MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

非常事態宣言だ

2020-04-09 03:19:08 | 通訳者のつぶやき
おととい、新型コロナウィルスをめぐる非常事態宣言がでました。

スペイン語学習者として
「ストライキ」や「クーデター」は比較的早く覚える単語ですが、
「非常事態宣言」という単語は今回はじめて使いました。
今月に入ってから、相談は「いつでる」「どうなる」というものが多かったので
いつものようにペルーの人たちから自然と教えてもらう形になります。

彼らの多くは日本のニュースもみてるけど本国やヨーロッパ、アメリカのニュースを見ています。
だから、なかなか非常事態宣言の出ない日本に不安を覚えたり
非常事態宣言イコール都市封鎖や外出禁止令というイメージを持っているような気がします。
一番多かったのは、非常事態宣言がでたら仕事に行かなくていいのかというものでした。
「いや、仕事は・・・会社が来るなと言わない限り、行かなければいけないみたい」
「休んでもいいけど、自分で休んだら有給休暇になってしまうみたい」と。
もちろん、子供が学校を休むことで親が仕事に行けないときに保障される
「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」
は4月以降も延長になっているため、それを適用してもらうために会社に説明することはありますが、
それ以外は仕事を休んで家にいなさいというものでもなさそうです。
また、学校も2転3転しているため、広報などの印刷した配布物では間に合わず
日本語のメールが読めない人については
電話での連絡の通訳が多くなります。
毎日、職場に着いたら電話が鳴り始め、昼休みの時間は鳴りっぱなしでとれないこともあります。

兵庫県国際国際交流協会の相談窓口では
来週13日から面談による相談を取りやめます。
リスク回避だけでなく、感染により窓口を閉鎖させてしまっては元も子もないので
せめて電話での相談・通訳を継続させるための苦肉の策です。
もちろん、平時であれば面談での相談は大切です。
ただ、こうした非常時には100か0かではなく
できることをきちんと全うするという発想が必要だと思います。
一人の面談にかかる時間を、少しでも多くの電話による問い合わせに割きたいという思いもあります。

医療通訳も同行ありきではなく、広く電話や遠隔通訳を使うことで
通訳者のリスクや移動の手間を省いで、少しでも多くの通訳ができるように
お互いに工夫をしていくことが大切です。
電話機による感染のおそれもあるため、最近では少し聞きづらいですが
設定をスピーカーにしてもらい通訳しています。

非常事態宣言を受けて、
今は時間がたくさんあるので、老後の楽しみの前倒しをしています。
先日は前から見たかった「キングダム」のアニメ版を一気にみました。
本も前から読みたかった脳科学の本と行動経済学の本をまとめて読んでます。

職場で、家庭で、ボランティアでもそれぞれの持ち場で頑張るしかない状況ですが
一日も早い終息を祈り、皆さんとまたお会いできる日を楽しみにしています。

seguro blanco 白い保険(証)

2020-03-26 01:30:33 | 通訳者のつぶやき
医療通訳者泣かせの言葉に
「日本にいるコミュニティの人だけが使う表現」があります。

日本にしかない制度や風習などに、あてはまる言葉がないと
共通の認識を形成するためにいくつかの言葉が作られて、
使いやすい言葉や影響力のある言葉が残ります。
たとえば「介護保険」のような日本独特の意味を伝えないとわかりにくい言葉や
「熱中症」のように日本でよく使われ病名というより症状を伝える言葉などがそうした悩ましい言葉です。
これは正式な言葉ではないので、Wiki先生にも載っていません。
もちろん、医療通訳者はそこまで彼らの言葉に合わせる必要はなく
共通認識として意味が伝わればいいと思います。
ただ、知っていればぐっとお互いの距離が縮まる気がします。

こうした言葉を拾うために、私たちは母語コミュニティの情報をチェックします。
日本に住む外国人が目にする雑誌やHPはどのコミュニティにもいくつかあります。
こうした雑誌やHPが使う言葉は日本にいるコミュニティに影響を与えます。
スペイン語の場合は、Mercado LatinoLatin-a、KYODAIなどでしょうか。
もちろん、個人のSNSなども無視できませんが、
そこまで追いかけるのは大変なので、とりあえず活字になったり多くの人がチェックしているものでいいと思います。

