東京には「都市公園」と定義される公園が6980ヵ所もあるのだそうだ。しかし昭和31年にできた「都市公園法」の施行令によると、住民一人当たりの公園面積の標準は10平方メートルとされており、東京ではこれだけ公園数があってもその半分にも達していないらしい。ということは、散歩コースに都立・井の頭恩賜公園を「持つ」私は恵まれているということか。しかも4つしかない都立の動物園が、そこにはあるのだ。
将軍・家光の命名によるとされながら、「井の頭」の地名由来は諸説ある。私にとって腑に落ちる説は「江戸の上水である神田川の水源だから《井戸の頭領》だ」という解釈である。それを若者は「イノヅ」などと呼ぶらしいが、やはり「イノカシラ」が正しい。公園のほとんどは三鷹市に含まれるものの、武蔵野市の吉祥寺駅に近いことから園内はいつも賑わっていて、立地、構成は上野公園に似ている。
日本初の郊外公園として大正6年に開園、上野ほど広大ではないが、上野ほど雑駁でもない。ボートの浮かぶ公園と、動物園や彫刻館がある自然文化園、それにグランドやテニスコートのスポーツ広場が組み合わされている。早朝はラジオ体操やウォーキングの高齢者タイム、昼下がりともなると公園デビューの乳母車がやって来る。夕暮れ時のグランドはペットの社交場となり、池のほとりはデートスポットに移行する。
いつとはなしにパフォーマーやフリーマーケット風の露天が定位置を占め、人だかりができるに任されていたのだが、弊害が許容範囲を超えたらしく、最近は「アートマーケッツ」という名の登録制度が採用された。しかし露天のほとんどが素人くさい侘しさで、私などはいっそのこと国際的な「蚤の市」を開催してくれたら、井の頭名物になるだろうにと思っている。
動物園に興味はなかったのだが、世の中をリタイアしてみるとこれが結構、貴重な場となった。象の「はな子」は例外として、小さな動物園にふさわしく、飼育されているのはほとんどが小動物だ。従って愛くるしい姿が多い。サル山のサルは「アカゲザル」という種らしく、全体に赤っぽい。少子化とは無縁で、チビザルが元気に走り回っている。そのしぐさを眺めていると、まだあどけなかったころの息子たちを思い出して心温まる。
いつも同じ止まり木で身動きしないワシミミヅクは、愛くるしいというより精悍な顔つきで、時折りくるっと首を廻してこちらの気配を窺う。睨めっこをしているだけで飽きない。ケージ内をひたすら歩き回っているツシマヤマネコは園の宝物だが、その孤独な姿を見ていると「君たちは間もなく絶滅するのか?」と悲しくなってしまう。動物園は物珍しさで人は行くのかと思っていたが、動物たちが人間を癒してくれる場なのだ。
園のシンボルはオシドリだということで、繁殖に特に力を入れているようだ。そのせいか遊歩道の木柵にツガイが止まっていたりする。真近かで見ると実に美しい鳥だ。分園には小さな淡水魚水族館もある。目の高さに川が流れているかのように水槽が連続しているので、グルッと一周することをお奨めしたい。
動物たちに飽きて街に出ると、そこはもう吉祥寺の雑踏である。カラフルでファッショナブルで、それはそれで楽しい街なのだが、街という名の人間の動物園には、癒してくれるものが見当たらない。(2007.12.8)
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