を
そして、業務を断る勇気をもつことをこの条項では伝えています。

医療通訳士倫理規定はあらためて「医療通訳者を守るために作られた」と実感します。
みなさんも困ったとき、是非一度この条文を読み返してみてください。