先日、ポルトガル語の雑誌が「Seguro Blanco」(白い保険)という特集をしました。
白い保険って、なんだと思いますか?
ヒントなしで答えられる人は、かなりの通ですね。
じゃあ、白い保険証ではどうでしょうか。
国民健康保険は市町村によって色が違うし、
社会保険の健康保険証も健康保険組合によっても形状や色がちがったりします。
読み進んでいってはじめて、
「限度額認定証」のことを「白い保険証」と表現していることがわかります。

確かに、少なくとも多くの人がもっている協会けんぽの限度額認定証は白いです。
(画像検索すると、国民健康保険や後期高齢者医療には色つきもあるみたいですがよくわかりません)
カードというよりは紙といった形状です。
入院する人や高額の医療費がかかりそうな人、長期にわたる治療が必要な患者さんなどは
治療や入院が始まる前や遅くとも支払いが始まるまでに、
必ずこの限度額認定証を取得しておくように伝えます。
会社に頼まなくても自分で直接請求できます。
詳細はもっともっと複雑なんですが、ざっくりいうと

日本では収入によって、また状況によって一か月の医療費の上限が決まっています。
その上限をあらかじめ証明しておくのが、この限度額認定証で
これを提出すれば、窓口で上限額を支払うだけで済むというものです。
この限度額認定証を取っておかないと、一度医療費を全額払ってから
数か月たってからの払い戻しを受けるという手間がかかります。
貯金のない人や給料支払い前の人に
この立替はけっこうきついので知り合いから借金したり、
給料の前借をしなければいけないことが起こります。
だから、長期や高額な医療を受ける人たちには
この認定証はとても大切なものです。

この長い表現を「白い保険証」でまとめてしまう
センスが無茶だ・・と思いつつすごいなあと思います。
名前ができれば、概念が広がっていくというのは
「医療通訳」という言葉ができて広がっていく過程で実感しています。
「限度額認定証」がこうした誰にでもわかる身近な言葉になって
ひろがっていけば困る人も少なくなります。
もちろん、白くない限度額認定証があることも頭に入れておかないといけません。
だから実態を表していないというのはそのとおりなのですが、
少なくとも協会けんぽの人には通じるので
硬いことを言わずに、こうした言葉の広がりを楽しむ場面があってもいいかなと思います。
また、コミュニティ通訳者はこうした辞書に書かれていない言葉にも
アンテナを張っておく必要があるのだと痛感します。
言葉を集めるという点では、私たちの先生は患者や利用者だったりします。

大学の前期開講日が延期になりました。
コロナ禍の影響はじわじわと社会全体にでてきています。
外国人住民にとっても例外ではありません。
出入国管理についても、様々な通達がでていますので、
あきらめず確認をしてみてください。




パーソナルスペース

2020-03-17 04:00:48 | 通訳者のつぶやき
私の本業はスペイン語の相談員です。

コロナウィルスが流行り始めた頃、
一番困ったのはクライエントとの距離の取り方でした。

「こころの距離」であるバウンダリーは
プロの通訳者、相談員として仕事を続けるためにも
意識的に確保していますが、
「身体的な接触・距離」は、文化によって違います。

私の通訳言語はスペイン語で
中南米の方を対象に仕事をしています。
握手やハグは一般的な挨拶です。
挨拶をしないと、ぎこちない空気になるし
ラポール(信頼関係)を得るのに時間がかかることもあります。

今では、あのスキンシップ大国(!)イタリアでも
握手やハグやキスはやめるように言われていますが
まだ日本で市中感染が確認されていなかった頃には、
握手やハグを断るのはなかなか大変でした。

とりあえず、握手して、もうしわけないけど
すぐにアルコール除菌したり
そのままどこも触らずに手を洗いに行くという形をとりました。

マスクをする文化のない方々の前でマスクをするのも
相手にとっては嫌だろうなと思いながらも
ごめんねと言いながらマスクをして対応していました。
(今では、相談者のほうがマスクをしてきます)

