万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

過去よりも現在の非人道的な行為への対処を

2015年02月28日 15時59分26秒 | 国際政治
「日中韓首脳会談につながること期待」 米国務次官、歴史問題の解消を促す (産経新聞) - goo ニュース
 脛に傷のない国など存在しておらず、過去を掘り起こせば、世界は非人道的な行為に満ちていたことに気づかされます。人道に対する人類の意識が高まったのは、近代以降のことでしかないのです。

 日本国は、慰安婦問題について、中韓のみならず、2007年7月30日にはアメリカ下院からも20世紀で最も残酷な”人身売買”として非難決議を受けております。しかしながら、非難する側のアメリカもまた、過去には奴隷制度が公認されており、ヨーロッパ諸国もまた、奴隷貿易に関しては脛に傷があります。近年に至り、アメリカの上下両院は、奴隷制を謝罪する決議を相次いで採択いたしましたが、それは、慰安婦非難決議の後となる2008年6月30日と2009年6月18日に至ってのことです。そして、被害者に対する賠償や補償に関しては言及しておりません。一方、非難決議において日本国政府に要求していることは、要約すれば、(1)日本国政府による公式な事実認定、謝罪、歴史的責任の引き受け、(2)日本の首相による公式謝罪、(3)日本政府による否定・懐疑論への反論、(4)慰安婦に関する歴史教育です。このことから、非難決議の主旨は、慰安婦問題を歴史上の事実として認め、将来にわたって責任を負うべき、ということになります。韓国は、この要求の方針に沿うかのように、歴史的な責任を負うべく、日本国に対して賠償を求めております。ところが、この論理に従えば、アメリカを含む奴隷制に携わってきた諸国もまた、自国に存在していた奴隷制度について歴史的責任を負い、教育の場でも熱心にその非人道性を教えるべきことになります。韓国の要求が正しければ、賠償や補償も視野に入ることでしょう。果たして、実際にはどうなのでしょうか。そして、もう一つ考えなければならないことは、この決議は、慰安婦の強制連行に関する事実認定を日本国政府に迫っていることです。奴隷制は、疑いようもない事実ですが、慰安婦問題は、真実性に明白なる疑いがあります。否、今日に至っては、様々な調査や資料により、慰安婦の実像は、一部の犯罪被害者を除いては、法律上の人格が認められた合法的な職業であったことが判明しております(奴隷には法律上の人格がない…)。

 米下院の非難決議は、(1)事実であった場合の責任の過度な重さ、並びに、(2)慰安婦に対する誤った事実認識、の二つの面において、重大な問題があります。他国の過去の非人道的な行為を糾弾すれば切がなく、無数の歴史問題が、国際社会を引き裂くことでしょう。そして、捏造された歴史を他国に強要することもまた、国際社会に亀裂を生むことでしょう。国際社会は、過去ではなく、現在行われている非人道的な行為を止めさせることにこそ、努力を払うべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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