万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

トランプ大統領は‘騙されたふり’をしたのか?-全諸国による核武装の可能性

2018年06月14日 14時41分53秒 | 国際政治
去る6月12日にシンガポールで開かれた米朝首脳会談は、何とも後味の悪い結果に終わりました。直接対話に臨んだトランプ大統領自身は共同声明への署名に自画自賛するものの、同会談に対する論評を見ますと、その大半は“金正恩の勝利”です。

 ある意味、今般の米朝首脳会談の展開は、謎に満ちています。何故ならば、蓋を開けれてみれば、アメリカ側の大幅譲歩、即ち、中国やロシア案への歩み寄りに過ぎず、少なくとも共同声明の内容を読む限り、アメリカが独自に交渉を展開した痕跡すら見当たらないからです。かつて六か国協議で合意された共同声明の劣化コピーとも評されるぐらいですから、そのお粗末さは度を超しています。となりますと、何故、過去の失敗した政策を知り尽くし、その二の舞にはならないと誓ったはずのトランプ政権が、この決意とは逆の合意を嬉々として受け入れたのか、全く以って不思議でならないのです。

 そこで、アメリカが譲歩した背景を推測して見ると、(1)何らかの国際勢力が最初から仕組んだ茶番であった、(2)核兵器、並びに、ICBMの開発に成功していた北朝鮮が、会談の席でトランプ大統領を恫喝した、(3)トランプ大統領は、北朝鮮の核保有を認めることがアメリカ、あるいは、国際社会の利益に適うと考えていた、といったシナリオが考えられます。(1)と(2)については、情報不足等の理由により検証が困難なので、ここでは可能性を示すに留めますが、それでは、(3)の推測はあり得るのでしょうか。

‘敵を騙す前に味方を騙せ’、あるいは、‘肉を切らせて骨を断つ’とする格言があります。仮に、(3)の立場からトランプ大統領が妥協を演出したとしますと、トランプ大統領は、自らを捨て石にして北朝鮮の核保有を事実上認め、他の全ての諸国に核武装のチャンスを与えたとも考えられます。その理由は、全諸国が核を保有し、自己防衛が可能となれば、米国の軍事費削減にも繋がると共に、アメリカの若き兵士達が外国のために自らの命を犠牲にすることもなくなるからです。この点は、トランプ大統領自身が、大統領選挙時における遊説において何度も繰り返した主張と一致してますし、銃規制問題でも銃の携帯による正当防衛を支持していますので、あり得ないことではありません。

北朝鮮もイランも、NPT体制の下で自国のみが核兵器を保有したことから、国際社会から厳しい制裁を受ける事態に陥りました。両国とも、“自国は核を保有しても、他国には持たせたくない”とする優越的な地位を求める利己主義が禍いし、他の諸国から支持を受けることはありませんでした。しかしながら、北朝鮮の核保有によってNPT体制が崩壊するならば、当然にこれに替る新たなシステムが提起されてくるはずです。もちろん、全諸国核武装方式が平和に与える効果については議論の余地はあり、今日ではタブー視される嫌いもありますが、暴力主義国家が核を違法な手段で保有する一方で、他の順法精神を備えた善良な諸国が核を保有できないとしますと、それは、‘悪の勝利’という不条理以外の何ものでもありません。北朝鮮の核に脅され続ける日本国も例外ではなく、その際には、自国一国の核武装ではなく、世界の全ての国々の一斉核武装を、確固とした論理構成を以って主張すべきです。自国のみではなく、全諸国核武装方式であれば、日本国の提案に賛意を示す諸国も現れることでしょう。中国やロシアといった‘合法的核保有国’の脅威も増している現状では、長期的視点からは、全諸国核武装方式の方が、核保有国による一方的な核の脅しを無効にしますので、力の均衡という意味では平和や正義には貢献するかもしれないのです。

米朝首脳会談は、誰もが納得できない結果となったからこそ、国際社会に対して様々な問題を提起することとなりました。上述した全諸国一斉核武装の提案もまた、同会談がもたらした副産物でもあります。そして、上記の推測は、トランプ大統領の不可解な態度に対する些か好意的な解釈とはなりますが、核問題は全ての諸国の安全に関わるのですから、それがアメリカ一国の利益に基づくものであれ、また、北朝鮮やイラン問題を別としても、全諸国が参加する相互核抑止体制への転換については、将来に向けて真剣に議論されて然るべきではないかと思うのです。

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