15年程前に、医療通訳者の立ち位置の議論をしたときに
言語によってパーソナルスペースが違うことがはっきりしました。
教科書に書かれたような対応だと
言語によっては患者や家族とのラポールが築けないことも感じていました。
外国人を対象とする通訳者には異文化対応の視点が常に求められます。
医療通訳者には医療行為はできません。
でも、私は横にいるだけで血圧が下がるような医療通訳者が理想だと思っています。

感染症は一時的ではあるけれど
人と人とのパーソナルスペースをかえるなあと少しさびしく思います。


感染症の医療通訳

2020-03-04 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
ある感染症の先生とお話をしていたときのことです。

私「感染症の患者さんの医療通訳が難しいのです」
先生「そりゃ、個人の自由を制限したり、束縛したりしなければならないことがあるから
感染症の通訳は難しいよ」

あ~なるほどなあ。
実は私が縁あって参加させてもらっている学会は
「日本渡航医学会」と「多文化間精神医学会」です。
(家族のことがあってからここ5年程参加できていませんが)
どちらも学会に参加されている医師やコメディカルの人たちに
誘ってもらって参加しているのですが、
確かに、感染症と精神科はどちらも「個人の患者」としてだけでなく
「社会の患者」である側面があるため、措置入院や治療などの
強制力が働くケースがあり、それを理解してもらうのが大変です。
だから、より医療通訳が必要なのだと思います。

私が医療通訳を制度化したいと思った理由のひとつに
結核患者さんの通訳の時の経験があります。
すでに排菌していた患者さんだったのですが、
入院を拒んでおり、その説得には本国家族の生活や
社会保障制度の理解、文化的背景も絡んできました。
結核を周囲に蔓延させることはできません。
説得の通訳が続きました。
もちろん、通訳者は自分の言葉を付け加えることはできません。
ただし、通訳をする中で医療通訳者が感じ取る感染症に関する考え方の違いや
医療制度の違い、社会とのかかわり方の違いについては介入の必要な場面もありました。

そうした中で、医療通訳はどの立ち位置であるべきかを
とても悩んだことがきっかけです。

だから、「感染症」と「精神科」の通訳は
より高度な知識と通訳技術とともに文化の仲介ができる能力や制度理解が
必要になってくると考えています。

今回のコロナウィルスによる感染については
10年前の新型インフルエンザの時と同様
同席することで通訳者の感染リスクが上がるのであれば
電話通訳などに切り替えていくことを推奨しています。
医師や看護師はそこにいないと治療ができませんが
医療通訳者はそこにいなくても音声や手話の場合はskypeなどの映像で通訳できます。
そこに通訳が「いる」か「いないか」の2択ではなく
合理的な方法を導き出し、それを比較勘案してみることが大切です。

コロナウィルスがこれ以上広まらず、
一日も早く終息に向かうことを祈って
市民のひとりとして何ができるかを考えたいと思います。






医療通訳のブランディングについて

2020-02-22 15:14:35 | 通訳者のつぶやき
7月に大阪で開催される日本看護学会学術集会のテーマは
「今こそブランディング~看護のプライドとパッション」で
なんかかっこいいですね。

brandingとはWiki先生によると
「ブランドに対する共感や信頼などを通じて顧客にとっての価値を高めていく、企業と組織のマーケティング戦略の1つ」とのこと。
ブランドとして認知されていないものをブランドに育て上げる、
あるいはブランド構成要素を強化し、活性・維持管理していくことです。
看護は既に国家資格であり、その役割は社会的に認知されていると思われるのですが
それでもこうしたテーマを掲げて、専門職としてのさらなるブランディングを掲げています。

私たち医療通訳者はどうでしょうか。
まだ、ブランドとしてはっきり認知されておらず、未熟でもあります。
でも、実際に在住外国人は増え続け需要は確実に増えているにもかかわらず
その姿が見えにくい状況にあります。
医療通訳者ってこういう人だよと言うことをもっと伝えるために
私たちも医療通訳のブランディングについて、もっと真摯に考えていかねばと思います。
00年代、私たちは「医療通訳を知って下さい」というスタンスで活動していました。
現在、医療通訳の必要性は少なくとも関係者にとっては共通認識として存在しています。
ただし、誰が何のために、どのような形で行っているかどうかが見えていない。
専門職としてのブランディングが不足しているのです。

