万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

金正恩委員長との一蓮托生を選んだトランプ大統領

2018年06月13日 13時16分04秒 | 国際政治
【米朝首脳会談】米与党は「歴史的」と評価も金正恩体制に強い警戒
 6月12日にシンガポールで開かれた米朝首脳会談では、北朝鮮の非核化の実現が期待されていただけに、発表された共同声明の内容については落胆の声が広がっています。米国内でも手厳しい批判があり、同会談が、トランプ大統領の目論み通りに外交成果として今秋の中間選挙において有利に働くのか、怪しい雲行きともなっております。

 共同声明においてとりわけ不評を買っているのは、“CVID”や具体的な措置に言及した文言は見当たらないばかりか、北朝鮮の「完全な核放棄」に先立って既にアメリカ側が北朝鮮に対して‘安全保障’という見返りを与えている点です。事実上、トランプ政権が基本方針を転換したに等しく、中国やロシアが主張してきた段階的な非核化措置の度に見返りを与えるとする、「段階的核放棄」に移行したと報じるメディアまで登場する始末です。この展開を歓迎するのは中国やロシアぐらいであり、他の諸国や一般の人々は、トランプ大統領の‘変わり身’の速さ、あるいは、仮面の裏の真の顔に唖然とさせられたことでしょう。常識や理性を備えた人であれば誰も、全世界を騙す‘平和’と云う名の‘茶番劇’ではなかったかと疑うレベルです。

 こうした批判に対して、トランプ大統領は、記者会見の席で懸命に弁明を試みており、“CIVD”の文字を記さなかった点を質された際には、金正恩委員長が完全な非核化を明言したことを根拠に、事実上、“CIVD”が約されたと説明しています。確かに、共同声明の文章には、「金委員長は朝鮮半島の完全非核化への確固で揺るぎのない決意(commitment)を再確認した」との一文があります。しかしながら、既に指摘されているように、あくまでも具体的な行動を伴わない独裁者の心の中における‘決意’に過ぎず、誰もが外から検証できませんので、口先だけでもその‘決意’を表明し続けることができます。金委員長には、後々、具体的な行動を採らなくても声明違反を回避できる逃げ道が予め用意されているのです。

 北朝鮮には逃げ道がある一方で、“CIVD”に関するトランプ大統領の説明は、大統領自身を追い詰める結果を招きかねません。何故ならば、声明文に欠けている“CVID”の実行を、金委員長の‘全人格’に託してしまったからです(トランプ大統領は、独裁者=国家と認識している節がある…)。同大統領は、記者会見の席でも、金委員長を手放しでほめちぎり、その指導者としての才能を讃えておりました。そして、この会談を機に、金委員長が心を入れ替えて、国民を虐待する暴君から善き統治者へと変貌し、善き隣人として国際社会に仲間入りするのみならず、北朝鮮の国民をも豊かにするかのように語っています。金正恩委員長を含めた北朝鮮の歴代指導者たちが、国民を飢えさせる一方で自らは豪勢な生活を送り、嘘で他者を騙す常習犯であり、かつ、無法者で暴力至上主義者であったことに鑑みますと、トランプ大統領の発言は、金氏の別人格への転換を意味します。言い換えますと、トランプ大統領の運命も、金委員長の‘改心’の如何に掛かっているとも言えるのです。

かくして、トランプ大統領と金委員長は、同会談によって、一蓮托生となってしまったようです。そして、生まれながら人格を変えることは難しいことですので、トランプ大統領の期待を裏切って金委員長が悪しき暴君のままでいる場合、即ち、CVIDによる非核化を実行せず、また、非人道的な体制を維持する場合には、トランプ大統領は、重大な決断を迫られることでしょう。それは、歴史に鑑みず、三度目も、同じ方法で騙された愚かな大統領としてアメリカの歴史に名を遺すのか、それとも、軍事制裁を含むあらゆる手段を用いてでも北朝鮮を非核化するのか、という二者択一の選択です。それとも、トランプ大統領は、何か深い考えがあって、秘策を隠しているのでしょうか。

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コメント (4)
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