ー私を離さないでーNEVER LET ME GO
2010年 イギリス/アメリカ
マーク・ロマネク監督 キャリー・マリガン(キャシー)アンドリュー・ガーフィールド(トミー)キーラ・ナイトレイ(ルース)シャーロット・ランプリング(エミリ先生)イゾベル・ミークル=スモール(キャシー(子供時代))チャーリー・ロウ(トミー(子供時代))エラ・パーネル(ルース(子供時代))サリー・ホーキンス(ルーシー先生)
【解説】
イギリスの文学賞・ブッカー賞受賞作家カズオ・イシグロの小説を基に、傷つきながら恋と友情をはぐくみ、希望や不安に揺れる男女3人の軌跡をたどるラブストーリー。『17歳の肖像』のキャリー・マリガン、『つぐない』のキーラ・ナイトレイ、『大いなる陰謀』のアンドリュー・ガーフィールドといった若手実力派スター3人が豪華共演。詩情豊かでみずみずしい映像と、ドラマチックな展開の果てに待ち受ける衝撃と感動を堪能したい。
【あらすじ】
外界から隔絶された寄宿学校ヘールシャムで、幼いころから共に日々を過ごしてきたキャシー(キャリー・マリガン)、ルース(キーラ・ナイトレイ)、トミー(アンドリュー・ガーフィールド)。普通の人とは違う“特別な存在”として生を受けたキャシーたちは、18歳のときにヘールシャムを出て、農場のコテージで共同生活を始める。(シネマトゥデイ)
【感想】
手造り旅行「こま通信」の小松氏から「この作品見ましたか?」とメールがあったので、劇場鑑賞しました。
私は原作を読んでいないので、ここに描かれている世界の設定を理解するのに時間がかかりました。
「1952年、人類は画期的な医療技術を発見し、寿命が延びた」(こんな感じ)というテロップに、「抗生物質かしら?」と思ったくらいです。
また、キャシー・H(キャリー・マリガン)の現在から物語は始まり、キャシーの独白で語られます。
「私は介護士です」
「介護士」?この言葉にも混乱させられました。
場面はすぐに過去へ。
子供時代のキャシーがそっくりなことに驚かされました。
キャシーとトミー(アンドリュー・ガーフィールド)、ルース(キーラ・ナイトレイ)が共に育ったヘイシャム寄宿学校。
校長(シャーロット・ランプリング)は、「あなたたちは特別です」と訓示していました。
喫煙を特に厳しく注意していましたが、それが物語に関係があるかどうか、気にも留めませんでした。
ところが、この作品は、すべてがこの世界を説明する伏線になっています。
観客にはとても理解しにくい世界です。
子供たちはすごく昔風な制服姿で、規律正しく素直です。
親の影がないので、孤児院かなあ?
それにしても先生たちの表情が硬い。
生徒たちはギャラリーと呼ばれる創作活動に力を入れています。
それをマダムと呼ばれる女性がたまに取りにきます。
新任のルーシー先生(サリー・ホーキンス)が、「あなたたちは長く生きられない。あなたたちの命はあなたたちのためにあるのではない」と言い残して学校を去りました。
☆ネタバレ
18歳になり、キャシーたち3人はコテージと呼ばれる共同生活の場所に移りました。
ルースとトミーは恋人になっていました。
他の寄宿舎から移ってきた若者たちとも一緒になり、希望者は「介護士」に、あとは「提供者」となります。
「介護士」となっても、「提供者」にならなくていいわけではありません。
少し、遅くなるだけです。
つまり彼らは、誰かのコビー(クローン)なのです。
人間を病気から救うために作られた、臓器提供者なのでした。
そこへうわさ話が入ってきました。
「ヘイシャムは特別なので、真の恋人であれば、提供を3年間猶予され、一緒に暮らせる」と。
トミーはギャラリーへの作品の提出こそが、その証だと考えました。
ルースとトミーは当然申請するものと思い、キャシーは身を引くように介護士となってコテージを出て行きました。
なのに、キャシーが去ってすぐ、ルースとトミーは別れました。
そして10年後、キャシーはルースを見つけました。
2度の提供で体はかなり弱っていました。
ルースの願いで、トミーに会いに行きました。
トミーも2度の提供を経験していましたが、まだ元気でした。
3人は海へ行き、そこでルースは二人に詫びました。
「嫉妬から二人の仲を裂いた。マダムの住所を償いのために渡すので、申請して欲しい」と。
ルースは3度目の提供で亡くなりました。
キャシーとトミーはトミーの作品を持ってマダムを訪ねます。
そこには校長もいて、うわさはでたらめだと言いました。
「ギャラリーは、あなたたちにも心はあると訴える行為だった」と。
でも、その努力もかなわず、臓器提供をするためだけの生き物となった彼ら。
そして、トミーも死に、キャシーにも「提供者」となる知らせが来た。
キャシーは元ヘイシャムのあった場所で、トミーの面影を探す。
なんとも、重いテーマです。
人間の技術が人の生死にまで関わってきた現代ならではのテーマでしょう。
つまり、臓器スペアの固まりのような存在の彼ら。
魂がないと思えたら、気が楽でしょうね。
近い将来、クローンの国ができるかもしれません。
「アイランド」という映画がありましたね。
人間の不老不死の欲求はどこまでいくのやら…。
私は、もちろん彼らにも魂があるんだと思いました。
だから、トミーの叫びが胸を打ち、涙が溢れました。
なぜ、彼らはそんなにもけなげに、潔く運命を受け入れることができるのか。
ジャーナリズムに訴えたり、反乱を起こしたり、自殺をしたりはしないのかな?
でも、運命というものはそういうものかもしれないと、思ったりもします。
難病を抱えた人たち、かつての奴隷たち、紛争地域に生を受けた人たち、今回の原発事故のように、ただそこに住んでいたと言うだけで、故郷を離れなければならない人々。
叫んでも、訴えても、変えられない運命は確かにあるのです。
それなら、運命とどう向き合えばいいのか。
もう、私には答えることができません。
本当に残酷で、悲しい映画でした。
3人の若手俳優たちはとても素晴らしかったです。
特に、キャリー・マリガン、自分を抑え、トミーに対する愛が溢れた演技、すばらしかったです。