その理由として、私は研究者の不足を上げたいと思います。
また、質の向上のためのトレーナーも不足しています。

MEDINTは医療通訳の制度化に向けての情報発信と
医療通訳者のトレーニングを中心に活動してきました。
来年20年目をむかえるにあたってその方向性の見直しを
考えていかなければいけない時期にきています。
他の医療通訳者団体も同じような局面にあるのではと思います。

看護雑誌の連載がはじまりました

2020-02-06 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
お久しぶりです。
1月は研修三昧で飛び回ってました。
大阪府看護協会の日本国際看護師の養成研修や
静岡県や沖縄県、奈良県での外国人相談窓口研修、
岸和田市医師会の看護専門学校の授業など
昨年4月の入管法改正以来、専門職や窓口が「合理的配慮」としての
外国人に関する理解や接遇を学ぶ機会が増えてきています。

この活動は医療通訳と直接関係ないように思われますが、
外国人にかかわる専門職や窓口が
外国人対応に慣れてくれれば、
通訳者の介入もスムーズになります。
やさしい日本語の普及や音声翻訳ソフトの適切な利用なども
日本語に慣れていない外国人が困らない社会を作る社会資源です。
「言葉で困らない社会」は医療通訳者だけで作れるものではありません。
医療通訳に関する社会のコンセンサスが進んできている昨今
これから私たちが行うのは、医療通訳者が働きやすい環境の整備だと考えています。

一方で、看護・医療系出版社であるメディカ出版の22雑誌の巻末にある
共通コラム「カンパネオ」で今年の2月号から隔月連載をはじめました。
タイトルは「外国人の患者さんが来ました 国際化で求められる知識とコミュニケーション術」です。
外国人対応には専門職連携が欠かせないので、
私とゲストで質疑応答の形式をとっています。
第1回のテーマは「外来看護師」で、りんくう総合医療センターの新垣看護師と共同執筆です。
1ページのコラムですので、すぐに読めると思います。
病院や図書館にあるのを見かけたら、読んでみてください。

出張先でぎっくり腰になりました。
帰れないかと思った・・・。
皆さんも寒いのでご自愛くださいね(涙)。

上がる下がる 増える減る 数字のトリック

2020-01-06 20:06:22 | 通訳者のつぶやき
12月21日に愛知県立大学で開催された「AI時代と多文化共生」にご参加下さった皆様、寒い中ありがとうございました。
全くアウエイの中で、MEDINT会員の方々のお顔が見えただけで緊張がほぐれました。
感想については、(一社)全国医療通訳者協会のブログに書きましたので
よかったらご覧下さい。

さて、

数字を訳していると
数字のもつ「イメージ」が相手に勝手な解釈を与えることがあります。

日本語能力試験の一番難しいレベルは「N1」です。
では、こうした能力を測るものは、すべて小さい数字のほうがいいかというと
「お母さん、僕の成績表は1が多いから日本では優秀なんだよ」と親を騙す子供もでてくるでしょう。

同じ中国語の試験でも、
中検(中国語検定)は1級が一番難しく
HSKは6級が一番難しい。

同じ将棋のレベルでも、
級は数字が小さいほど格が上で、段は数字が大きいほど格が上になります。

数字が大きいからよいのか、小さいからよいのかは異なります。

先日、健康診断の通訳をしていたときに
〇〇の数値が下がっていると伝えたところ
家族の方から「よかった」という安堵の声が聞こえてきました。
でも、この場合、数値が下がるということは
機能が低下しているという事に他なりません。

コレステロールとか尿酸値とか血糖値とか
体重や血圧も下がる方がいいな~というイメージがあります。
でも、数値の増減だけを見るのではなく
標準値と読み方を一緒に伝えなければ
数字の勝手なイメージにとらわれてしまうことがあります。
通訳者は数字に勝手な感情をこめてはいけないなあと痛感する今日この頃です。

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最後に、今週末のシンポジウムのお知らせです。

1月12日(日)にMEDINTのシンポジウムを開催します。
テーマは「就学前の子供たちの言語発達を考える~言語聴覚士の立場から」です。
詳細は こちら


今、私が一番知りたい子供の「言葉」の問題について
言語聴覚士という専門職の方から知見を学びたいと思っています。
実は、3人のシンポジスト・ファシリテーターの方々とは、別々に出会いました。
でも、私の中でぴたっと3人の方々のお話が繋がる予感がしました。
まだまだ定員には達していませんので、どうぞお越し下さい。

