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●科学技術ニュース●QSTなど、レーザー光によるイオンビーム発生で世界最高速度を達成し粒子線がん治療装置の小型化へ道

2024-06-14 09:51:01 |    生物・医学
 量子科学技術研究開発機構(QST)関西光量子科学研究所 光量子ビーム科学研究部 先端レーザー科学研究グループ、西内満美子上席研究員、独国ドレスデンヘルムホルツ研究所(HZDR)のTim Ziegler博士研究員、Karl Zeilグループリーダー、英国インペリアルカレッジロンドンのNicholas Peter Dover研究員らの国際共同研究グループは、HZDRの高強度レーザー施設「Dracoレーザー」を用いて、過去四半世紀にわたり超えられなかったレーザーによるイオン加速の世界最高到達速度(光速の約40%、運動エネルギーでは100MeV)を更新し、光速の50%(運動エネルギーでは150MeV)のイオンビーム(陽子)の発生に成功した。
 
 粒子線がん治療は、患者の身体の外側から体内深部にあるがん細胞に向けて高速の陽子や炭素イオンなどのイオンビームを照射し、がん細胞を死滅させる治療法。

 その治療装置には大規模な加速器と専用の建物が必要であり、これが粒子線がん治療装置の普及を妨げる要因の1つとされている。

 加速器の大幅な小型化を可能とする技術として、高強度のレーザーを利用して高速のイオンを発生する「レーザーイオン加速」があり、その技術の高度化が、がん治療装置の大幅な小型化を実現し、その結果として治療の普及につながると期待されている。
  
 そのため、世界中の研究機関が過去四半世紀の間に世界最大規模のレーザー施設を活用して多くのイオン加速実験を実施してきた。しかしながら、これまで光速の40%を超えるイオンビームは発生できておらず、がん治療への応用の障害となっていた。
 
 同研究グループは、これまで、イオンを効率的に加速する多段階の加速手法を提唱していたが、今回その手法の実証実験を小型レーザーであるDracoレーザー(世界最大規模のレーザー施設で発生できるレーザー出力のわずか50分の1程度の出力)を用いて行った。

 レーザー光の条件(時間波形)を最適化することで多段階のイオン加速を実現した結果、世界最高速度に当たる光速の50%のイオンビームを、~20ミクロンメートル程度の領域で発生させることに初めて成功した。
 
 粒子線がん治療には陽子で光速の約55%が必要だが、今回の結果は、その速度の90%に達しており、あと一歩というところまで近づいた。

 今後、より高強度のレーザーを用いることで、既存の加速器を用いることなく、レーザー技術のみでがん治療にそのまま利用可能なイオンビーム発生が実現できると期待され、超小型のレーザー駆動・粒子線がん治療装置の完成に向けた大きなマイルストーンと位置付けられる。

 今回の結果は、四半世紀にわたって破ることができなかった光速の40%(運動エネルギーで100 MeV)の壁を、大きく上回る世界最高記録。

 また、世界最大規模のレーザー施設の出力(約1キロジュール)のわずか50分の1(20ジュール)のレーザーを用いて発生できたことも、重要なポイント。

 レーザー加速技術のみに基づく、次々世代の超小型重粒子線がん治療装置の実現に向けた一つのマイルストーンと位置付けられる。

 同研究結果をさらに進展させることで、陽子を治療に必要な速度に相当する光速の55%に加速する原理実証を目指す。

 将来的には、炭素イオンを治療に必要な速度に当たる、光速の73%まで加速することを目指し、その先にある超小型の重粒子線がん治療装置の実現につなげる。<量子科学技術研究開発機構(QST)>
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