クメール人のオッパイ               

クメール人のオッパイ               2008.8.20. 金森正臣

 これは4月ごろに、カンボジア日本人会の会報に書いたものです。

 乳房は本来、哺乳類が子どもを育てるために発達した。起源的には単孔類(カモノハシ)と同じ様に汗の腺が発達したものと考えられている。しかし様々な変化があり、出産する子どもの数に応じて、数が決まっている傾向にある。付着する位置も、胸部(ヒトや多くのサルの仲間、ゾウなど)、腹部(ネズミ類やブタ)、鼠径部(ソケイブ:もものつけね)(多くの蹄のある動物)など様々である。

 動物は普通、発情期があり、セックスは子孫を残すためだけに行われる。しかし、ヒトとピグミーチンパンジーだけは、発情期が外見的には不明になり、いつでもセックスができる状態になった。この2種類に関しては、セックスは子孫を残すためだけではなく、個体間のつながりを保つための要素になっている。ピグミーチンパンジーでは、乳頭が発達していないから、ヒトだけが、異性を引き付ける役割を乳頭の発達に求めたのだろうか。立ち上がっているので、前面に出ていて目立ちやすいことからであろう。

 アンコールワットを見学していると、多くのデバータやアプサラ(女官や舞姫)の彫刻に出会う。いずれも上半身は衣類を着けず、立派な体格と豊かな胸をしており、クメール人がこの様な人々であったろうと想像される。体格は太く短く、がっしりした骨盤の張った安産多産型であり、現在のカンボジア人にもこのタイプは多い。
 現在のカンボジアの女性も、胸が立派である。日本人に比べて、オッパイの立派な女性の割合は、はるかに高い。その上に、より強調するために、ブラジャーに厚いパットを入るからますます、立派に見える。あまり女性の下着売り場などを見ないから、日本人がどの程度の増量を試みているかは知らないが、カンボジアでは市場の目立つところに置かれているから、嫌でも目に付く。身長に対する胸囲の大きさは、カンボジア人の方が上であると思われる。

 少し下に目を移すと、30代に入るとカンボジア人はお腹も立派で、オッパイ以上に出ている。したがって胸が大きな割には、目立たない。だいたい途上国では、飢えから解放されて食料が十分になると、肥満化が加速する。アフリカの多くの国々では、まずお巡りさんが肥り出す。小遣いがせしめられる様になり、食い気に走るからであろう。カンボジアも例外ではなく、数年前に比べるとプノンペンでは明らかに肥満が増加している。

 女性が胸を強調するのは、現在は男性に対する性のアピールである。進化史的には子どもを育てられる象徴としての意味があったであろう。人口乳なども発達して、胸の大きさは必ずしも子孫繁栄を意味しないが、男性の価値観が置換されて乳房そのものに引かれる傾向がある。乳房の大きさは、乳量と比例しないのは、動物の一般的なもので、飼育したことのあるヤギ・ヒツジ・ウシなどでも乳房の大きさと乳量は比例しない。むしろ精神的安定の良い母親は乳量が多い。サルなどでも、乳房の発達は著しくなく、オスを引き付ける役には立っていない。人類は直立して前面が相手に直接見えることから、かなり特殊な方向に進化したと言える。ヒトの乳房は付く位置にも特徴があり、成長すると普通はやや脇に向いて付く。たぶん4足歩行の時代に脇に向いていた方が、授乳し易かったからであろう。多くの動物でも乳頭は外に向いている。ブラジャーなどで矯正して無理やり正面に向けているのは、なんだか無理が有る様に感じる。デバータやアプサラも乳頭が正面を向いているから、この位置の方が、若く美しく見えたりするのだろうか。とすればやや外側を向くと、あまりにも機能一辺倒で、異性を引き付ける魅力に欠けるのかかもしれない。

 人類学的には、それぞれの人種ごとに形態はかなり異なっている。成長するに従って性ホルモンの増加と共に発達し、出産を繰り返すとさらに発達する。一般に白人は、体全体が大きく、胸の発達も良い。黒人は、さまざまに分化しているが、乳房は発達し長くなる傾向にある。授乳が進むとますます長くなり、本人が乳頭を直接口に持って行けるのは、黒人ぐらいであろう。アフリカで使っていたトラッカー(原野で動物を追跡するために雇う現地人)は26歳であったが、その母親はまだ出産を繰り返していた(私が知っているのは16人目の子ども)。トラッカーの子どもがおばあさんの子ども(おばさんに当たる)をあやしていた。この母親は、乳房が30センチ以上あり、左右で結ぶことも出来たし、肩に担ぐことも出来た。靴下状に長く、先端だけに血管が発達し機能していることを示していた。白人の乳房が大きいからと言って、この様な方向に成長した例は見られない。黄色人種は、一般には白人や黒人より胸が小さい傾向にある。これは環境(摂取できる栄養状況など)によるものか遺伝的なものかは明らかではない。

 カンボジアの地方では、まだ時々授乳を人前でする光景を見かける。昔の日本を見ているようで懐かしい。3月にプレイベンに乗り合いバスで出かけた時に、小さな子どもがぐずりだしたら、若いお母さんが大きなオッパイを出して授乳を始めた。ハイエースクラスのワンボックスカーに26人も乗っており混んでいるから周囲のおばさんが荷物などを持ってやってようやく授乳が可能になった。しばらくすると子どもは幸福そうな眠りについた。おばさんたちは、子どもを覗き込みながら何か大笑いをして楽しそうだった。いつからブラジャーをするようになったのか知らないが、アフリカでは今でも上半身は覆わない、スワッジランドやモシなどの部族が見られる。だからと言って特別に性的なマナーが低いわけではない。ヨーロッパの中世の絵画を見ていると、若い娘さんがオッパイ丸出しでパーティーの接待をしていることがある。隠すことにどの様な意味があるか不明である。
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