子どもの言葉は宝物 若い先生のキラキラ輝く実践
映画製作の仕事をしてみたいと芸大に入ったが、途中で進路変更。講師を経て、教師になって3年目の先生の実践を聞かせていただき、新鮮な風が吹き込んできたみたいでした。
◎かなみちゃんの詩
重い話から始まりました。二年生の担任をすることになったのですが、前担任から「大変よ」「がんばってね」と言われドキッ。案の定一日中トラブルが絶えず、トラブルをメモしたノートは2ヵ月で1冊使い切ったと言います。
そのうち、子どものトラブルも何か表現しているのではと思い、原因を考え始めたのです。子どもらの発する言葉に耳を澄ましてみると、面白いことに気づいていきます。そこで、その言葉を詩のようなものに書いてみようと呼びかけ、取り組みを進めていきました。
一番手を焼いていたかなみちゃんのある日の詩です。
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おもしろかったこと
二年 かなみ
今日クラスで帰る時に、
先生のことを「おかあさん」とよびそうになった。
「おか」って言ってしまった。
先生がわらってた。
先生につられてわたしもわらってしまった。
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わあ、かなみちゃん、先生大好きなんだ!毎日叱られているのにね。先生と二人で笑い合って、なんだか心が通じ合ってきたよね。
こんな詩も書きました。
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いつかわすれましたが
犬がけしゴムを食べました。
キャップをわりました。
えんぴつもわりました。
くやしかったです。
なきたくなりました。
まだ犬のことがすきです。
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先生は、この詩を読んでこう書いています。
「私はこの作品の『まだ犬のことがすきです』というところに感動しました。私はいろんなものをすぐに嫌になってしまいます。私にできないことが、かなみにはできるのです。そして、この作品をクラスのみんなに紹介すると、ある子が『かなみは、それでも犬のことがすきですっていうところ、先生と犬がいっしょやな。だって、どんなにおこられても、かなみは先生のこと好きやもんな』。かなみちゃんが先生大好きだということを、学級の仲間たちはちゃんと感じているのです。こうして、みんなの中に受け入れられていくと、どんなに叱られた日でも、毎日終わりの会で『一時間目と二時間目と三時間目と四時間目と五時間目と六時間目が楽しかったです』と言うのです」
こうして、若い先生は、子どもたちに、先生に育ててもらっているんですよね。
こんな愉快な詩もあります。
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ふっとんだ かなみ
犬がきてくれへんから、
お母さんが手をつないでくれる。
さみしいのがふっとんだ。
どおこにふっとんだ。
天国にふっとんだ。
雨にふっとんだ。
きつねのよめいりにふっとんだ。
えんぴつにふっとんだ。
こわいのがふっとんだ。
どおこにふっとんだ。
こくばんにふっとんだ。
チョークにふっとんだ。
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声に出して読んでみると、リズムがあってなんだかもやもやが吹っ飛んでいくみたいな快さがあります。こんな言葉を心の中にたくわえながら今日を生きている子どもたち。あっ、またケンカしてると言われながらも…。
子どもたちの言葉を宝物だと拾い集めて感動してくれる若い先生が、また大阪の地に育っていて、たのもしいです。
(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)