MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

同意書違い

2006-01-11 16:21:24 | 通訳者のつぶやき
いつも明るくて元気なAさんが相談にやってきました。「胃の手術をすることになったので、昨日、手術の同意書にサインしたんだけど、少し気になって、一応確認しておこうと思って」とても、元気なので手術と聞いて驚きましたが、ご本人が落ち着いているので、あまり心配しませんでした。
とりあえず、同意書の確認をしようと思い、Aさんは同意書の控えを持ってきていなかったので、ご本人から病院に電話してもらいました。担当の看護婦さんはてきぱきと「あれ?昨日サインしてもらったのは輸血の同意書ですよ。ご本人は、はいはいってサインしてらしたから、ちゃんと理解しているものだと思っていました。」と答えてくれました。説明すると、本人は「輸血」と聞いて、自分の手術が危険なものなのだと思い気の毒なくらい狼狽しています。
「手術の同意書にはサインしないと手術をしてもらえないと思って、あまり内容はわからなかったけど先生を信頼しているから大丈夫だと思った。輸血の同意書をとるとは予想していなかった」とAさん。
日本人でも細かく書かれていることのすべてを理解してサインしているわけではないかもしれません。もちろん同意書を読まずにサインをしてすべてを医師に任せるというのも選択肢の一つかもしれません。
しかし、読むことができれば、わからなければ聞くことができます。「知る権利」を放棄するかどうかは本人の責任です。そこに書かれている内容をまったく理解できずにサインするという状況とは少し違います。
結局、看護師さんに読み上げてもらって、輸血同意書を通訳しました。本人にとってはかなり怖い内容がかかれてあったのですが、最悪の状況の説明であることも伝えたうえで了解してもらいました。ここでもし、この人の信じる宗教が輸血を禁止していたなら、輸血を受け付けない体質であったら、大変なことになります。
日本では、理解しないものにはサインしないでくださいと何度も伝えていますが、一刻も早く手術して欲しいという気持ちが、内容を確認しないままの同意書サインになったのだと思います。
医療現場で外国人患者さんに渡した日本語の文章やお知らせが、100%患者さんに伝わっているとは限りません。重要なことは是非言葉で確認していただけたらと思います。