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●科学技術ニュース●東京大学、ヒト骨格筋の分化過程における新たな遺伝子発現制御機構を発見

2022-05-18 09:34:14 |    生物・医学
 東京大学 大学院工学系研究科化 学生命工学専攻の野田 悠太 大学院生(研究当時)、岡田俊平 特任研究員(研究当時)、鈴木 勉 教授のグループは、ヒトの筋芽細胞が骨格筋へと分化する前期と中期において、SELENONの発現が高く保たれ、後期において、発現量が徐々に低下する仕組みを明らかにした。その仕組みから、新規の遺伝子発現制御機構が見つかった。

 SELENONのmRNA前駆体にはAlu反復配列が含まれており、mRNAスプライシングの過程でこの一部がエキソンとして取り込まれるとナンセンス変異依存mRNA分解機構(nonsense mediated mRNA decay、NMD)により発現が抑制される。

 筋分化の前期から中期にかけて、RNA結合たんぱく質とRNA修飾が、序列的に作用することで、Alu反復配列のエキソン化が抑制され、SELENONたんぱく質の発現が維持されることが判明した。

 2つ目の制御機構は、特殊翻訳の制御である。SELENONはセレン含有たんぱく質であり、活性中心にセレノシステイン(Sec)残基を有している。Secは終止コドンの1つであるUGAコドンによりコードされ、リコーディングと呼ばれる特殊なたんぱく質合成によって取り込まれる。

 同研究グループは、筋分化の中期から後期にかけて、多くのリコーディングに関与する因子の発現が低下することを見いだした。特にSecを受容したtRNASecが顕著に減少することで、UGA/Secコドンのリコーディングの効率が低下していることを明らかにした。この結果、筋分化の後期では、活性のあるSELENONが合成されず、またUGA/Secコドンが未成熟終止コドンとして認識されることで、SELENON mRNAはNMDの機構により分解され、発現量が低下することが明らかとなった。

 同研究により明らかとなった段階的な転写後制御機構により、筋分化の過程でSELENONの発現が精密に制御されることが示された。今後は、これらの制御機構の生理的意義を明らかにすることで、骨格筋形成のさらなる理解に加え、将来的にはSELENON関連疾患の治療法の開発や、加齢などによる筋力低下の改善につながることが期待される。

 また同研究で示されたリコーディングの制御はこれまで報告されていない新規の現象であり、遺伝子発現制御機構の理解において大きな概念的進歩をもたらすもの。<科学技術振興機構(JST)>
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