医療通訳者だけでなく、
手話通訳者、言語聴覚士、
日本語教師、学習支援の皆さんも
一緒に議論しましょう。

通訳したくない言葉

2019-12-19 09:05:42 | 通訳者のつぶやき
昔・・・といっても90年代ですがと比べて、通訳しづらい言葉は減ったと思います。

でも最近気になる言葉があります。

発達障害が広く知られるようになり、
1歳半や3歳児健診で、言葉のおくれを
日本語を母語としない環境で育つ子供達が
指摘されるケースが増えています。

きちんと専門の通訳者を配置して
検査をしてもらえれば問題ないのですが、
通訳者がいない場合、一般の医療や教育の通訳者が
通訳をすることがあります。

そこで、専門職の方から
「子供の言葉が混乱するので、おうちでは日本語で統一してください」
といわれることがあります。

それを通訳すると、親御さんの表情が一瞬暗くなります。
電話越しでも、空気がぴりっとして
「自分は日本語ができない」とつぶやかれることがあります。
それに対しての明確な答えは返ってきません。

私はソーシャルワーカーとして相談を受けるとき
できるだけ「過去」にこだわらないようにと教えられました。
「日本語を勉強してこなかったから(今困っている)」
「資格をとっていなかったから(いい仕事がみつからない)」
「正社員にならなかったから(未だに非正規)」
嫌と言うほど言われてきた言葉を繰り返す必要はない。
今のことを考えるほうがずっと建設的です。

「おうちの中を日本語で統一」というのは
親が日本語ができて初めてできることです。
もちろん、親も仕事や教室で日本語を学ぼうと努力しています。
けれど、子供をしつけられるほどの日本語が一朝一夕で身につくとは思えません。
また、母語・母文化をどう継承するかは家庭の問題でもあります。
それはこどもの言語発達とは整理して考えなければならないアイデンティティの課題です。

私はこの言葉をあまり言いたくありません。
だけど通訳者が勝手にその場の言葉を変えてはいけない。
思い切り困った表情をして訳します。

正解はないのかもしれません。
でも、この問題に携わっている人にお話を聞きたいと思いました。

そこで、今年度のMEDINTのシンポジウムは
就学前のこどもの言語発達について
言語聴覚士の方からお話を聞くことにしました。
2年前に登録した母子保健通訳者のフォローアップ研修も兼ねています。
来年1月12日(月)に西宮市大学交流センターで開催します。
詳細はMEDINTのHPをご覧下さい。

こちら

外国語の医療通訳者だけでなく、
手話通訳の方も、こどもの発達にかかわる人にも
ご参加いただければと思います。



言葉を変えることで背負う責任

2019-12-05 01:37:48 | 通訳者のつぶやき
先日、ある研修会で議論になったことです。

コミュニティ通訳の現場で、
話者の言葉がつたない(きれいな言葉でない)ので、
通訳者が変えて話さなければ
本人の利益にならないという主張がありました。

コミュニティ通訳の原点は
誠実に変えずに通訳することですが
もちろん、現場によっては擁護が必要な場面もあります。
だから、それが一概に悪いと断罪するわけではありません。

ただ、通訳者が預かった言葉を変えるということには
その言葉を変えることで背負う責任が発生するということを
自覚しておかなければいけない。

極端な話をすると
がんの告知を本人がショックを受けるからと家族が伝えない事があります。
それは患者本人の年齢や性格や状況をいろいろ考慮した上で
本人に一番それが良いのだと考えて行う行為です。
結果、それがよかったか、悪かったかは様々だと思います。
でも、そこで、本人に伝えないということを周りの家族は背負っています。

ましてや通訳者は第三者です。
どんな状況においても、そこにある言葉を変えたり訳さなかったりする時には
その責任を自分が背負えるのかを考えなくてはなりません。

通訳者はその現場で話者から預かった言葉を
相手に届ける役割を果たします。
その間で、変えることは本来あってはならなことです。
なぜなら、同じ言語の人同士なら、通訳者が入って言葉を変えることがないから。
通訳者には言葉を変える権利はありません。
そこをあえて、変えなければいけない場面に遭遇したときには
通訳者は大きな責任を負うのだということを忘れてはならないと思います。

