万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米朝首脳会談-ノーベル平和賞よりも大切なもの

2018年06月12日 14時16分11秒 | 国際政治
合意文書に署名へ 米朝首脳
 いよいよ本日6月12日、米朝首脳会談がシンガポールの南部サントーサ島においてカペラホテルを会場として開かれる運びとなりました。会談で話し合われた具体的な内容は午後4時(日本時間で5時)に予定されている記者会見を待たなければなりませんが、報じられている映像から判断しますと、アメリカのトランプ大統領がホスト役を務めているように見受けられます。

 北朝鮮が核開発を進めた背景には、核保有国になれば、アメリカを対等な立場での交渉に引き摺り出すという思惑があったと指摘されています。しかしながら、同会談の光景を見る限り、この戦略は成功したとは言えず、遠路はるばる訪れた金正委員長がトランプ大統領に謁見している構図にしか見えないのです。これまでアメリカに罵詈雑言を浴びせてきた北朝鮮側の恭順を示すような態度への転換は、強大な軍事力という無言の圧力があったことは言うまでもないのですが、ここで懸念すべきは、膝を折った北朝鮮に安心したアメリカ側が、アメリカ国内向けに外交的成果を確実にするためにも、北朝鮮に対してCVIDの条件を壊すような一定の譲歩を見せることです。

 中間選挙を控えた今、トランプ大統領には、アメリカ国民に対して目に見える外交的ポイントを挙げる必要があるとされています。その格好のチャンスが米朝首脳会談とされており、この場において米朝首脳間で何らかの合意が成立すれば、二期目のトランプ政権も現実味を帯びてきます。そして、米朝合意を期待するメディアも、トランプ大統領のノーベル平和賞受賞の可能性を煽っており、同大統領の名誉欲をも刺激しているのです。

 しかしながら、このノーベル平和賞こそ‘曲者’です。何故ならば、同賞の歴代受賞者達の多くには、得てして逆の行動が見受けられるからです。1945年には、かの「ハルノート」で知られるコーデル・ハルに授与されていますし、2000年には、南北首脳会談を実現させた功績で、韓国の金大中大統領も受賞者リストに名を連ねました。そして、2002年にカーター元大統領が受賞したのに続いて、2009年には、‘戦略的忍耐’の方針の下で北朝鮮の核保有を事実上許したオバマ前大統領も受賞しているのです。昨年は、核兵器禁止条約を成立させたICANが受賞者となりましたが、実績ではなく将来的な‘期待値’に基づく偽善的な選定は、むしろ、国際社会を混乱させると共に、真の平和を遠のかせているのです。

 かくしてノーベル平和賞の権威は低下の一途を辿っているのですが、ノーベル平和賞が’平和’を保障しないという現実を見ますと、北朝鮮に対する妥協の結果としてトランプ大統領が同賞を受賞したとしても、必ずしも同大統領の支持率アップに繋がるとは言えないように思えます。むしろ、前政権の失敗を繰り返し、個人的な名誉欲に駆られてアメリカの安全保障を蔑にしたとする批判を受けないとも限りません。ノーベル平和賞がしばしば逆の結果を招いているとしますと、同賞の受賞を諦めることこそ、無法国家北朝鮮の核の脅威を取り除くという、真の平和への貢献を意味するのかもしれないのです。そして、米朝首脳会談は、トランプ大統領が真の姿を現す場となるように思えるのです。

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