今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

152 大沢(東京都)・・・民藝とイスラム文化にキリスト教

2008-07-13 00:00:03 | 東京(都下)

東京三鷹市に「大沢」という地域がある。お隣はもう調布や府中になる三鷹の街外れで、どこにでもありそうな静かな住宅街が続いている。ところが基督教大学や神学大学といったキリスト教文化施設に囲まれて、中近東文化センターという不思議な空間がある。キリスト教とイスラムの源流。現代では対立甚だしい世界の2大文化圏が、ここでは平和に共存していて、私のお気に入りスポットなのである。

前にも書いたことだが、東京の鉄道や幹線道路は都心から放射状に延びているものだから、都心を遠ざかるに従ってしだいに「交通空白地帯」が拡大していく。三鷹市大沢は都心から30キロ程度だろうか、そうした傾向が顕著になるあたりで、宅地開発に取り残された畑地が残っていたりする。だがその不便さこそが、こんな浮世離れしたエリアを生み出してくれた。

国際基督教大学(ICU)の広大なキャンパスは、戦前の中島飛行機の研究所跡地である。大学へのエントランスロードは滑走路のような広さと長さで、その上空を覆っている桜並木が満開の季節は、住民に大いなる楽しみを与えてくれる。大学本部は中島飛行機時代の建物なのだそうだが、隣りの大きな十字架を掲げたチャペルと違和感はない。チャペルからパイプオルガンが響いてくれば、そこはもうキリスト教圏である。

キャンパスの散歩もいいのだけれど、やはり湯浅記念館に立ち寄るべきだ。民藝収集に熱中したした初代学長のコレクションを中心に、キャンパス内の埋蔵文化財も展示してある。規模の小さなミュージアムではあるけれど、日本の生活文化が匂い立つような展示がいいし、めったに人に会わないことがなおいい。

裏門を抜けると、そこが中近東文化センターだ。付属博物館には古代中近東の遺物が驚くほど豊富で、思いがけない歴史の迷路に引きずり込まれる。もちろんレプリカではあるけれど、自分の住む街にハンムラビ法典の楔文字が刻まれた石碑があるのは楽しい。そして出光美術館の分館らしく、出光コレクションの名品がさりげなく展示してあったりすることも嬉しい。

このセンターの研究対象は、時代とすれば「イスラム以前」なのだろうが、もともとは同根のキリスト教とイスラム教を「感じる」上で、ICUからセンターへの道は貴重だ。隣接して神学大学があることも気分を深めてくれる。古代メソポタミアの神殿をイメージして設計されたというセンターの中庭で、お茶をいただきながらしばし異文化に思いを馳せる時間は贅沢の極みだ。

こうした交通不便なところで、格調ある文化施設を維持していくことは難しいのだろう、博物館には三鷹市と武蔵野市が財政支援をしているらしい。おかげでその市民は100円で入館できてありがたい。私が三鷹市民になることを選んだ理由の何%かは、このエリアに魅力を感じたからである。

余談になるが、私の知るICU卒の複数の男女は、いずれも優秀でまじめで、押し出しは弱く優柔不断である。そんな学生が似合うキャンパスは、環境に恵まれているに決まっている。世知辛い世に、そうした環境と学生は貴重である。(2008.7.11)
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