12月7日は三重県で開催される第34回日本国際保健医療学会のシンポジウムに登壇します。
中村安秀先生が座長をされるのですが、
「外国人も住民です!」というストレートなテーマで話し合いがもたれます。
最近、医療通訳の議論も一度原点回帰しなければいけない局面に来ていると感じていました。
だからこそ、このタイミングでこの議論、とても楽しみにしています。

やさしい日本語

2019-11-15 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
お久しぶりです。
10月、11月は団体職員(非常勤)の仕事をしながら
週に3カ所くらいの講義や研修を行っているので
レジュメの作成と移動に追われる日々を送っています。

もともと秋は研修や学会などが多い時期なので
出かける機会は少なくなかったのですが
今まで「医療通訳」に関するものが中心だったのが
全国に相談窓口を配置する施策で地方都市でも
外国人相談窓口を作る動きが加速しており、
外国人対象の相談員研修が増えてきています。

また、今回の在留資格「特定技能」の対象国の9カ国
英語でも中国語でもないという現状を受けて
行政職員の「やさしい日本語」研修の依頼が増えています。

「やさしい日本語」はご存じの通り
阪神淡路大震災を契機に、災害時に有効なコミュニケーション手段として
考案されました。 

 「やさしい日本語とは」

私が初めて、弘前大学の佐藤先生の講義を聴いたときは
本当に目からウロコでした。
ずっと悩んでいたマイノリティ言語の人たちに
どういう通訳サービスを提供したら公正に情報が行き渡るかをのヒントが
ここにあると気づきました。

もちろん、コミュニティ通訳が必要な場面は
きちんと通訳者を配置する制度化をするべきです。
でも、もっと身近なレベルの情報提供は
日本語が母語の人たちが母語でない人たちに伝わる語彙で、
やさしい日本語の手法で話せば、伝わることも少なくありません。

私は通訳者として、よく難しい日本語からやさしい日本語への
通訳をさせられることがあります。
通訳する際に、難しい専門用語を本人に伝わる言い回しで伝える手法が
やさしい日本語に似ているためです。
今の日本ではコミュニティ通訳に「やさしい日本語」があってもいいかなと思うくらいです。

通訳者として「やさしい日本語」を広めたいのは
通訳者の無駄遣いを無くして欲しい。
日本語で話そうとしている人たちに
通訳がいなければコミュニケーションができないということならば
その人達の知る権利はどうなるのかと思うのです。
なので、一緒に音声翻訳ソフト使い方やコミュニケーションツールの紹介も行います。
と同時に、日本の通訳者の多くは日本語が母語ではありません。
なので、やさしい日本語を使うことで誤訳が減るというメリットもあるはずです。

私たちの目的は、通訳者の雇用を確保するためでも、仕事を作ることでもありません。
日本に暮らす日本語を母語としない人たちが、自分の言葉で自己決定を行うことを支援することです。
そのために、通訳者でなくてもいいことは「やさしい日本語」も含めてツールを使い
必要な場面でトレーニングを受けた通訳者を適正に使ってほしい。
通訳者の無駄遣いをする余裕は今の日本にはありません。

目的はあくまでも「自分のわかる言葉で知る権利」と「自分の言葉で表現する権利」を守ることです。







MEDINTの医療講座2019「救急」

2019-10-10 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
毎年この時期に、MEDINTでは医療通訳者のための医療講座を開催しています。
一昨年は「母子保健」
昨年は「がんの告知場面」
そして今年のテーマは「救急」です。

日本に中長期滞在する外国人は2018年末で、273万人と過去最高に人数になっています。
また、訪日外国人も年間3000万人を超え、医療現場で外国人観光客に対応する機会も増えてきました。
その中で増加しているのが救急対応です。
在住外国人においては高齢化による体調の急変や労働災害などの事故、交通事故も増えています。
訪日外国人においては、心疾患や脳疾患、スポーツによるケガ、感染症や精神疾患まで、予想もしない救急利用があります。

