MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

トリックルダウン幻想

2015-12-15 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
12月11日に東京で開催された
大阪大学国際医療シンポジウムGo Global!!7に参加してしました。

様々な取り組みが紹介されて
とても興味深いシンポジウムでしたが
驚いたのは参加者の多くが企業関係の方だったこと。

アウトバウンドについては別の視点ですが、
インバウンドについて、
「医療と健康はビジネスチャンス」ととらえる人たちが多くて
逆に驚きました。

外国人医療支援は、
外国人の医療を受ける権利を守ることと
言語、文化、制度の壁を越えてきちんとした治療を受けられるように
医療者も通訳者もボランティアベースで動いてきました。

それが突然「ビジネスチャンス」といわれても違和感があります。

私は医療者はビジネスだと思って働いていないと思っています。
医療通訳者も患者が第一だと思っています。
これはきれいごとではなく、そういう思いがなければ
医療現場は耐えられないと思うからです。

「ビジネスチャンス」の枠組みで医療通訳が議論されれば、
メディカルツーリズムの患者や富裕層の患者を対象とするか
訪日外国人への日本アピールの材料として使うかになってきます。

そうなれば在日外国人医療における
医療通訳は放置されてしまう懸念があります。

何度も言いますが、
私は医療通訳をビジネスの枠で考えてはいけないと思います。
メディカルツーリズムだけを考える人たちが
在日外国人の医療に目を向けてくれる可能性は薄い。
医療通訳においてはトリックルダウンセオリーは幻想です。

(詳しくは Mネット2015年4月号の拙著「外国人医療における医療通訳のあり方について」をご覧ください)

あくまでも、
日本に暮らす外国人の医療を軸に
その知見をメディカルツーリズム患者や訪日外国人の医療に生かしていくという
構図でなければいけないと思います。

対立を望んでいるわけではありません。
ただ、毅然と医療通訳の役割は何であるのかを考えていなければ
医療通訳者は医療者に尊敬され、一緒に働くものとしてはみてもらえません。

これから医療通訳を議論していくにあたって
その見ている場所に患者がいるかどうかが見分ける鍵になると思っています。


話は変わりますが、私の携帯待ちうけ画面は「太陽の塔」です。
以下は、岡本太郎さんの大好きな言葉


思想はほとんどの場合、社会の情勢とは悲劇的に対立する。
しかし、その対決で世界は充実していく。
それが“思想”なんだよ。
ほんものの思想だったら、情況はどうあれ、
そんなにかんたんにコロコロと変わるものではないはずなんだ。

「強く生きる言葉」 岡本太郎 イーストプレス