万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

移民受け入れ拡大方針-日本国政府は‘悪代官’か?

2018年06月06日 11時17分47秒 | 日本政治
外国人労働者50万人超必要 25年までに 人手不足深刻化で転換
 本日の日経新聞の朝刊一面には、「外国人就労 拡大を表明」の見出しで、安倍首相が昨日5日の経済諮問会議で外国人労働者の受け入れ拡大を表明したと報じています。この記事には「選ばれる国」への課題とする小見出しが付されているのですが、この発想、本末転倒ではないかと思うのです。

 同会議において首相は「移民政策とは異なる」と説明しておりますが、国際移住機関(IMO)では、移民を「当人の (1) 法的地位、(2) 移動が自発的か非自発的か、(3) 移動の理由、(4) 滞在期間に関わらず、本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動している、または移動したあらゆる人」と定義していますので、これに当て嵌めれば、その資格の如何に拘わらず、外国人就労者はれっきとした移民です。おそらく、公約違反、あるいは、公約からの逸脱となることを怖れて‘移民’という表現を避けたのでしょうが、国民の側からしますと、政府に騙し討ちにされた気にもなります。

 こうした言葉の誤魔化しも然ることながら、この政策に潜む悪意は、“選ばれる国”という表現に凝縮されております。何故ならば、政府、並びに、その背後で蠢く国際勢力は、移民の受け入れを当然視するに留まらず、‘移民側のみに移住先の国家を選ぶ権利がある’と見なしているからです。逆に言えば、移民を受け入れるか否か選択肢は、受け入れ国の国民には無いということになります。しかも、この政策は、決して合理的でもなければ、必然性もありません。

第1に、移民受け入れ拡大の理由として挙げられている‘人手不足’は、根拠脆弱です。例えば、兼業農家が多数を占める農業分野における人手不足説は怪しい限りです(少なくとも稲作は凡そ機械化されている…)。それでも移民の必要性が強調されているとしますと、そこには、日本の農業形態を南北アメリカ大陸やアフリカ等に見られるプランテーション型へと転換させる意図が隠されているのかもしれません。本来、日本国の農業の未来については国民的な議論の下でコンセンサスを形成すべきところなのですが、国際勢力をバックとした政府は、外国人農業労働者の既成事実化によって、日本の農業形態を根底から崩しにかかっているように見えるのです。しかも、他の解決方法を模索しようともせず、各分野における‘人手不足説’に対する疑問に対しても、自らが恣意的に設定した推定数で押し切ろうとしています。

第2に、AIやロボットの導入による将来的な雇用の減少予測についても、政府は、頑なに耳を塞いでおります。これらの普及が先行した金融分野では、既に大幅な人員削減が行われています。国内において失業率が上がったとしても(現状でも、国内にはニート状態の人々もいる…)、政府は‘数値目標’を計画通りに達成すべく関連省庁を挙げて2025年までには50万人超えの移民を受け入れるのでしょうか。しかも、新資格のみで50万人ですので、他の資格による受入れ移民数は、この数字を大きく上回ることでしょう。一般の日本人が将来に雇用不安を感じている中、政府は移民拡大に邁進しているのですから、誰がどう見ても、政府の方針と国民意識がかみ合っていないのです(移民拡大とAI・ロボットの普及は両立しない…)。

 第3に、「選ばれる国」と表現した理由は、先進国のみならず、新興国においても近い将来人手不足が深刻化し、移民が“売り手市場”となることを想定しています。つまり、受け入れ国は、‘最大限の優遇措置をとりますから、是非、我が国に来てください’と揉み手で移民にお願いする立場にあると見なしているのです。しかしながら、どの国も移民受け入れに消極的であり、むしろ、EU等では押し付け合っている現状があり、この発想は、現実と乖離しています。日本国内を見ても世論は移民受け入れに反対であり、仮に揉み手で移民を歓迎する人々が存在するとしますと、それは、人材派遣業者といった一部の事業者なのではないでしょうか。また、ロボット先進国と化した中国が国内的には人件費の高騰を押させるために雇用を減らす一方で、余剰労働力を海外に送り出すために日本国の移民受け入れ政策を利用するとしたら、これ程馬鹿馬鹿しいお話もありません。

 そして第4に挙げられる点は、「選ばれる国」の真の意味は、移民自身ではなく、仲介事業者によって‘選ばれる’という意味なのではないか、という疑いです。海外から移民労働者を受け入れる場合、通常、企業から請け負った仲介事業者が現地で募集作業を行います。移民の人々は、自ら自発的に国を選んで個人的に移民するのではなく、仲介事業者の募集に応じる形で海外に労働者として向かうのです。となりますと、仲介事業者は、自らのビジネス繁盛のために、各国政府に優遇政策を導入するよう積極的に働きかけていると推測されます。しかも、各国政府を‘受け入れ競争’に狩りたてているのですから、全く以って狡猾なのです。

 以上に述べてきたように、日本国政府による‘移民ファースト’の政策は、到底一般の日本国民が納得できるものではありません。かくも傲慢で無神経な態度を見ますと、日本国政府は、経済的利益の最大化と国家破壊の一石二鳥を狙う国際勢力(新自由主義+共産主義)によって擁立された‘悪代官’なのでしょうか。政府とは、本をただせば国民のためにこそ存在するのですから、決して’悪代官’になってはならないと思うのです。

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コメント (6)
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