最近多くの都市で、救急車の外国語対応がはじまっています。
まず、外国語で救急車が呼べるようになっています。
119に外国語で依頼が入ると、指令管制官が通訳センターにつないで
三者通話で24時間、通訳者と話すことができます。
また、現場に駆け付ける救急救命士も通訳センターを使って
患者や家族とコミュニケーションがとれるようになっています。
ツールとしては、救急ボイストラの設置(音が出ます)や多言語ガイドを使うことも進められています。

先日、専門学校の救急救命士学科にでかけて
学生向けにコミュニケーションツールを使って模擬患者の聞き取りを行う演習をしました。
英語ややさしい日本語でのコミュニケーションが難しい場合は、
どれだけこうした社会資源を上手に使って日本語のできない外国人患者から
情報を聞き取り、情報を伝えるかがカギになります。

そのご縁で、今度は私たち通訳者に救急に関する講義をお願いできることになりました。
救急の現場に通訳者が駆けつけることはほぼ不可能です。
私たちはコールセンターで正しい医療通訳を行うために必要な知識が必要になると思われます。
講座では実際の救急場面を使っての演習も行います。

時間との闘いである救急現場で、「言葉の差」が「命の差」にならないように、
私たち通訳者も技術を磨く必要があると痛感しています。




その背景にあるものを知る

2019-09-13 01:58:09 | 通訳者のつぶやき
全国医療通訳者協会(NAMI)ができてからは
私自身、医療通訳者の立場で発言することは少なくなってきました。
正直なところ、私の通訳技術はアドホックで
もっと通訳者として技術を持った人たちが医療通訳に参入し
声をあげてくれるまでのつなぎだと思い活動を続けてきたこともあります。
「医療通訳」がいろんな人に知られる「言葉」になり、
日本社会の中で進化していくことに、喜びを感じています。

ですので最近は、看護職や福祉職、行政職の方々との仕事が増えています。

ですが、制度が始まったばかりの地方都市では、
まだコミュニティ通訳研修をさせてもらったりもしています。
また、以前から行っている大阪大学の医療通訳養成コースには出講しています。

はじめの頃は、現場を持つ人や外国人支援を行っている人たちが多く
在留資格や制度の違いなどの話が比較的理解してもらいやすかったのですが、
最近は、言語から医療通訳に参入する方が増えていて
専門用語や通訳技術への興味から入る人たちが増えたなあと思います。
それは悪いことではありません。
むしろ、高い通訳技術を持つ人たちが、医療分野に興味を示してくれることこそ
私たちがずっと期待していたところです。

ただ、医療通訳は「通訳技術」だけではなく
「対人援助」の仕事でもあります。

対象者である外国人の背景にあるもの、
社会情勢や制度の違い、医療機関への壁といったことに
気づくことができるのは、患者と同じ言葉を話す通訳者です。
医療通訳者には、通訳技術とともに
まず患者自身を知って欲しいと思っています。

日本に住んでいる外国人の人たちは英語が母語の人たちですか。
外国人患者が治療費のことをとても気にするのは何故ですか。
在留資格ってなんですか。
難民の人はなぜ日本にいるんですか。
在留資格のない外国人はなぜ日本にいるのですか。
訪日外国人の人たちの医療には言葉以外にどんな困難がありますか。

医療通訳者が「患者と家族」を理解できていないと
治療現場で起こる様々なコミュニケーションの問題を理解できないことがあります。

医療通訳者にも是非「日本における外国人の社会背景」や「来日の経緯」
「母国の社会補償制度」などにも興味を持ってもらい、
その中で患者と家族の個別性を理解してもらえればと思っています。。



デジャブ

2019-09-03 21:48:55 | 通訳者のつぶやき
私は90年代からスペイン語の生活相談員をしています。

相談員を始めたのは
入管法改正で南米から日系人がたくさん出稼ぎにきた頃です。

日系人でも3世ともなれば
祖父の顔をしらない、日本語を話したことがないという人もたくさんいて
言葉が通じない、たくさんの借金を抱えて来日する、劣悪な労働現場でした。

そして最初の頃にうけた相談のほとんどが、
「在留資格」と「労働関係」でした。

医療では「労災」と「結核」で
指や腕が落ちたケースは覚えていないほどたくさんありました。
「たこ部屋」と呼ばれる劣悪な生活環境の中で
結核を発症するケースも後をたちませんでした。
それくらい過酷な現場でした。
今に比べて支援者も少なかった。

だから、日本人はあまり気づいていなかったと思いますが
当時から、外国人労働者の境遇は厳しいものでした。

あれから四半世紀が立ちました。
途中、ゆるい景気回復やリーマンショックがあり
経済が動くたびに、外国人労働者は景気の調整弁となってきました。
それでも、日本に住んで働こうと残ってくれている人たちがいました。

でもなぜだろう、ここ数年、私が仕事をはじめた当時のことが鮮明に蘇ってきます。
いや、それ以上に当時よりも劣悪な形で外国人労働者が切り捨てられています。

一時は少しおさまっていた労災隠しや賃金未払いが
再び目立つようになってきました。
陰湿ないじめや劣悪な労働環境も
当時と違うのは日本人労働者にも余裕がなくなっているということです。

私は相談員なので
これからのことより、今いる人たちを日本社会の中で守りたいと思って仕事をしていますが、
制度の整わない中で、もっと外国人労働者を増やして
きちんと社会的包摂の中で一緒に生きていけるのか、正直なところ自信がありません。

そんな中で、今考えているのは
外国人支援を、言葉ができる人や国際交流団体だけに任せるのではなく
みんなで考えていこうということです。
医療であれば、通訳者だけでなく
医療者や福祉職、行政、地域の人たち、みんなに現状を知って欲しい。
周りにいる誰もが外国人住民の支援者になってもらえるように。
また、私たちも外国人住民から吸収できるように。

南山堂「治療」8月号に記事を書きました

2019-08-06 00:46:59 | 通訳者のつぶやき
6月と7月は研修ばかりやっていました。
やっと夏休みにはいったので、そのことはぼちぼち思い出しながら書いていこうと思います。

ところで、最近は医療・福祉専門職を対象とした活動が増えています。
6月のハンドブックの執筆もそうですが
今回は、医師対象の雑誌である南山堂の「治療」8月号
「実地医家のための外国人医療」
に書かせてもらいました。
THE KING CLINIC院長の近先生が編集をされています。

「治療」には2006年、小林米幸先生が編集された
「プライマリケアのためのよりよい外国人診療」の時にも書かせてもらいました。
驚いたのは、医師を対象とした雑誌なので
10年以上たった今でも論文などに引用してもらうことがあります。
当時はないないづくしの時代だったので、読み返すと恥ずかしい。

医療通訳研修からは少し離れていますが、
ぐるりと回って、外国人の人たちの暮らしやすい社会になれば
それは目的としては同じなので、頑張ろうと思っています。

医師の雑誌なので普通の場所で目に触れる機会は少ないと思いますが
本屋さんでみたら、のぞいてみて下さい。




外国人の医療・福祉・社会保障相談ハンドブック

2019-07-24 03:19:04 | 通訳者のつぶやき
2016年に自費出版した「外国人の医療・福祉・社会保障相談ハンドブック」が
2019年6月に明石書店から出版されました。
今回は「移住者と連帯する全国ネットワーク」の編集で
7月現在、すでに第2版が発行されています(すごいスピード!)。

内容については自費出版版をベースに加筆修正を行っています。

私は自費出版から「医療・福祉現場のコミュニケーション」を担当しており
今回も第2章部分(医療通訳派遣団体リスト除く)を担当しています。
前回と違っているところは、現在先行している医療通訳だけでなく、
福祉現場の通訳についても言及しているところです。
また、社会資源の使い方ややさしい日本語の考え方についても
加筆しています。

この本の中心は
法律や制度の活用、事例検討で
経験豊かなNGOのワーカーが
本当に困った人たちのケースを論じており、
巻末には関係法令集も掲載されています。
市役所などの窓口で「外国人には適応されない」というような
説明を受けたとき、この本を使うようにと作成されました。

東と西の両方の外国人の医療と福祉ネットワークのメンバーが
分担執筆しました。

是非、お手元に1冊備えてもらえればと思います。

詳細は こちら